タナカの読書メモです。
一冊たちブログ
さらに最近読んだ本いろいろ
まだ忙しさが去らない。
更新もしてないのにきてくださっているかたには、ほんとうに申し訳ないです。
今回も、読んだ小説についていくつか小さなメモを。
「ガールハンター」(ミッキー・スピレイン 早川書房 1962)
訳は小笠原豊樹。
ハヤカワポケットミステリの一冊。
ハードボイルド。
名高い私立探偵マイク・ハマーもので、このシリーズを読むのははじめて。
マイク・ハマーものの第一作は、スピレインの処女作でもある「裁くのは俺だ」。
その後、シリーズが何作続いたのか知らないけれど、訳者あとがきに「9年ぶりのマイク・ハマー」とあるから、ずいぶん間が空いて出版されたもののよう。
原書の出版は1962年。
同じ年に翻訳が出版されている。
当時はとても人気があったのだろう。
訳者の小笠原さんも、「ペイパーバックになれば、かるく百万部は売れるだろう」と書いている。
いまは読むひとはいるだろうか。
さて、ストーリー。
〈おれ〉の一人称。
冒頭、マイク・ハマーはアル中の姿で読者のまえにあらわれる。
ハマーがアル中になったのは、秘書であり愛した女だったヴェルダの死を、自分の責任だと思いつめたため。
ドブで発見されたハマーは、チェンバース警部の手により、ある死にかけた男に引きあわせらる。
その男は、ヴェルダは生きているという。
しかも、自分を殺った殺し屋にヴェルダも狙われていると告げる。
かくして、ハマーはヴェルダを捜し出すため奔走する。
ハマーの旧友であるチェンバース警部は、ヴェルダのことが好きだったので、ハマーに対し愛憎半ばした気持ちをもっている。
ハマーは、捜査の過程で美女と遭遇、雨の街をさまよいながら考えごとをし、いつでも軽口を忘れない。
会話はテンポがよく、くり返しが多い。
「逢えてよかったな、マイク」
「逢えてよかったな、ナット」
と、いった具合。
ほとんどパロディとみまごうばかりの紋切り型。
紋切り型はきらいではなく、むしろ好きなくらい。
紋切り型というのは、親切でつかわれるものじゃないだろうかと思う。
それに、紋切り型は、一片の真実が含まれているからこそ紋切り型になるものだし。
けれど、あんまり多用されると、賞味期限が切れてしまったような感じをうける。
表現が擦り切れ、現実感がとぼしくなってしまう。
まるで全編、アル中のハマーがみた夢のような小説。
とはいうものの、シリーズ第一作の「裁くのは俺だ」には、もっと切迫感があったのかも。
いずれ、読んでたしかめてみなくてはいけないか。
ときどき、ハマーが内省的になると、文章がカタカナになる。
原文ではイタリックで書かれていたのかもしれない。
「迷宮1000」(ヤン・ヴァイス 創元推理社 1987)
創元推理文庫の一冊。
訳は、深見弾。
著者はチェコの作家。
内容は、幻想探偵譚とでもいうべきもの。
とある男が目覚めたのは、千階建てのビルディング。
男は記憶を失っていたが、ポケットに残ったメモから、自分がピーター・ブロークという名の探偵であること、失踪したタマーラ姫をもとめてこのミューラー館に潜入したことなどを悟る。
ピーターは、姫をさがしだし、館の謎を解くために探索を開始する。
なにも知らない主人公が徐々に知識を得ていったり、全編、巨大な建物のなかで話が進むところなど、読んでいるあいだ、ロールプレイング・ゲームのダンジョンをさまよっているような感じ。
ミューラー館は、全知全能のヒスファー・ミューラーに支配されており、その建物のなかでは労働者階級が革命を起こそうとしている。
また、ミューラーは巨大総合商社〈宇宙〉を経営し、ひとびとを他の惑星に移住させている。
なんというか、なつかしさと奇抜さがまざりあったような設定。
原書の刊行は1929年。
訳者あとがきによれば、これほどみごとにナチスのガス室を予見した作品は皆無といっていいとのこと。
この作品が、半分くらい賞味期限が切れながらもまだ読めるのは、情報のだしかたがたくみなのと、構成がよくできていること、あとやはり筆力があるためだと思う。
設定だけでは小説は書けない。
全編、建物をさまようだけの小説が面白く読めるのだから、その想像力には感心してしまう。
この本も、あんまり読むひとがいないだろうから、もうちょっとメモがとりたいなあ。
「恐怖の兜」(ヴィクトル・ペレーヴィン 角川書店 2006)
新・世界の神話シリーズの一冊。
訳は、中村唯史。
迷宮小説をもう一冊。
これはロシアの小説。
目覚めると、それぞれ見知らぬ部屋にいた8人の男女。
部屋にはパソコンがあり、登場人物たちはチャットをしながら、状況を確認していく。
どうも、この世界はミノタウロスが君臨している世界らしい。
すると、われわれは迷宮にとらわれているのか。
ミノタウロスの神話と同じように、テセウスを待つ8人に、意外な真実が訪れる。
チャットをならべた文章なので読みやすい。
この「意外な真実」を目にしたときは、思わず笑ってしまった。
手法と真実が結びついている点で、じつによくできている。
けれど、ひとによっては怒るひともいるかも。
だれかに薦めるときには、注意が必要だ。
毎日ちょっとずつ読んでいる「オリヴァー・ツイスト」は、現在下巻に突入。
「大いなる遺産」にくらべると、理屈と、気の利いた感じのうるさい表現が多く、いかにも若い感じがする。
とはいえ、面白い。
「オリバー…」を読んだらつぎはディケンズのなにを読もうかと、いまから考えている。
更新もしてないのにきてくださっているかたには、ほんとうに申し訳ないです。
今回も、読んだ小説についていくつか小さなメモを。
「ガールハンター」(ミッキー・スピレイン 早川書房 1962)
訳は小笠原豊樹。
ハヤカワポケットミステリの一冊。
ハードボイルド。
名高い私立探偵マイク・ハマーもので、このシリーズを読むのははじめて。
マイク・ハマーものの第一作は、スピレインの処女作でもある「裁くのは俺だ」。
その後、シリーズが何作続いたのか知らないけれど、訳者あとがきに「9年ぶりのマイク・ハマー」とあるから、ずいぶん間が空いて出版されたもののよう。
原書の出版は1962年。
同じ年に翻訳が出版されている。
当時はとても人気があったのだろう。
訳者の小笠原さんも、「ペイパーバックになれば、かるく百万部は売れるだろう」と書いている。
いまは読むひとはいるだろうか。
さて、ストーリー。
〈おれ〉の一人称。
冒頭、マイク・ハマーはアル中の姿で読者のまえにあらわれる。
ハマーがアル中になったのは、秘書であり愛した女だったヴェルダの死を、自分の責任だと思いつめたため。
ドブで発見されたハマーは、チェンバース警部の手により、ある死にかけた男に引きあわせらる。
その男は、ヴェルダは生きているという。
しかも、自分を殺った殺し屋にヴェルダも狙われていると告げる。
かくして、ハマーはヴェルダを捜し出すため奔走する。
ハマーの旧友であるチェンバース警部は、ヴェルダのことが好きだったので、ハマーに対し愛憎半ばした気持ちをもっている。
ハマーは、捜査の過程で美女と遭遇、雨の街をさまよいながら考えごとをし、いつでも軽口を忘れない。
会話はテンポがよく、くり返しが多い。
「逢えてよかったな、マイク」
「逢えてよかったな、ナット」
と、いった具合。
ほとんどパロディとみまごうばかりの紋切り型。
紋切り型はきらいではなく、むしろ好きなくらい。
紋切り型というのは、親切でつかわれるものじゃないだろうかと思う。
それに、紋切り型は、一片の真実が含まれているからこそ紋切り型になるものだし。
けれど、あんまり多用されると、賞味期限が切れてしまったような感じをうける。
表現が擦り切れ、現実感がとぼしくなってしまう。
まるで全編、アル中のハマーがみた夢のような小説。
とはいうものの、シリーズ第一作の「裁くのは俺だ」には、もっと切迫感があったのかも。
いずれ、読んでたしかめてみなくてはいけないか。
ときどき、ハマーが内省的になると、文章がカタカナになる。
原文ではイタリックで書かれていたのかもしれない。
「迷宮1000」(ヤン・ヴァイス 創元推理社 1987)
創元推理文庫の一冊。
訳は、深見弾。
著者はチェコの作家。
内容は、幻想探偵譚とでもいうべきもの。
とある男が目覚めたのは、千階建てのビルディング。
男は記憶を失っていたが、ポケットに残ったメモから、自分がピーター・ブロークという名の探偵であること、失踪したタマーラ姫をもとめてこのミューラー館に潜入したことなどを悟る。
ピーターは、姫をさがしだし、館の謎を解くために探索を開始する。
なにも知らない主人公が徐々に知識を得ていったり、全編、巨大な建物のなかで話が進むところなど、読んでいるあいだ、ロールプレイング・ゲームのダンジョンをさまよっているような感じ。
ミューラー館は、全知全能のヒスファー・ミューラーに支配されており、その建物のなかでは労働者階級が革命を起こそうとしている。
また、ミューラーは巨大総合商社〈宇宙〉を経営し、ひとびとを他の惑星に移住させている。
なんというか、なつかしさと奇抜さがまざりあったような設定。
原書の刊行は1929年。
訳者あとがきによれば、これほどみごとにナチスのガス室を予見した作品は皆無といっていいとのこと。
この作品が、半分くらい賞味期限が切れながらもまだ読めるのは、情報のだしかたがたくみなのと、構成がよくできていること、あとやはり筆力があるためだと思う。
設定だけでは小説は書けない。
全編、建物をさまようだけの小説が面白く読めるのだから、その想像力には感心してしまう。
この本も、あんまり読むひとがいないだろうから、もうちょっとメモがとりたいなあ。
「恐怖の兜」(ヴィクトル・ペレーヴィン 角川書店 2006)
新・世界の神話シリーズの一冊。
訳は、中村唯史。
迷宮小説をもう一冊。
これはロシアの小説。
目覚めると、それぞれ見知らぬ部屋にいた8人の男女。
部屋にはパソコンがあり、登場人物たちはチャットをしながら、状況を確認していく。
どうも、この世界はミノタウロスが君臨している世界らしい。
すると、われわれは迷宮にとらわれているのか。
ミノタウロスの神話と同じように、テセウスを待つ8人に、意外な真実が訪れる。
チャットをならべた文章なので読みやすい。
この「意外な真実」を目にしたときは、思わず笑ってしまった。
手法と真実が結びついている点で、じつによくできている。
けれど、ひとによっては怒るひともいるかも。
だれかに薦めるときには、注意が必要だ。
毎日ちょっとずつ読んでいる「オリヴァー・ツイスト」は、現在下巻に突入。
「大いなる遺産」にくらべると、理屈と、気の利いた感じのうるさい表現が多く、いかにも若い感じがする。
とはいえ、面白い。
「オリバー…」を読んだらつぎはディケンズのなにを読もうかと、いまから考えている。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
« 最近読んだ本... | 「新カンタベ... » |
「迷宮1000」は、僕も好きな作品です。ストーリー自体が、あんまりあっさりしすぎているのと、結末がちょっと…というところもありますが、やっぱり背景になる館のイメージが素晴らしいですね。
「恐怖の兜」も気になっていた作品なんですけど、けっこう面白そうですね。
最近ディケンズは、僕もあんまり読んだことないんですけど、いつか読もうと思って、本だけは集めてます。文庫だとけっこう長くなるものも多いので、むかしの文学全集のディケンズの巻を古本屋で集めてます。『リトル・ドリット』とか『オリヴァー・ツイスト』とか。
そういえば、一般に文学全集の端本って、安く売られてるんですけど、ディケンズの巻は人気のあるせいか、特別高い値段がついていることが多いですね。文庫では手に入らない作品もあるようだし。
ウィルキー・コリンズは好きなので、ディケンズも読み始めたら楽しめるでしょうか。
ドラマの面白さではなくて。
イメージが鮮烈なので、好きなひとは好きになるタイプの小説ですね。
ラストがちょっと…というのはよくわかります。
でも、このタイプの小説ではしかたないかもと思ったり。
「恐怖の兜」はさくさく読めるのでオススメです。
あんまり期待しないで読むのがコツかもです。
そうなんですよ!
ディケンズは、文学全集の端本ですぐみつかるだろうと思って、古本屋を2、3軒まわってみたんですが、みつからないんですよね。
案外みつからないんだなーと驚いています。
もうすぐ古本祭りがあるので、ディケンズをさがしにいこうかなあ。
とりあえず、「荒涼館」を手に入れたので、つぎはこれを読む予定。
コリンズは「月長石」しか読んだことないんですが、ディケンズのほうがはるかに劇的です(「月長石」はあののんびりしたところがいいんですが)。
それから、「大いなる遺産」とくらべた場合ですけれど、「大いなる…」のほうが味わいは複雑だと思いました。
以下は余談。
スピレインの「ガールハンター」を読んで思ったんですが、「帰ってきた男」というカテゴリもあるかなあと。
もちろん「帰ってきた女」でもいいんですが。
何年も時間が空いてもどってきたとき、どんなふうにあらわれるか。
ハマーはアル中になっているし、「ゲド戦記」4巻の「帰還」のゲドは魔法の力を失っている。
あるいはO・ヘンリの「20年後」とか。
いってみれば、「オデュッセウスの帰還」のヴァリエーション。
そんなことを気にして、ほかの小説を読んだら、また面白いかなと思いました。
訳は中田耕治。
私立探偵マイク・ハマーは戦友のジャックが何者かに殺されたことを知り、犯人に復讐を誓う。
チェンバース警部に先を越されまいと捜査を開始。
秘書のヴェルダとの軽口を楽しみながら、関係者から事情を聴取するが、その後もつぎつぎと被害者が。
捜査の過程で出会った、美人精神科医との結婚を決意するが…。
友人の死と麻薬がらみの事件、それに娼婦と美女。
というわけで、第一作目を読んでも、紋切り型の印象はぬぐえなかった。
被害者が友人だったり、恋人だったりすると、似たような話になりやすいのかも。
ただ、ハマーが結婚を決意したのにはびっくり。
あと、悪党が娼婦をつくりだすカラクリが面白かった。
ストーリー構成は、古典的といっていいほど。
関係者から事情を聞き、状況が推移し、ラストは探偵による長広舌の推理の披露がある。
もっとバイオレンスな作品なのかと思っていたけど、そんなことはなかった。
でも、いったり考えたりすることは乱暴だ。
自分にいいきかせるような心理描写はこの作品からつかわれていた。