ケンリック3冊

また、最近読んだ本の話――。

トニー・ケンリックの小説を3冊読んだ。

「俺たちには今日がある」(トニー・ケンリック 角川文庫 1985)
「三人のイカれる男」(トニー・ケンリック 角川文庫 1987)
「バーニーよ銃をとれ」(トニー・ケンリック 角川文庫 1982)

読んだ順番にならべた。
ケンリックの作品で一番有名なのは「スカイジャック」(角川文庫 1974)だろう。
360人の乗客をのせた旅客機が突如消息を絶つという魅力的な謎を、ユーモラスな筆致で書いた快作だ。
「スカイジャック」ほど有名ではないけれど、ケンリックの小説はどれも楽しめる。
今回、3冊読んでみて、そのことを実感。
では、簡単に各作品について。

「俺たちには今日がある」(トニー・ケンリック 角川文庫 1985)
あとひと月の命と不治の病を宣告されたハリー。
同じ病をもつグレースと知り合い、2人はたまたまギャングに脅されている男、ラムジーを救う。
ギャングはラムジーの所有しているベーカリーを手に入れようとしているのだが、、ラムジーはその要求を跳ねのけ、ベーカリーをリサイタルホールに改装しようとしているのだ。
ラムジーの考えに賛同した2人は、どうせあとひと月の命だとばかりにギャングに挑戦するのだが…。

ギャングが雇っている連中を味方につけていく、というのが2人の作戦。
この作戦が、スラップスティック風に書かれていて、大変楽しい。
不治の病という以外、病気についてまったく触れないのに、作品が成立しているところもすごい。
油断すると難病ものになってしまいそうなのに、そちらに舵をとられない。
ただ、ラストが…。
「ケンリックの小説はどれも楽しめる」といったばかりだけれど、このラストはなあ…。

「三人のイカれる男」(トニー・ケンリック 角川文庫 1987)
ディブリー、スワボダ、ウォルターの3人は病院仲間。
それぞれ、突発性健忘症、幻覚症、多重人格症という問題をかかえている。
ディブリーはドライブ中に運転法を忘れ、スワボダには常に“見えない”母親がつきまとい、ウォルターはジェームズ・ギャグニーになったり、ベティ・デビスになったりと変身をくり返す。
ある日、通院の途中、3人の乗っていた車が道路の穴にはまりオシャカに。
責任は穴ボコを放置した市当局にある!――3人は奇想天外な復讐計画を実行にうつす。

と、本の袖に紹介文があったので、ちょっと変えて引用した。
ただ、この紹介は本書の半分。
もうひとつ、3人の計画を知ったこそ泥3人組が、それを真似て強盗をはたらくという別のプロットがある。
2つのプロットは最後にひとつにまとまるという仕掛け。

この作品もまたスラップスティック風味にあふれていて、大変楽しい。
訳者あとがきによれば、本書は「スカイジャック」、「殺人はリビエラで」に続くケンリックの第3作だそう。
ただし、精神に問題をかかえている3人組の設定に配慮したために、訳書の出版は10余年遅れたという。
また、いまの目でみると、最後におこなわれるテロ行為にはびっくり。

「バーニーよ銃をとれ」(トニー・ケンリック 角川文庫 1982)
ローンの支払いに悩む仲間とともに、スイス銀行に預金のある人間の手紙を偽造し、金を偽名の口座に移動させたバーニー。
この犯罪はうまくいった。
が、振り込まれた額と、金のもち主が問題。
金額は1億6700万ドル。
もち主は、現在アメリカに亡命中のカブレラ国の元独裁者ルイス・リポル。
バーニーと仲間たちは退役した鬼軍曹を雇い、山小屋での訓練を経て、リポルの擁する24人の殺し屋と対決する。

クライマックスの戦闘シーンは、読むのがやめられなくなるほどの大変な迫力。
また、オチの切れ味が鋭い。
あんまり鋭すぎて、読み終えたときはなんだかぼーっとしたほど。

さて、3冊の紹介は以上。
ケンリックが活躍していたころ、こういう練ったプロットとユーモラスな筆致の軽快な作風は、ケンリックでなくても書けるんじゃないかと思っていた。
でも、気がつくと、だれもいなくなっている。
ウェストレイクは亡くなってしまったし、ハイアセンはちょっとちがう。
それなら、読んでないケンリック作品をつぶしていこうと、古本屋をめぐったのだけれどみつからない。
一時期は、いくらでもあったような気がするんだけど。
本というのは、読もうとするとみつからないものだとまたもや思い知らされた。
仕方がないので、「主人公がプールに飛びこんだらパンツが脱げてしまった」という場面しかおぼえていない、「スカイジャック」を再読しようかと考えているところ。

そうそう。
「三国志」は順調に読んでいる。
夏候惇が射抜かれた自分の目を食べる場面では、その後、痛みで苦戦したとあって可笑しかった。
やっぱり痛かったんだなあ。
遠紹は亡び、いよいよ孔明が登場する。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 最近読んだ本 ロバート・ブ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。