Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 23

2019-07-30 11:28:27 | 日記

   外出していたらしい母が私の傍に現れた。母は玄関方向から階段のある部屋に入って来たのだ。

「あら、如何したの?、こんな所で。」

私が部屋にポツンと1人で立っていたものだから、母は怪訝に思ったようだ。ああ、お母さん。私は今までの一部始終をこれこれと話しながら、兎に角と、

「お祖父ちゃんの具合が悪いらしい。」

うつる病気なんだって。風邪らしい。だから、今、部屋には入れない。と母に告げた。

 驚いた事に、母は私の話、箇条書きの様で細切れの様な私の話が分かったらしい。この時点でのこの事は私には特異で奇妙に感じられた。普段の母は私の説明を殆ど理解してくれなかったのだ。私はそんないつに無く聡い母を不思議に思ったが、家の緊急時ともなれば違う物らしい。母は言った。

「お義父さんの病気は風邪じゃないだろう。」

えっ?風邪じゃない?

「じゃぁ、何の病気なの?」

驚き問いかける私に、さぁてねと、母は急に彼女本来の、私に全く無関心、無頓着な姿に立ち返った。二人の間には沈黙が流れた。後、母子は2人して閉められた障子戸に目を遣った。と、母が歩みだし障子戸に手を掛けた。

「あ、お母さん、開けちゃダメだよ。」

私は、祖母が誰も部屋に入らない様にする為閉めたのだ、と言った。すると、母はピクリと肩を聳やかせると振り返って私を睨む様に見詰めた。そして、徐に気に食わなそうに言葉を投げつけた。

「それは、お前の場合だろう。」

私は大人だし、この家の嫁なんだからね。当然部屋に入っても構わないんだよ。こう言うと、母は体の向きを戻して再び祖父母の部屋に続く戸を開けようとした。

 が、障子戸はピクリとも動かなかった。中で誰かが押さえているらしい。それは父だろうかと私は思った。母の力に負けない腕力の持ち主だ。次に母は両の手を添えて迄戸を引いたのだが、戸は確りと閉じられて全くピクリともしなかった。室内にいる家族の内の誰にそんな力が有るだろうか、それは父しかないだろうと私は考えを深めた。

   「今入ってはダメだ!」

その確りした元気な男性の声は、意外な事に祖父の声の様に私には聞こえた。如何やら病で臥せっている祖父の物の様だと考えると、私には何故祖父が起きて戸の側にいるのかが妙に思われた。聞き違いだろうか?。そう考え直していると、その元気で勢いのある声を、あれれ?と不思議に思ったのは私だけでは無かった。

「どこがお義父さんが病気なんだい。」

と、障子戸の傍にいた母に私は再び睨まれてしまった。


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