極短小説

「極短小説」(スティーヴ・モス/ジョン・M・ダニエル 編 新潮社 2004)

新潮文庫の一冊。
選訳は浅倉久志。
絵は和田誠。

本書は、英語で55語以内の超短篇を公募し、入選作をまとめたもの。
原書では2冊あり、それを合本したものだという。
なんで、55という半端な数なのかは、“Fifty-Five Fiction”という頭韻のひびきが気に入ったからだと思われる、とこれは訳者あとがきから。

さらに浅倉さんのあとがきを引くと、本にするにあたって、語呂合わせのもの、日本人にはピンとこないもの、同工異曲のものははぶいたという。
さらに、訳すにあたっては、200字以内という制限を自分に設けたそう。

訳者あとがきのまえには、「〈55語の小説〉の書き方」という文章がある。
すなわち、ルールの解説。
どんなによくできていても詩はダメ、キャラクターが魅力的でもなにも起こらないのはダメ、ジョークを55語に直したのもダメ――、と書いてあるのが面白い。

さて、本書は気楽にぱらぱらやるぶんには申し分のない本。
読んでいると、だれがなにを書いたかなんて、どうでもよくなってくる。
たんに、あつめられた作品の傾向ばかりが目についてくる。
この本は応募作をあつめたものだけれど、プロの作家の超短編をあつめたものを読んでも、たぶん印象は同じじゃないだろうか。
大規模な展覧会をみたあとのような気分とでもいおうか。

とにかく、55語で話をはじめて、落ちをつけなければならないから大変。
意外性を狙うからだろうけれど、ぜんたいにシニカルさが強くなってしまう。
そうでない作品も多少あることは、むしろ驚異。

短編集はどうしても、読みながら気に入った作品をえらぶことになる。
訳者である浅倉さんのベスト3はこう。
「十二月の物語」「運命の手にすべてを」「人生を変えた五十五語」。

読み終えたこちらのベスト3はこう。
〈落ち〉を遅延させることによって効果を発揮した、「第二のチャンス」。
大いに皮肉が効いたパロディ、「愚者の贈り物」。
限りなくジョークに近い、「臨終のメッセージ」。

あと、次点として、常識の逆転をつかった「人はみかけ」や「エドマンドの発見」、それから、落ちの切れ味が鋭い「時間をさかのぼって」なんかも入れたい。
また、浅倉さんも採った、本書にはめずらしいハートウォーミングな「十二月の物語」も。

「愚者の贈り物」にかんしては、じつは一行にちぢめられると思った。
その一行を引用しよう。
「妻の髪の毛はまた生えてくるが、私の懐中時計はもうもどってこない!」

さて、本書には、各作品すべてに和田誠さんのイラストがついている。
和田さんも、いろんな技を駆使してイラストを描いているところが面白い。
なかには、一発描きのようなイラストも。
和田さんにはめずらしい。

ところで。
超短篇というと、いつもフレドリック・ブラウンのある作品を思い出す。
たしかメモをとっていたはずと、ハードディスクを探すとめずらしくみつかった。
なんの本に載っていたのか、残念なことにおぼえていない。
最後にこれを紹介しよう。
訳者は奇しくもおなじ朝倉さんだ。


   まちがい

「人を殺しました」
 と、警察に自首したスタンディッシュはいった。
「完全犯罪なんだけど、大きなまちがいをしでかしたのに気がついたもんで」
 どんなまちがいをしでかしたのか、とたずねられて、スタンディッシュは答えた。
「人を殺しました」

フレドリック・ブラウン
浅倉久志訳

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コメント
 
 
 
暗い嵐の夜だった (タナカ)
2009-07-15 23:46:50
追加。
「極短小説」には、漫画「ピーナッツ」で著名な、チャールズ・M・シュルツも作品をよせている。
「ピーナッツ」はスヌーピーがでてくる漫画といったほうが通りがいいかも。

この超短編には、スヌーピーはでてこないけれど、やはりベストセラー作家になろうと奮起する飼い犬がでてくる。
その書き出しは、もちろんこうだ。
「暗い嵐の夜だった…」

シュルツはこの作品を投稿したのだろうか、それともスペシャルゲストとして参加したのだろうか。
投稿したのだったらとても楽しいのだけれど。
 
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