タナカの読書メモです。
一冊たちブログ
公共図書館の論点整理
「公共図書館の論点整理」(田村俊作・小川俊彦/編 勁草書房 2008)
図書館の現場7。
タイトルどおりの本。
公共図書館についてよく論じられるトピックスをとりあげ、その論点について整理している。
書き手の年齢が幅広い。
1982年生まれから1939年生まれまで。
とりあげられたトピックスと書き手は以下。
・「無料貸本屋」論 安井一徳
・ビジネス支援サービス 田村俊作
・図書サービスへの課金 鈴木宏宗・渡邉斉志
・司書制度の限界 渡邉斉志
・公共図書館の委託 小川俊彦
・開架資料の紛失とBDS 小林昌樹
・自動貸出機論争 小林昌樹
どの論文も、各論の相違や、論の背景、それに論争の推移などを紹介してくれて、知らない者にとってはとても助かる。
ぜんぶをとりあげるのは大変なので、とりあえず「無料貸本屋」論についてだけメモを。
この論文は、どちらかというと引用文の羅列。
どうせなら箇条書きにしてくれればよかったのにと思った。
だから、それをしてみたい。
引用文には、ちゃんとだれがいつどんな雑誌に書いたのかということが、巻末の参考文献とあわせて読むことによって、わかるようになっているのだけれど、それがあんまり膨大で、めざす箇所をさがすだけでひと苦労なので、これもよしたい。
たんに、この論争にどんな言葉がとびかったかということだけを、時系列を無視して記してみたい。
ところで、無料貸本屋論というのは、公共図書館があまりにも市民に迎合し、貸出サービス偏重になりすぎているのではないかという批判のこと。
論争の推移を紹介したあとの、著者の結論は「議論がすれちがっていた」というもの。
「反「無」論者にとっては、「現状の公共図書館を問題視」すること自体が問題。だから、議論はかみあってはいけなかったとすらいえる」
この結論は、正鵠を射ているように思えるけれど、これを結論としてしまうと議論のディティールが吹き飛んでしまう。
その点が惜しいと思った。
では、以下、議論についてのメモを(長いですよ)。
「現状の公共図書館は貸出冊数という指標に偏重するあまり、蔵書の質を無視し、新刊ばかりをそろえた「無料貸本屋」になっている」
「専門性の認められない貸出業務を公共図書館でおこなう必要はなく、行政資料の提供など他のサービスを充実させるべき」
「公共図書館が「貸出至上主義」を採用した結果、「書棚と貸出カウンター以外なにもない、図書館というよりも親切な無料貸本屋みたいになってしまった」
「貸出冊数増加の原因として、公共図書館が市民に迎合してベストセラーを大量購入する「公立無料貸本屋」となっており、そうした現状が出版業界の脅威となっている」
「公共図書館によるベストセラーの大量購入が出版衰退の一因となっており、良書の購入や新刊の貸出制限などをすべし」
「公共図書館におけるベストセラーの複本購入が作家の著作権を侵害している」
「日本推理作家協会は図書館における貸出猶予期間の導入を提案」
「公共貸与権の導入をもとめる」
(「公共貸与権(公貸権)」というのは、「公共図書館で貸し出された著作物の著者が財産権の不当な侵害として、貸出によってもたらされる損失の補填を要求する権利」のこと。イギリスや北欧諸国、オランダ、カナダ、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドなどで行われているが、その実態は相当にちがう。「現代社会と図書館の課題」という本にあった森智彦さんの文章が、読んだかぎりではいちばんわかりやすかったけれど、この本はどこで読んだんだっけかなあ)
「無料貸本屋という表現は、提供する資料を小規模、低レベルにみせるとともに「無料」という表現によって過剰サービス、無駄なサービスという印象をあたえる」
「貸出サービス偏重がもたらす主な弊害は以下のようになるだろう。
・貸出サービス以外のサービス(レファレンス、郷土資料、行政資料など)が疎かになる。
・より多く貸し出される蔵書をもとめる結果、特定の資料が過度に購入される。
・貸出サービスが充実するほど、ほかのアクター(著者、出版社、書店など)にあたえる経済的損害が大きくなる」
「レファレンス(調べものサービス)は貸出の基礎の上に築かれるものであって、貸出抜きのレファレンスなどありえない」
「充実した貸出なくして内実あるレファレンスはありえない」
「貸出という土台の上にほかのサービスが成り立つ」
「そして他のサービスは、貸出を発展させる機能を担う」
「貸出の数値は結果であり、住民の実際の利用と支持の広がりを目に見える形で示すサービス全体のバロメーター」
「戦後の公共図書館は大衆への貸出サービスということに重点が置かれるようになったため、レファレンス業務がおろそかになる傾向が出てきました」
「公共図書館の同一作品の大量購入は、利用者のニーズを理由としているが、実際には貸出回数を増やして成績を上げようとしているにすぎない」
「貸出サービスはあくまでサービスの一部なのに、図書館のサービスの中心であると主張することにより、ほかのサービス発展の可能性を阻害する結果をもたらした」
「読書はきわめて個別的なものであって、他人が干渉すべきものではない」
「本当にむだ使いなのは、だれにも読まれない本を購入しておいて、その本をいつまでも書架にならべておくことである」
「公立図書館が複本をたくさん購入する最大の理由は、予約しているる人を長く待たせないためである」
「なんでも要求があれば買うべきだという論には、私はくみしない」
「じゃあ利用が少ないからその本はいらないのかというと、そういうことではないと思うね」
「読み捨てられるベストセラーは公共図書館では蔵書とせず、これこそ市民個人の購入にゆだね、市民が個人として買えないような基本図書を中心とする」
「値段は高いけれども、文化的、学術的に価値の高い本を図書館が購入し、蔵書として保存する」
「もし読書という形で「娯楽」を得ようと思うならば、その本は買って読むのが当然の礼儀である」
「ベストセラーをリクエストされたら「そんな本くらい自分でお買いになったらいかがですか。うちは無料貸本屋ではありません」といえるくらいの自負をもったらどうか」
「貸出中心でベストセラーの複本をそろえるということを続けてきた図書館には、ベストセラーを求める利用者の声が集まります」
「利用者の声を聞くことは、そうした図書館の現状を肯定することになるのです」
「大量購入の同一著作によりかかったイージーな要求即応主義は、公共図書館が利用者と馴れ合った安直なサービスといえないか」
「図書館コレクションのありかたは、消費主義と一線を画した公共性の原則を図書館側が組み立てた上で決定すべきである」
「どこかで公共的な価値の実現のために、市民の要求すべてを受け入れるわけにはいかなくなる」
「本の売れない最大の原因は不況」
「出版の内部の問題をどこか外へ転嫁してるんじゃないか」
「図書館は新刊本やベストセラーばかり貸し出しているのではない」
「図書館でのベストセラーは一時的に利用されているのではなくて、書店のブームが去ったあとでも、もっともよく読まれる本として、相当長期間にわたって読まれている」
「書店のベストセラーと図書館のベストリーダーは性格が異なる」
「図書館は出版界のために存在するわけではありません」
「われわれが向いているのは出版界じゃなくて利用者ですから」
「図書館利用が活発な自治体では、図書館が市民の本に対する購買意欲を掘り出している」
「読書の娯楽に供すべく営々努力して本を書き、それを出版している人たちに対して、何らの対価を払うことなく無代で之を楽しむ、とそんなことをどうして図書館が奨励するのであるか」
「公共図書館が純文学を支えないと日本の文学は滅んでしまう」
「純文学に代表される「高価な、しかし文学的には価値の高い本」を買い支えるのが図書館の重要な使命の一つであり、そのためにはそうした図書の購入はもちろん、公貸権のような著作者を支援する制度の導入も必要」
「公共貸与権による補償金というのは、あくまでも文芸文化の保護が目的です。流行作家の損失補填のために設けられるものではありません」
「公共図書館は出版(流通)産業が提供しえないものを提供するセーフティネットの役割を果たすものである」
「何が一番読者として手に入りにくいかといったら、ちょっと古くなった逐次刊行物です」
「租税によって運営される図書館が、総体としては出版文化の発展に寄与していても、部分的に出版市場と相対立するような行動原理でふるまうことが許されるのか」
「客観的数値が出れば、論争にも一応の決着がつくのではないかという期待がかつて存在していた。日本図書館協会と日本書籍出版協会による「公立図書館貸出実態調査2003」にも、そのような期待が向けられていたはずである」
「だが、数字自体は客観的であっても、その数字の解釈や比較対象は立場によりまったく異なるものだった」
「たとえば図書館員からみれば、貸出全体のなかに占める特定のタイトルの割合が問題になると考えられ、その場合、どんなベストセラーであろうと、まず間違いなく微々たる値になるはずである」
「いっぽう、そのタイトルの著者からみれば、売り上げ部数と図書館での貸出回数を比較するという、いわゆる「図書館提供率」に近い見方をするのが自然に感じられるかもしれない」
「さまざまな資料を扱う図書館関係者がいだくマクロな感触と、個々の本の作者や出版社が感じるミクロな思いのずれがこの論議の根底に横たわっていることは間違いない」
図書館の現場7。
タイトルどおりの本。
公共図書館についてよく論じられるトピックスをとりあげ、その論点について整理している。
書き手の年齢が幅広い。
1982年生まれから1939年生まれまで。
とりあげられたトピックスと書き手は以下。
・「無料貸本屋」論 安井一徳
・ビジネス支援サービス 田村俊作
・図書サービスへの課金 鈴木宏宗・渡邉斉志
・司書制度の限界 渡邉斉志
・公共図書館の委託 小川俊彦
・開架資料の紛失とBDS 小林昌樹
・自動貸出機論争 小林昌樹
どの論文も、各論の相違や、論の背景、それに論争の推移などを紹介してくれて、知らない者にとってはとても助かる。
ぜんぶをとりあげるのは大変なので、とりあえず「無料貸本屋」論についてだけメモを。
この論文は、どちらかというと引用文の羅列。
どうせなら箇条書きにしてくれればよかったのにと思った。
だから、それをしてみたい。
引用文には、ちゃんとだれがいつどんな雑誌に書いたのかということが、巻末の参考文献とあわせて読むことによって、わかるようになっているのだけれど、それがあんまり膨大で、めざす箇所をさがすだけでひと苦労なので、これもよしたい。
たんに、この論争にどんな言葉がとびかったかということだけを、時系列を無視して記してみたい。
ところで、無料貸本屋論というのは、公共図書館があまりにも市民に迎合し、貸出サービス偏重になりすぎているのではないかという批判のこと。
論争の推移を紹介したあとの、著者の結論は「議論がすれちがっていた」というもの。
「反「無」論者にとっては、「現状の公共図書館を問題視」すること自体が問題。だから、議論はかみあってはいけなかったとすらいえる」
この結論は、正鵠を射ているように思えるけれど、これを結論としてしまうと議論のディティールが吹き飛んでしまう。
その点が惜しいと思った。
では、以下、議論についてのメモを(長いですよ)。
「現状の公共図書館は貸出冊数という指標に偏重するあまり、蔵書の質を無視し、新刊ばかりをそろえた「無料貸本屋」になっている」
「専門性の認められない貸出業務を公共図書館でおこなう必要はなく、行政資料の提供など他のサービスを充実させるべき」
「公共図書館が「貸出至上主義」を採用した結果、「書棚と貸出カウンター以外なにもない、図書館というよりも親切な無料貸本屋みたいになってしまった」
「貸出冊数増加の原因として、公共図書館が市民に迎合してベストセラーを大量購入する「公立無料貸本屋」となっており、そうした現状が出版業界の脅威となっている」
「公共図書館によるベストセラーの大量購入が出版衰退の一因となっており、良書の購入や新刊の貸出制限などをすべし」
「公共図書館におけるベストセラーの複本購入が作家の著作権を侵害している」
「日本推理作家協会は図書館における貸出猶予期間の導入を提案」
「公共貸与権の導入をもとめる」
(「公共貸与権(公貸権)」というのは、「公共図書館で貸し出された著作物の著者が財産権の不当な侵害として、貸出によってもたらされる損失の補填を要求する権利」のこと。イギリスや北欧諸国、オランダ、カナダ、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドなどで行われているが、その実態は相当にちがう。「現代社会と図書館の課題」という本にあった森智彦さんの文章が、読んだかぎりではいちばんわかりやすかったけれど、この本はどこで読んだんだっけかなあ)
「無料貸本屋という表現は、提供する資料を小規模、低レベルにみせるとともに「無料」という表現によって過剰サービス、無駄なサービスという印象をあたえる」
「貸出サービス偏重がもたらす主な弊害は以下のようになるだろう。
・貸出サービス以外のサービス(レファレンス、郷土資料、行政資料など)が疎かになる。
・より多く貸し出される蔵書をもとめる結果、特定の資料が過度に購入される。
・貸出サービスが充実するほど、ほかのアクター(著者、出版社、書店など)にあたえる経済的損害が大きくなる」
「レファレンス(調べものサービス)は貸出の基礎の上に築かれるものであって、貸出抜きのレファレンスなどありえない」
「充実した貸出なくして内実あるレファレンスはありえない」
「貸出という土台の上にほかのサービスが成り立つ」
「そして他のサービスは、貸出を発展させる機能を担う」
「貸出の数値は結果であり、住民の実際の利用と支持の広がりを目に見える形で示すサービス全体のバロメーター」
「戦後の公共図書館は大衆への貸出サービスということに重点が置かれるようになったため、レファレンス業務がおろそかになる傾向が出てきました」
「公共図書館の同一作品の大量購入は、利用者のニーズを理由としているが、実際には貸出回数を増やして成績を上げようとしているにすぎない」
「貸出サービスはあくまでサービスの一部なのに、図書館のサービスの中心であると主張することにより、ほかのサービス発展の可能性を阻害する結果をもたらした」
「読書はきわめて個別的なものであって、他人が干渉すべきものではない」
「本当にむだ使いなのは、だれにも読まれない本を購入しておいて、その本をいつまでも書架にならべておくことである」
「公立図書館が複本をたくさん購入する最大の理由は、予約しているる人を長く待たせないためである」
「なんでも要求があれば買うべきだという論には、私はくみしない」
「じゃあ利用が少ないからその本はいらないのかというと、そういうことではないと思うね」
「読み捨てられるベストセラーは公共図書館では蔵書とせず、これこそ市民個人の購入にゆだね、市民が個人として買えないような基本図書を中心とする」
「値段は高いけれども、文化的、学術的に価値の高い本を図書館が購入し、蔵書として保存する」
「もし読書という形で「娯楽」を得ようと思うならば、その本は買って読むのが当然の礼儀である」
「ベストセラーをリクエストされたら「そんな本くらい自分でお買いになったらいかがですか。うちは無料貸本屋ではありません」といえるくらいの自負をもったらどうか」
「貸出中心でベストセラーの複本をそろえるということを続けてきた図書館には、ベストセラーを求める利用者の声が集まります」
「利用者の声を聞くことは、そうした図書館の現状を肯定することになるのです」
「大量購入の同一著作によりかかったイージーな要求即応主義は、公共図書館が利用者と馴れ合った安直なサービスといえないか」
「図書館コレクションのありかたは、消費主義と一線を画した公共性の原則を図書館側が組み立てた上で決定すべきである」
「どこかで公共的な価値の実現のために、市民の要求すべてを受け入れるわけにはいかなくなる」
「本の売れない最大の原因は不況」
「出版の内部の問題をどこか外へ転嫁してるんじゃないか」
「図書館は新刊本やベストセラーばかり貸し出しているのではない」
「図書館でのベストセラーは一時的に利用されているのではなくて、書店のブームが去ったあとでも、もっともよく読まれる本として、相当長期間にわたって読まれている」
「書店のベストセラーと図書館のベストリーダーは性格が異なる」
「図書館は出版界のために存在するわけではありません」
「われわれが向いているのは出版界じゃなくて利用者ですから」
「図書館利用が活発な自治体では、図書館が市民の本に対する購買意欲を掘り出している」
「読書の娯楽に供すべく営々努力して本を書き、それを出版している人たちに対して、何らの対価を払うことなく無代で之を楽しむ、とそんなことをどうして図書館が奨励するのであるか」
「公共図書館が純文学を支えないと日本の文学は滅んでしまう」
「純文学に代表される「高価な、しかし文学的には価値の高い本」を買い支えるのが図書館の重要な使命の一つであり、そのためにはそうした図書の購入はもちろん、公貸権のような著作者を支援する制度の導入も必要」
「公共貸与権による補償金というのは、あくまでも文芸文化の保護が目的です。流行作家の損失補填のために設けられるものではありません」
「公共図書館は出版(流通)産業が提供しえないものを提供するセーフティネットの役割を果たすものである」
「何が一番読者として手に入りにくいかといったら、ちょっと古くなった逐次刊行物です」
「租税によって運営される図書館が、総体としては出版文化の発展に寄与していても、部分的に出版市場と相対立するような行動原理でふるまうことが許されるのか」
「客観的数値が出れば、論争にも一応の決着がつくのではないかという期待がかつて存在していた。日本図書館協会と日本書籍出版協会による「公立図書館貸出実態調査2003」にも、そのような期待が向けられていたはずである」
「だが、数字自体は客観的であっても、その数字の解釈や比較対象は立場によりまったく異なるものだった」
「たとえば図書館員からみれば、貸出全体のなかに占める特定のタイトルの割合が問題になると考えられ、その場合、どんなベストセラーであろうと、まず間違いなく微々たる値になるはずである」
「いっぽう、そのタイトルの著者からみれば、売り上げ部数と図書館での貸出回数を比較するという、いわゆる「図書館提供率」に近い見方をするのが自然に感じられるかもしれない」
「さまざまな資料を扱う図書館関係者がいだくマクロな感触と、個々の本の作者や出版社が感じるミクロな思いのずれがこの論議の根底に横たわっていることは間違いない」
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