神田古本祭りにいった話2010

10月31日日曜日、神田古本祭りにでかけた。
去年はいかなかったから、1年ぶり。

古本祭りでは、露店のミルクティーとカレーが楽しみ。
いくと必ず食べるのだけれど、今回ミルクティー売り場をみつけられなかった。
同じく、古本祭りにでかけた知人にきいてみると、「いつものところにあったよ」とのこと。
えー、そうなのか。
とても残念だ。

みつけられなかったといえば、いつも楽しみにしている筑摩書房のブースもみつけられなかった。
でも、平凡社のブースではオマケしてもらった。
長新太の「海のビー玉」と、「ルバイヤート」を買って、半額で売っていたから合計1200円くらいなのだけれど、1000円にしてくれた。
「端数切り捨てだ」
と、いってくれた売り子のおじさん、どうもありがとう。

それにしても、とにかくすごい人出。
前日、台風のため中止したせいか、いつもよりすごい気がする。
当日も時折ぱらぱらと小雨が降ってきて、そのたびに売り子さんは本にシートをかぶせたりしていた。
大変だ。

そういえば、売り子さんに買った本の領収書をくれといっているおじいちゃんがいた。
レシートが領収書の代わりになるといってもきかない。
――ここで領収書をもらうのは無理ですよ、おじいちゃん。
と、思っていたら、売り子さんがちゃんと領収書を切りはじめた。
おじいちゃんの強情に負けたのかも知れないが、その応対に感心。

大勢のひとが本を物色し、買っていくのをみると、こちらもつい頭に血がのぼってしまう。
古本祭りで売っている本というのは、特段安いわけではない。
いまはネットが充実しているから、ここでなければ手に入らないということもない。
じゃあ、なにしにきているんだといえば、頭に血をのぼらせにきているのかも。

今回、買った本のひとつは、「世界探偵小説全集 第40巻 F・グルーバー篇」(別冊宝石97号)。
たしか、300円くらいだったと思う。
グルーバーは、登場人物がやけに右往左往する、「右往左往小説」を書くひとだ。

この本を、古本祭りの帰りにパラパラやっていたら、都筑道夫さんによる「フランク・グルーバー論」が載っていて、やけに面白かった。
こういう本で作者について書いたら、もち上げるに決まっていると思うのだけれど、都筑さんはそれをしない。
「グルーバーは二流の天才」
だなんて、薄情な、でもよくうなずけることを書いている。

「明らかに発端だけ思いついて、書きながしている。それはいい。ぼくは書きながら考えていく型の作家が、わりに好きです。けれど、主役にあたえた味のおもしろさ――落語家なかまでいう、〈ふら〉だけで、長篇をあとからあとから書かれたのでは、かないません」

「話をひろげることはうまくても、つぼめることがうまくない、というのは、探偵小説ではことに、致命的でありましょう。二流だ、というのは、そこなのです」

「第三の理由は、たいへん勝手ないいぐさですが、どうもぼくは短篇のうまくない作家は、いくら長篇がうまくても、好きになれないのです。…グルーバーの長篇は、決して不器用じゃない。むしろ、器用すぎるくらいです。それでいて、短篇はうまくないんだから、おかしい。グルーバーが好きでない最大の理由は、そこなんです」

都筑さんは、自分のモノサシでグルーバーをはかっているので、その物言いはいっそ痛快。
「話のまとめかたがうまかったら、ガードナーのような真の大家になれかたも」
とも、都筑さんは書いているのだけれど、個人的にはガードナーよりグルーバーのほうが好きだ。
考えてみたら、ヘンリー・スレッサーも1冊読めたためしがないし、話のまとまっていないひとのほうが好きなのかもしれない。

今回買った本でうれしかったのは「ドガに就て」(ヴァレリィ 筑摩書房 1977)。
いつだったか、手当たり次第に吉田健一の本を読んでいたころ、近所の古本屋にこの本があった。
値段はなんと1万5000円。
ひょっとしたら、1500円の見まちがいかもしれないし、この本は版を変えて出版されたそうだから、今回手に入れた本とは別の版だったのかもしれない。
ちなみに、今回買った本の値段は1500円。
秋の夜長に読むのにちょうどよさそうな本なので、これから読むのが楽しみだ。

古本祭りとは関係ないけれど、帰りに東京にでたら、東京音頭を踊る行列に出くわした。
おそろいの格好をした女のひとたちが、道の真ん中を踊りながら通りすぎていく。
そのあとからは、「朝鮮通信使」と大書されたのぼりをもった行列があらわれて、色鮮やかな伝統衣装に身をつつんだひとたちが、金でできた小鉢をたくさんぶら下げたような鉦や、太鼓をにぎやかに叩きながらあらわれた。
どうも、なにかのイベントにぶつかったらしい。
続けて、あれが大使なのか、山車のてっぺんにある椅子にすわった、ひげを生やした男がはこばれてきた。
大使は終始にこやかな笑みを浮かべながら、沿道の見物客に、鷹揚に手を振り返していた。


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