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台風12号接近、五ケ山ダム放流への警戒 

2018-07-28 18:05:15 | 五ケ山ダム

現在、日本列島に接近中の台風12号は、本州に接近すると大陸側から日本海付近に張り出したチベット高気圧に北上を阻まれ、寒冷渦(本州の南海上付近にある反時計回りの冷たい空気の固まり)の作用で西に急カーブし、通常とは逆のコースをたどる。台風の風は反時計回りとなるため、東シナ海へ抜けた後の雨の降り方に注意が必要だ。台風が通過後は南風が吹く。この風に大量の水蒸気が供給されれば、ふたたび西日本豪雨のようなことになりかねない。

そこで、気がかりなのが西日本豪雨で満水位になっている五ヶ山ダムだ。現在、五ヶ山ダムでは常時満水位(洪水でない時にダムに貯水することができる最高水位)を維持するため、直下にある南畑ダムへの放流が続いている。福岡県が公開しているダム情報を見ると、28日午後3時の南畑ダムの流入量は毎秒1.6㎥、放流量は毎秒2.0㎥。つまり、毎秒1600リットルの水が五ヶ山ダムから入り、毎秒2000リットルの水が那珂川へ放流されていることになる。これだけの量が放流されているのは、南畑ダムが満水状態だからだろう。(図1参照)

西日本豪雨時、7月6日の南畑ダムの状況を調べてみると、同日午後2時頃、流入量は急激に増えている。(図2参照)ピークは同日午後5時頃で、流入量は毎秒100㎥(10万リットル)、放流量は毎秒約60㎥(6万リットル)にも上っている。(図3参照)ちょうどその頃、那珂川で浸水がはじまった。(下写真参照)これは五ヶ山ダムの水位が急上昇したことによる措置と思われるが、併用が開始されていないからなのか、五ヶ山ダムに関する情報は一切公開されていない。だから南畑ダムの情報から五ケ山ダムの状況を推測するしかない。これは防災上、大いに問題があると思うのだが、公開の動きはない。

西日本豪雨では、愛媛県の肱川上流にある野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)の2つのダムが、基準の六倍の量を放流したことで大規模な浸水被害が発生し、9名の方が犠牲となった。ダム放流をめぐっては、住民への情報提供が問題となっており、検証がはじまったばかりだが、これは決して他人ごとではない。那珂川上流には、巨大な五ヶ山ダムが、その直下には南畑ダムがある。下流域には、福岡市の都心部がある。今、2つのダムは満水状態であり、台風による大雨も予想されている。福岡県は、どれほどの水量がダムに流入し、放流するのか。南畑ダムの情報だけでなく、五ヶ山ダムの情報も提供すべきだろう。同じような災害を起こさないためにも。

 

 

 現在の南畑ダムの状況》図1

現在、南畑ダムは、ほぼ満水状態

 

 

 

《西日本豪雨時の南畑ダムの状況》図2

雨がひどくなったころ、放流量が一気に上昇

 

 

 

 その時、那珂川は

この頃、那珂川の水位が上昇しはじめた(7月6日午後2時頃撮影)

 

 

 

《西日本豪雨時の南畑ダムの状況》図3

ピーク時、毎秒6万リットルの水が那珂川に放流されていた

 

 

 

 その時、那珂川は

この頃、那珂川で浸水がはじまった(7月6日午後6時頃撮影) 

 

 

《関連記事》

“逆走”台風12号接近中 九州は29日午後以降(西日本新聞 2018.7.28)

異例の西寄りコース 通過後も大雨の恐れ(大分合同新聞 2018.7.28)

《参考資料》

福岡県 河川防災情報 

 


五ケ山ダム、西日本豪雨で満水に!

2018-07-21 08:59:29 | 五ケ山ダム

豪雨後、猛烈な暑さが続いているが、福岡市では、7月6日未明から激しい雨が降り続いていた。うちのすぐそばを流れる那珂川の水位は徐々に上がり、午後2時頃からさらに上昇しはじめた。福岡市からエリアメールが鳴り続く中、午後5時10分、福岡県に特別警報が発表された。午後6時頃、川岸にある緑地公園の浸水がはじまった。同じ頃、那珂川上流の五ヶ山ダムでは、物凄いスピードで水位が上昇し、6日午後3時、最高水位に達していたことが、一昨日、わかった。ちょうど那珂川の水位が急上昇した頃だ。(その時の様子はこちらで)

18日、福岡県ホームページの「五ヶ山ダムの進捗状況」をみて、あっと驚いた。そこには「7月6日15時、常時満水位407.1mに到達」と記され、更新日が6日となっていたのだ。当日、那珂川の水位がどんどん上昇していくのを見て、五ヶ山ダムが気になり何度も確認したが、6日の水位は406.5mだった(この時点で7m上昇していたので危いと思っていたが)。それは17日まで変わっていなかった。ところが、翌日(18日)、確認すると満水位(407.1m)に変わっていた。しかも、更新日は6日のまま。豪雨時、ダムは満水になっていたにもかかわらず、2週間も経って公表し、その上、更新日を偽るとは、一体どういうことなのか。

※常時満水位‥洪水でない時にダムに貯水することができる最高水位のこと

五ヶ山ダムでは、平成28年10月から試験湛水がはじまったが、昨年からの少雨の影響でなかなか水は貯まらず、ダムの併用開始は大幅に遅れている。福岡県は、水位が50センチ上昇するとホームページを更新するが、5月末から6月末まではダム周辺でほとんど雨が降らなかったのか、更新されていない。ところが、今回の西日本豪雨で水位は一気に7.6mも上昇し、状況は大きく変わった。福岡県によると、試験湛水は、サーチャージ水位(413.4m)まで貯水する必要があるが、洪水期は常時満水位を保持し、今秋以降にふたたび水位を上昇させるという。貯水位の更新は、その時までされない。いずれにしても、今後の雨の降り方には注意が必要だろう。

そういうわけで、気になり五ヶ山へ行ってみると、ダムは並々と水を湛えていた。水は隅々までいきわたり、わずかに残された面影も消えていた。かつての森は水に沈み、遮るものもなく、強烈な日差しが巨大な湖面を照らす。それは反射板となって空気を温める。だからか、山の上とは思えないほど暑い。福岡市内と比べて3℃も違わない。(かつては5~6℃低かった)こうして温暖化は進んでいくのだろう。そして、いずれ災害となってわれわれに返ってくる。何と愚かなことだろうか。

 

 撮影日:2018.7.19

満タン!

 

 

こちらは6月16日 

 

 

 

坂本方面

 

 

 

 

倉谷方面 

 

 

 

 

ゲートに迫る 白波が立っている

 

 

こちらは6月16日 

 

 

 

ビオトープに迫る

 

 

 

 

坂本峠あたりから

 

 

 

 

坂本峠は豪雨による土砂崩れのため通行止め

 

 

 

 

 

東背振トンネル近くまで 

 

 

 

 

佐賀大橋

 

 

 

 

小川内地区は完全に消滅  那珂川も消えた

 

 

 

 

 

ダム下へ行ってみると、、 

 

 

 

 

放流中 満水位を保つためか

 

 

 

 

 

やっぱりここは恐ろしい 

 

 

 

 

 

 

”放流中”点滅

 

 

 

 

福岡県ホームページ「五ヶ山ダムの進捗状況」

6月末までこの表示だった(7月1日から5日までは未確認)

 

 

 

7月6日から7月17日までこの表示だった    

 

 

7月18日、突如、表示が変わった


 

 

《関連資料》

福岡県HP。五ヶ山ダムの進捗状況 

 


論点:西日本豪雨の教訓(毎日新聞)

2018-07-18 18:14:54 | 災害

本日18日付の毎日新聞「論点:西日本豪雨の教訓」記事。今回の豪雨について、気象・防災の観点からそれぞれの専門家の意見がわかりやすくまとめられている記事(有料)なので、ここで紹介をしておきます。今後のために、ご一読を。

  


《以下、転載》

「平成最悪の豪雨被害」をもたらした西日本豪雨。広い範囲で土砂崩れや河川の氾濫が多発し、甚大な被害となった。さらに、猛暑と断水が被災地に追い打ちをかける。今回の豪雨災害の原因や仕組みは。防災・減災対策に抜かりはなかったか。災害大国・日本に暮らす私たちはどのような教訓を学びとればよいのだろうか。

 

雨量増加、温暖化の影響も 木本昌秀・東京大大気海洋研究所副所長

 
木本昌秀氏 

今回の豪雨は、梅雨末期に集中豪雨をもたらす現象が典型的な形で重なったのが原因だ。毎年のように梅雨末期には各地で大雨が発生している。ただ、同じ気圧配置でも、地球温暖化の影響で雨量は以前より増えていると考えた方がいい。今後も、経験したことのないような豪雨がこれまで以上の頻度で起こる可能性は十分にある。

今回の気圧配置を見ると、梅雨前線を挟んで南東側に太平洋高気圧、北西側に気圧の谷があり、両方とも上空までしっかり伸びて動かないため、前線が日本列島の上で停滞した。気圧の谷の、前線に面したところでは上昇気流が発生しやすい。そこへ太平洋高気圧の西端を通って南から水蒸気が大量に流れ込み、豪雨をもたらした。

被害が広範囲に及んだのは、地中海から気圧の波がジェット気流によって大陸を横断するように運ばれる現象「シルクロード・テレコネクション(遠隔結合)」が起き、太平洋高気圧の勢力が強められたことも大きい。さらに、日本の南で台風が相次いで発生するなど雲の活動が非常に活発で、太平洋高気圧がそれに刺激され強まった。高気圧がこれほど強くなったことが、関東甲信地方で観測史上初めて6月に梅雨明けしたとみられるという事態につながった。

温暖化は顕著に進行しており、日本では平均気温が100年当たり1・19度のペースで上昇している。今後数十年はこれまで以上の気温上昇が予測される。気温が上がれば、大気中の水蒸気は増える。今回の気圧配置は温暖化が進んでいなくても起こるものだが、水蒸気が増加すれば雨粒になって落ちてくる量も当然増える。今回の豪雨も一部は温暖化により「かさ上げ」されたと考えている。

温暖化によって気候が変われば、想像を超える気象現象も起こり得る。「うちの近所は何代も前から浸水したことがない」といった過去の経験はもはや通用せず、起こる可能性のある被害を想像しておかなければいけない。隣町が被災したら、自分の住む町もいつ被害が発生してもおかしくない。

国や自治体による防災・減災対策の充実は当然必要だが、最後は一人一人が備え、危険を判断して避難するしかない。難しいことかもしれないが、その前提となる気象情報は充実してきている。自分の身の回りでどれくらいの雨が降りそうかなど、スマートフォンなどで簡単に調べることができる。

例えば、気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」は観測データを使い250メートル四方ごとの雨量の予測を色別で公開している。普段からこまめにチェックし、どんな予報のときに実際どれくらいの雨が降り、身近でどんな影響が出たか確認しておく。気象情報を見慣れていれば、被害が出そうな状況のときに「何かおかしい」と判断できるかもしれない。そうすれば、避難勧告などが出る前に避難の準備ができる。

温暖化で、豪雨など油断のできない状況はこの先ずっと続く。人命を守るため国全体で観測機器などを充実させることが必要だが、個人も率先して情報を得て、逃げる準備をしておくことが大切だ。【聞き手・大場あい】

 

 

危機感、住民に伝わらず 牛山素行・静岡大防災総合センター教授

 
牛山素行氏 @disaster_i

今回の豪雨の特色は、その範囲の広さだ。個々に起きた現象は繰り返し起きてきた規模ではあっても、その現場の数が極めて多く、全体として人的な被害が大きくなってしまったと考えている。

個別の現場を見ると、基本的にはハザードマップで示された危険箇所の範囲において、示された通りの現象が起きている所が多い印象だ。岡山県倉敷市真備地区の洪水も、最初の映像には驚いたが、ハザードマップを見たら、上限ランクの5メートル以上の浸水域が中国・四国地方では最も広く示されていた。想定内の洪水といえる。

災害情報の観点からは今回、出し得る情報はだいたい出ていたとみている。気象庁は早い段階から極めて異例の強い警告を出し、危機感を伝えた。5日に事前の記者会見を開いて「大変な事態」の可能性を予告し、6日午前には特別警報を出す可能性に言及した。さらに6日午後、九州に最初の特別警報を出した際、特別警報の地域が広がる恐れがあると明言した。こうした異例の対応に呼応する形で、各自治体も早い段階から避難勧告などを出した。

それに対して「(勧告よりランクが上の)避難指示が遅い」との批判があるが、強い違和感を覚える。避難指示は最後の駄目押しの措置だ。数年前までは避難勧告を出す心理的なハードルすら高く、2013年の伊豆大島の災害など、勧告が間に合わなかったケースがあった。それで避難のガイドラインが改定されてきた。精査前だが、今回ほぼ避難勧告は間に合っているのでは。「勧告でなく指示が出ていたら避難した」というのはメディアの後知恵ではないか。

愛媛県での「特別警報が遅い」という批判も違和感が強い。特別警報は「すでに災害が起こっているかもしれない」段階で出す最後の最後の情報。簡単に出してはいけない。それを「遅い」と批判するのは、警報など特別警報以外の情報を勝手に格下げし、無視していいと言うのに等しい。「特別警報さえ出なければ何もしなくていい」という事態を招いてしまう。

犠牲者が出るか防げるか、最後は個々の現場にかかっている。そこに住んでいる人々がさまざまな情報を受け止め、避難行動につなげなければいけない。ボールは我々、住民、国民の側にあるのだ。

出発点とすべきなのは、住んでいる地域の災害特性を知ることだ。どういう種類の災害が起きそうか。それは非常に危険かどうか。「ここは地形的に大丈夫」などと勝手に決めつける人もいる。「過去こんなことが起こったことはない」とよく聞くが、ほとんどが思い込みだ。土砂災害犠牲者の約9割は土砂災害危険箇所で出ているのに、住んでいる場所の危険性が住民たちに理解されていない。

ただし、全ての住民が知見のレベルを上げるのは困難だ。中核となる人材が必要であり、最も重要なのが市町村の防災担当者だ。内閣府の防災スペシャリスト養成研修はそのための対策の一つ。住民に対して、自信を持って説得力ある言葉で啓発活動ができる職員を育てなければ、せっかく作った災害情報の仕組みも回らない。【聞き手・伊藤和史】

 

 

新たな防災の制度設計を 柳田邦男・ノンフィクション作家

 
柳田邦男氏

「この豪雨はただごとではない」と感じたのは6日夜。強雨域が九州から中部地方まで帯状に密度濃くつながり、実際の雨量もすごかったからだ。

戦後の水害は、いくつか型があった。私の強烈な記憶にある大水害は1947年のカスリーン台風だ。利根川の決壊で関東平野が一面海になったかのような報道写真は、大水害の象徴的イメージとなった。57年に1000人近い死者・不明者が出た長崎県の諫早豪雨は後に言われる集中豪雨禍の代表となった。

67年7月豪雨は、前線の熱帯低気圧の移動に伴い、長崎県佐世保市、広島県呉市、神戸市で次々に豪雨による土砂災害が新興住宅地を襲った。死者・不明者371人。土砂災害多発時代への警鐘となった。乗用車、バスなど2500台をのみ込んだ82年の長崎豪雨。さらに都市圏河川決壊による広域住宅浸水7万戸という2000年の東海豪雨と続き、災害形態の多様さに直面させられた。

災害は、自然界の異常な現象に人間の住まい方、都市構造の変化が掛け合わさって発生する。西日本豪雨は、地球温暖化によると考えられる尋常ではない雨の降り方に、山際や川筋にまで住宅地が広がったことが掛け合わさり、従来の水害の各種典型例が「全員集合」する形で発生したのだ。私はかねて「災害は進化する」と述べてきたが、水害の「全員集合」こそ今回の豪雨災害の進化の姿だ。

多様な災害形態の「全員集合」の時代、人命を守るにはどうすべきか。東日本大震災の津波災害や原発事故に、政治・行政・東電が使った「想定外」という責任回避思想は、もう許されない。

しかし、国の災害に対する危機感は低い。6日に大雨特別警報が出され、その夜から7日に次々と被害が拡大した。政府が非常災害対策本部を設置したのは8日。その後も被害が深刻化する中で、国土交通相が出席するカジノ実施法案などの国会審議を優先。人命二の次という倒錯政治といえるだろう。

私は06年に水俣病公式確認50年での課題を検討する環境相の私的懇談会の委員として提言書をまとめた。その中で一番に提起したのが、重大事態の問題点と対応を速やかに把握する「いのちの安全委員会」と「災害・公害・大事故・事件のプロフェッショナル」として首相に的確な助言をする首相特別補佐官の設置だ。戦争・テロに対する国家安全保障政策と同等レベルで国民の命を守る体制を確立するためだ。近い将来に発生が予測される南海・東南海地震、首都直下地震による被害の桁違いの重大さを考えれば、首相直属の「いのちの安全委員会」と災害プロである特別補佐官の設置は急務だ。

災害は「いじわるじいさん」だ。社会や組織や人間の弱点を狙い撃ちする。岡山県倉敷市の河川決壊は長く危険性が指摘され、やっと来年度から改修工事が始まる直前だった。国や自治体の財政難で完全な対策ができないなら、住民の命を守る最低限の減災対策を探るべきだ。人口減の進む中、そういう次善の策でさえ、一自治体では無理だろう。「広域防災自治体連合」という新たな制度設計を提言したい。【聞き手・永山悦子】

 


平成時代のこれまでの主な気象災害

時期             事象      地域     死者・不明者数

1991年9~10月     台風19号   全国      62

  93年7~8月      豪雨      西日本     79

2004年10月       台風23号   沖縄~東北   99

  05年12月~06年3月 豪雪      四国~北海道 152

  06年10月       大雨強風・波浪 四国~北海道  50

  07年6~9月      酷暑      全国      66

  10年6~9月      酷暑・大雨   全国     271

  11年8~9月      台風12号   四国~北海道  98

  14年7~8月      豪雨      全国      91

※理科年表を基に作成(死者・行方不明者50人以上) 


 ■人物略歴

きもと・まさひで

 1957年生まれ。京都大卒。専門は気象学。気象庁予報部、気象研究所などを経て現職。気象庁の異常気象分析検討会会長を長年務めた。著書に「『異常気象』の考え方」など。


 ■人物略歴

うしやま・もとゆき

 1968年生まれ。信州大農学部卒。博士(農学・工学)。専門は災害情報学。岩手県立大准教授、静岡大防災総合センター准教授などを経て現在、副センター長。著書に「豪雨の災害情報学」など。


 ■人物略歴

やなぎだ・くにお

 1936年生まれ。東京大卒。NHK記者を経て作家に。東京電力福島第1原発事故の政府事故調査・検証委員会委員長代理を務めた。2018年3月まで毎日新聞でコラム「深呼吸」を連載。

  

 


西日本豪雨~平成最悪の水害に

2018-07-17 21:46:56 | 災害

今月5日からの記録的な豪雨による被害はかつてない規模で、ついに平成最悪の水害となってしまった。この1週間で死者は40人増えて215人、行方不明者は16人(17日現在)。広島県は死者数の半数近くの105人に上る。次いで岡山県の61人、中でも浸水被害が大きかった真備町は51人で、今回の豪雨で死者が最も多い。肱川が氾濫した愛媛県は26人、京都府5人、山口・福岡・高知県各3人、兵庫・鹿児島・佐賀県各2人、岐阜・滋賀・宮崎県各1人。よもやこれほど多くの命が奪われるとは、誰が想像しただろうか。

九州では10人の方が亡くなった。福岡県は3名、そのうち2名は北九州門司区の方だった。今回、山口へは九州道上り線が通行止めになっていたため、北九州高速道路を利用した。渋滞もなく順調に走っていたところ、鳥越トンネルを通り抜けたあたり(門司区に入って)から様子が変わった。戸ノ上山あたりだろうか、大規模な土砂崩れの跡がはっきり見えた。道路沿いでは法面が崩れたところに土嚢を積むなどの応急処置がなされ、門司区で被害の多さが見て取れた。地質も関係しているのではないだろうか。(下図参照)

山口からの帰路、九州道下り線はすでに通行止めが解除されていたので、法面崩落現場を確認することができた。現場は、吉志PAの先、鋤崎山(すきざきやま)の近く。山はごっそり抜け落ち(木が1本だけ残っていたが)、そこにいくつもH鋼が立てられ、土留め(擁壁)工事が行われていた。工事は急ピッチで進められているようだったが、予想以上に早く、本日(17日)15時に通行止めが解除された。これで本州と九州の交通軸は確保された。

先週末、気象庁は西日本に長時間、広範囲に記録的な大雨をもたらした気象要因を3つ示した。①多量の水蒸気の2つの流れ込みが西日本付近で合流し持続、②梅雨前線の停滞・強化などによる持続的な上昇流の形成、③局地的な線状降水帯の形成。特に①と②が主な要因で、7月5日から7日には、西日本を中心に1958年以降の梅雨期としてはこれまでにない量の水蒸気が集中していたという。(下図参照)

気象庁の資料をみると、九州北部豪雨時と気圧配置は似ているが、西日本豪雨ではさらに多くの雨を降らせる条件が整っていた。線状降水帯は次々と発生し、その数は61回に上る。これは全国で1年間に観測される線状降水帯の数に匹敵するという。今回の豪雨による総雨量(6月28日から7月8日)をみると、最高は高知県安芸郡馬路村の1852.5ミリで、7月の降水量平均値の4倍となっている。ちなみに、昨年の九州北部豪雨では、朝倉杷木町の24時間雨量は1000ミリに達していたから、いかに凄い雨が降っていたかがわかる。

温暖化が進むと(気温の上昇によって)海水の温度が上がる。そうなると大気中に流れ込む水分量が増えて、さらなる大雨を引き起こす。木本昌秀・東大大気海洋研究所副所長は「同じ気圧配置でも地球温暖化の影響で雨量は以前より増えていると考えた方がいい」「今後も経験したことのないような豪雨がこれまで以上に起こる可能性は十分にある」と警告している。日本の気象情報は充実しているので、今後、それらを活用して自分の身を守ることがさらに重要になるだろう。これ以上、犠牲者を出さないためにも。

 


今回の豪雨で死者が一番多かった倉敷市真備町。下の画像は、国交省の「川の防災情報」のカメラを見ていたときに保存しておいたもの。カメラは刻々と変わる町の様子を伝えていた。(ここでは掲載を差し控えますが)ベランダで救助を待つ人も捉えていた。カメラは通常のアングル(河川)ではなく、町の異常事態を必至に伝えていた。 

 

 7月7日午後5時頃 水位はどんどん上昇 白波が立っている

 

 

7月7日午後6時頃 このころ水位はピークか 流れが止まっている

 

 

7月8日午前9時頃 水は引いていた

 

 


 

九州道 門司~小倉東間の法面崩落現場 上り線の工事が急ピッチに進んでいた(7月15日撮影)

 

 

 

 

とりあえず応急措置 大雨が降らなければよいが(17日夜のNHK福岡ニュースより)

 

 

 

 

門司区の地質図に崩落場所を記入 北九州道路沿いは花崗岩、九州道崩落現場は石灰岩、上部は砂岩で水を通しやすい(地質図Naviより)

 

 

 

 

記録的な大雨を降らせた3つの要因を図式化(気象庁資料より)

 

 

《関連記事》

NHKニュース特設・西日本豪雨(随時更新)

西日本新聞・西日本豪雨(随時更新) 

西日本豪雨、線状降水帯68回発生=日本気象協会(時事ドットコム 2018.7.13) 

論点:西日本豪雨の教訓(毎日新聞 2018.7.18) ※有料記事(こちらでご覧下さい)

 

《関連資料》

気象庁。「平成 30 年 7 月豪雨」 の大雨の特徴とその要因について(速報)(7.13)

気象庁。平成30年7月豪雨 (前線及び台風第7号による大雨等)(7.13)  

 

 


西日本豪雨~九州北部豪雨から1年の日に

2018-07-11 10:00:05 | 災害

またしても記録的な豪雨により多くの人が亡くなった。九州北部豪雨から1年が経ったその日、悲しむ人たちに追い打ちをかけるように。

今月5日夕方、山口からいつものように九州道を走っていた時のことだった。道路情報で「今後、大雨によって高速道路が通行止めになる可能性がある」と繰り返し伝えていた。これは只事ではないと、帰宅後、気象庁のホームページを開いてみると「西日本から東日本にかけて非常に激しい雨が断続的に数日間降り続き、記録的な大雨のおそれがある」と警告していた。それは十分に緊張感のある内容だった。

今月4日、台風7号が日本海を北上した後、梅雨前線の活動が活発になるというので、すぐに昨年の九州北部豪雨を思い出した。というのも、昨年と気象状況があまりに似ていたから。それで災害が起きないよう願っていたが、叶わず。今日(11日)現在、死者は175人に上り、行方不明者は87人。あまりの多さに言葉を失う。

昨年の九州北部豪雨では、「線状降水帯」が同じ場所に停滞したことが原因とされていた。台風3号が熱帯低気圧に変わった後、停滞していた前線に向かって大量の水蒸気が流れ込んだ。そのため脊振山地の東側で積乱雲が繰り返し発生し、高度約15kmまで猛烈に発達しながら東へ移動、朝倉あたりで予想を遥かに超えた豪雨となった。西日本豪雨について、気象庁からまだ正式な発表はないが、防災科学技術研究所が、7月6日から7日の雨雲を解析したところ、今回も(九州北部豪雨より低い)高度約7kmの積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が多発し、積乱雲が数珠つなぎに次から次へと生じる「バックビルディング現象」が発生していたことがわかった。その上、広島県の上空で南風と西風がぶつかり合って生まれた強い上昇気流が、線状降水帯を長時間維持させた可能性があるという。

昨年の九州北部豪雨後、専門家から「線状降水帯」は全国どこでも起こりうると警告されていた。にもかかわらず、またも多くの人が犠牲となった。これから被害の原因について、それぞれ検証が行われるだろうが、東京女子大広瀬弘忠名誉教授(災害心理学)は「人間は”自分だけは大丈夫”という心理が働きがち。普段から自宅周辺の地形や避難所を確かめ、万一の行動を想定し、警報などに敏感に反応することが大事だ」と指摘している。これは肝に銘じたい。

ところで、西日本では高速道路の被害も深刻だ。九州道では、新門司IC-小倉東IC間で大規模な土砂崩れが発生し、現在も通行止めが続いている。復旧までには相当な時間がかかるようで、物流への影響も出始めている。私事ながら、毎週、山口と福岡を行き来している身としては、かなり辛い。そんな中、迂回路となる北九州都市高速道路の全面通行止めが、昨日午後5時、解除された。(これで救われた)豪雨被害はまだ進行中で、気がかりなことが多いが、これから一先ず山口へ。

 

 

 九州道、土砂崩れの現場(NHK福岡ニュースより)

 

 

 

 

  

 

雨雲の三次元構造 「バックビルディング」によって線状降水帯が維持されていた(資料:防災科学研究所より)





 

 

線状降水帯に伴う降雨域に、南風と西風が収束している様子(資料:防災科学研究所)

 

 

《関連記事》

豪雨:「バックビルディング現象」各地で多発が判明 (毎日新聞 2018.7.10)

「50年に1度」のはずが…大雨常態化? 地球温暖化が一因 ハード面の対策に限界も(西日本新聞 2018.7.10)

《関連資料》

防災科学研究所。2018年7月6日から7日に西日本に災害をもたらした雨雲の特徴(7.10更新