*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第9章 黒い雪」を複数回に分け紹介します。5回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介
前回の話:第9章 黒い雪 ※4回目の紹介
「これ以上、暴れると、公務執行妨害と威力業務妨害の現行犯で、逮捕するぞ!」
そう恫喝している。乗客のみならず、鉄道警察隊の面々も苛立っているのだ。
定刻を10分過ぎた22時10分、厳重な警備態勢のもとで、サンライズ瀬戸、サンライズ出雲が、東京駅のホームを出発した。乗車定員100%の満席である。
「当列車は、ただいま10分遅れで東京駅を出発いたしました。出発直前、ホーム及び車内が混在しましたことをお詫び申し上げます」
車内アナウンスが流れる・・・指定券で乗車していたのは、大半が、出張予定の男性サラリーマンと鉄道マニアであった。
東京では、自家用車で脱出するという選択肢はない、実際、東日本大震災に際しては、深夜1時になっても、たとえば西に向かう目白通り、新目白通り、早稲田通りでは、車がピクリとも動かない大渋滞が発生していた。
あのときは、放射能の危険はなかった。しかし、今回は違う・・・。
そのため、乗りそびれた女性や子連れの集団は、22時52分発の東海道本線熱海行のホームに殺到していた。これに乗れば、午前0時42分に熱海に到着し、そしてホームで一夜を明かせば、早朝の午前5時32分発浜松行に乗って、午前7時46分には掛川に辿り着ける。そうすれば、明日も西へ西へと、生き延びられるはずだ・・・。
羽田空港でも同様の騒ぎが起きていた。
午前0時5分発サンフランシスコ行の日本航空、午前0時5分発シンガポール行の日本航空、午前0時5分発ロサンゼルス行の全日空、午前0時10分ロサンゼルス行のデルタ航空、午前0時20分発バンコク行のタイ国際空港、午前0時25分発バンコク行きの全日空、午前0時30分発シアトル行きのデルタ航空、午前0時30分発ドバイ行のエミレーツ航空、午前0時30分発ジャカルタ行のガルーダ・インドネシア航空、午前0時40分発バンコク行の日本航空、午前0時55分発フランクフルト行の全日空、午前1時発ドーハ行のカタール航空、午前1時25分発ホーチミン行の日本航空・・・すべてが満席となっていた。
空港のカウンターは黒山の人だかりで、みな翌朝の便を必死で確保しようとしている。乗客の整理のため航空警察署の署員が総出で対応しているが、割り込みや場所取りが原因で、喧嘩がいたるところで起きている。人間は追い詰められると、礼儀を忘れ、生存本能が剥き出しになるのだ。
ところが24時間以上前、官房長官の2回目の記者会見を前に、朝イチで動いた日村を始めとした完了の家族、小口を始めとした政治家の家族、そして小島を始めとした電力会社の家族で、羽田も成田も、ひとしきり混雑が起こっていたのだ。
しかし、みな早めのチケットの確保で、スムーズに出国することができていた。これが国家権力に近いものだけに許された、プラチナ・チケットの本質であった。
※続き「第9章 黒い雪」は、5/25(月)22:00に投稿予定です。
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