Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 12

2021-11-29 12:07:01 | 日記

 おばさん、泣いているの?。感じた通り、自分の目に映った通り、当たり前の事を当たり前の様に私はおばさんに問い掛けた。その涙が余りにも美しかったからだろう。子供の目にも彼女の涙に烟る瞳は美しく煌めいて感じた。その煌めきには宝石の様に硬質な鉱物の美しさが宿っていた。

 おばさんは答えなかった。ただ静かに自分の頬を濡らす雫を手の甲で拭った。その後彼女は自分の顔を私から隠す様にしてその身を逸らした。そこで私が大丈夫?と、彼女に声を掛けようとした所でおばさんは彼女の夫の控えている階段へと歩み出した。

 夫の方もそんな彼女の様子を黙認して、寡黙にじいっと眺めていた。ごめんね、あんた。おばさんの声が聞こえる。と、彼はいや、いいんだと答えていた。私はおばさんの方が悪かったのかと漠然と思った。見るとおじさんは彼の妻の顔から視線を外し、彼の傍へとその視線を落とした。妻はそんな夫の横を擦り抜けると彼の後方の階段奥、登り口の少し広くなった場所に避難する様にして身を落ち着けた。

 低めの声で、夫は妻に大丈夫なのかと声を掛けた。彼は胸に一物、何か言いたげな表情で自分の肩越しに妻を見遣った。そうして彼が何か言おうと口を開けた所で、ガラッ!、天井の上から2階でガラス戸を勢いよく開ける音が響いた。彼はハッとした顔で階段の上に目を遣ると、階上の物音を窺う間もあればこそ、サッと動きの有る勢いで階段の上へと姿を消した。

 彼が2階に上って見ると、息子の清が道に面した窓の傍に立っていた。きちんと服を着ている。その息子の姿に、父で有る彼は驚いた。彼は息子に向けてにこやかに笑顔を浮かべると、自分1人で出来たのかいと問い掛けた。子の方は、そんな風に笑顔を自分に向けて来る父の顔を窺うような面差しをしていた。それでも彼は父にウンと答えた。

 「偉いなぁ。」父は子を褒める事に余念が無かった。その後もヨイヨイと明るい言葉を子に掛けた。が、子の方は何やら思案投げ首の体で、その細い首の曲線を襟から外し空に白く晒していた。彼は斜め下から覗き込む様にして父の機嫌の良さそうな笑顔を意味あり気に観察していた。

 


うの華4 11

2021-11-26 15:43:21 | 日記

 おばさん何かあったんだ。子は自分の友人の母の瞳の色を読み取ると言った。

「おばさん、何か悲しい事が有ったんだね。」

 丁度、かつての一等近しい人の死の場面をその瞳に思い浮かべていた彼女はハッとした。幼さ故に無防備だった目の前の子供に、思わず自分の心の隙を突かれた様で、その幼い瞳に、自分が一番に大切に思う思いを仕舞い込んであった胸の奥底へと行成ズンと踏み込まれた様で、紛れも無い自分の真実を読まれた様で、そんな一種の恐怖を伴う嫌悪感が彼女を襲った。彼女は自分の子の友人に対して、今迄その子の身の上を親身に庇う様に寄せていた彼女の半身を起こし自分の身を後ろへと退いた。

 それから彼女は何か言おうとしたが、何も言葉が浮かんで来ない。頭は真っ白になった儘、その儘で、平時の様に彼女に機転を効かせて来ない。こんな時は焦ってみるとピンと来るのだが、そんな変化もこの時の自分には起きて来なかった。思う様に行かない彼女は、今し方の自分の迂闊さに腹が立ち眉間に皺を寄せた。彼女は目を欹てるとチッと舌打ちした。口からは、抜かったわ、と、小さくだがこの言葉も洩れた。

 商家のお上らしく、何時も遜り腰を低くして愛想がよい。彼女の、この普段の様子とは異にした雰囲気に、如何したのだろうと私は思った。おじさんと何かあったのだろうか。私は階段に立ち身じろぎもせず自分の妻の様子を見詰めている、私の友達の清ちゃんの父に一瞥を送った。その途端、ハッと彼女の方は身じろぎした。私の目の動きで、自分の夫の注意がこちらに向いている事を彼女は再認識したのだ。すると彼女は私からというよりも、自分の夫からその場を取り繕う事に、直ぐ様腐心し始めた。先ず彼女はその頬に笑顔を浮かべた。そうして、智ちゃんと私に対して優しく語りかけて来た。

 この様に彼女は飽く迄私に対して接しているという雰囲気を崩さなかったのだが、やはり彼女は精神的に無理をしていたのだ。見詰める私の目に、彼女の笑顔は徐々にピクつくと引き攣り始めた。頬が、口元が、そして私に語り掛けていた彼女の控え目な声音にも、遂にはビブラートが掛かり始めた。そうなるともう駄目だった。彼女の喉の奥でグッと音がした。と思うと、彼女の言葉は途絶えた。堪え切れなかったのだろう彼女の口から嗚咽が洩れ始めた。彼女の瞳の方もそうだ。溢れる透明な液体が出現していた。じいっと彼女の目元を覗き込む私の目に、それは明らかに純粋で美しい物として映った。そうして遂に、それは彼女の瞳を濡らす涙であるという事が私にも分かって来たのだ。

 


うの華4 10

2021-11-25 12:08:21 | 日記

 「竹馬の友」

彼女の唇から、この言葉とほうっとした微かに白く見える様な溜息が零れた。妻の言葉に階段の奥の空気が暗く淀んだ。彼女は慈しみのある微笑みを浮かべ玄関先へと静かに近付いて行った。

 玄関では子供がその淀んだ闇に気付いていた。子の意識は階段の暗がりが気に掛かる様子だ。自ずと視線もその闇へと向かい勝ちになり、友人の母親越しに子はチラチラと後を見遣るのだった。

「気に入らないんだよ。」

彼女は子に唐突に言葉を掛けた。「おじさんはこの言葉が嫌いなのさ。」彼女も気に入らなさ気に口にした。階段にいた夫はどキリとした様子で背筋を伸ばした。そうしてその階段に在った暗い雰囲気はみるみる改善した。

「俺にはそういった事が分からないんだ。」

彼は言い訳の様に口にした。そういう友達が俺にはい無かったから…。彼は言葉少なにそう言うと、静かに妻の方を見ながら立ち上がった。まだ彼の腰は引けている様子だった。夫の言葉に彼の妻は寂しそうな表情で彼女の視線を傍へと落とした。そんな夫婦2人の不協和音が奏でられる様子を、玄関にいた子供は具に目にしていたのだった。

 「竹馬の友だよ。」

怪訝な、自分の子の友人になった子の瞳に気付いて、彼女は再びこの言葉を口にした。が、今回のこの彼女の言葉は、ハッキリと彼女の目の前に佇む自分の子供の友人である子供に向けられていた。

 竹馬の友って、いいもんなんだよ。昔私にも、このおばさんにもいたんだよ。彼女は目を潤ませて語り出した。B 29でやられたんだ。天守堂と一緒に。ドカンって、音だけ、覚えてるんだ。

 友人の母の、おばさんの細く頼りな気な声に、子はジィッと彼女の目を見詰めた。そうしてその奥に在る彼女の悲哀を発見し、まじまじと覗き込んだのだった。


うの華4 9

2021-11-25 11:20:26 | 日記

 「友達だよ。友達は、友達だ。」

あの子からそう聞いているよ。とここで夫の後ろになっていた妻の声が入った。「ありがとう」囁くような声で、後方に目を遣ると夫は妻にか細く応じた。

 ここでバトンタッチ、声の出なくなった夫を見越して、彼の妻はその顔に笑みを作ると前方に身を乗り出して来た。夫は強張った体をずらす様にしてそんな妻と自分の位置を入れ替わった。そうしてその直後に、ストンと、項垂れた彼は妻の真後ろの階段の隙間にまるで吸い込まれる様に腰を落とすと、その儘、項垂れた儘で座り込んでしまうのだった。妻の方はそんな夫の姿に一瞥をくれると、直ぐに彼女の面を目の前の子に向けた。彼女は恐る恐る子に語り掛け始めた。彼女は努めて自分の相好を崩した儘にして置いた。

 「友達だよね、智ちゃんと家の清。」

目の前の子供は相槌を打って、ウンと首を縦に振るとフンと鼻の穴を膨らませた。よく有る『確かに』という子供等の行うボディランゲージだ、話し相手への合図だと彼女は思った。子供だねぇ、思わず彼女は呟いた。すると空かさず子の目にムッとした影が差した。

 「よく出来ている様でも子供だね。智ちゃんも。」

危ない危ない…。そう感じた彼女は、子供のご機嫌を損ねない様にと、茶目っ気の有る口調でこう子供のご機嫌を取った。そうしてその後も、彼女は二言三言と愛想の良い口調で子供への褒め言葉を並べると、曖昧に言葉を濁してその場を収めた。

 この時、この家の子の清の母である彼女は思っていた。目の前の智という名の子と、自分の子の清は今や既に幼い友人同士になっていたのだ、実際そうなのだ、と。今迄は自分の子の清の方の話だけだったと思うと、彼女の胸の内にジーンと湧き上がって来る熱い物が有った。

 


今日の思い出を振り返ってみる

2021-11-25 09:11:13 | 日記
 
今日の思い出を振り返ってみる

うの華 101 こんな古めかしい木のせいで怪我するところだった。「もう!」と私は床を掌でバシバシと打った。「痛!。」私は新しい痛みに声を上げた。床を打った掌を仰向けてみると、赤い血......
 

    雨の今朝。寒くなったせいか、はたまた暗いせいか、今日の目覚めは頗る悪かったです。何だか不安な近頃。

    スマホが不調になった頃から、何だか段々と不安感が増してくる感じです。何かの悪い兆しでなければよいのですが。私の悪い予感は当たりやすいので、不安。😓