『外国に来てまで男の子に意地悪されるなんて、』
釈然としない気分のままテーブルに戻り始めた私に、過去に男の子達から受けた嫌な思い出が甦って来ました。今の男性に対して感じた不愉快で嫌な気分が、過去に同じ様な気持ちを感じさせた男の子達の事を思い出させ、過ぎ去った遠い出来事を私に連想させるのでした。
席に戻り、メロンと紅茶をテーブルに置いたままで、ボンヤリと窓を眺めていた私は暫くして窓の向こう側の動く影に気が付きました。そこには庭師らしい白人の男性がいて、箒を手に持ち落ち葉の掃除をしているのでした。彼は割合若い年代の男性のように見えました。20代くらいの白人男性でしょうか。私はぼんやりと思い出に耽っていたので、いつ彼が目の前に現れたのか全く気付きませんでした。そこで眼下の箒を見ると、そこにあったはずの箒が無くなっていました。彼の持っている箒が私の目の前に落ちていた箒に間違いないのでしょう。よく見ると外にはもう落ち葉が散っていました。彼は元々落ち葉の掃除をしていたのでしょう。一旦休憩していて続きを始めたようでした。
私は思い出に浸りながら目の前の窓を見詰めていたと思うと、知らない内に箒を取りに来た男性と目が合っていたのではないか?と心配になりました。記憶を甦らせながら様々な表情をしていただろうと思うと、複雑な表情で彼と目が合っていたかもしれないと思い、照れると共に気恥ずかしくなってしまいました。私は知らない間にとんだ誤解を受けたかもしれないと思ったのです。
そこでそれとなく庭の掃除をする男性を見てみると、特に何という事も無い様子でした。私には無関心な様子でせっせと掃き掃除中なのでした。私はほっとしました。まぁ、彼にしても、外国人の私にそう構う理由も無いからと思うと、私は取り越し苦労をするのを止めて海に視線をやりました。
相変わらず波の煌きが宝石のよう、光の漣のようです。気は晴れないかも知れないけれど、と、私は思いました。昨日一旦沈んだ後、綺麗な海水を見ても気持ちが晴れなかったように、今も一旦沈んだ気分は浮かんでは来ないかもしれない、それでも、嫌な事ばかり思い出すより、あの綺麗な光を見て美しい思い出に浸った方が良いに決まっている。そう決心すると、私は光のさざめきのみを注視するのでした。溢れる海上の光は目に眩いばかりに跳ね弾けさざめき合っていました。五線譜の波の上の旗付き音符のような軽やかさでした。