因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ティーファクトリー『ヘルマン』

2024-01-18 | 舞台
*川村毅構成・演出 公式サイトはこちら 吉祥寺シアター 28日まで
 ヘルマン・ヘッセを題材に、「複数の小説からのイメージ、さらに俳優の身体性、映像を使用しての、ポスト・ドラマとしてヘッセを蘇らせようと思う」(公演チラシより)とのこと。『荒野のリア』(未見)以来10年ぶりのティーファクトリー出演の麿赤児を主演に迎え、共演は元宝塚トップスターであり、退団後は『唐版 滝の白糸』(唐十郎作 蜷川幸雄演出)はじめ舞台を中心に活躍中の大空ゆうひ、青年座映画放送部所属で、さまざまなドラマや舞台への出演が続く横井翔二郎ほか、ほぼ全員がティーファクトリー初参加の座組であるとのこと(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)。

 舞台には大きな座椅子と白い台のようなものがふたつ置かれているのみ。ガランとして無機質だが、何かが息づいているような空気が漂うのはなぜだろう。ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」の第1楽章が静かに流れはじめ、開幕である。

 主な人物としてヘルマン・ヘッセと思われる老人(麿)が座椅子にかけ、女(大空)、青年(横井)の3人、それからヘッセのさまざまな小説の登場人物たちが次々に登場する。老いた作家の現実の暮し、遠い思い出や妄想、さらに彼が書いた小説の世界が交錯しながら進行する。主な3人以外はメイク、髪型、衣裳ともにくすんだ色合いの中に過激なものを潜ませ、ときにコミカル、ときに病的な動きで目を惹きつける。単純に「コロス」と括れない不思議な存在だ。第三エロチカ時代から川村毅の作品に数多く出演している笠木誠が切れ味の鋭い造形で若手たちのエネルギーを誘発し、牽引する。

 舞台正面のホリゾントに豊かな河や、「少年の日の思い出」の重要なモチーフである美しい「蛾」、吉祥寺の街を彷徨する素の麿赤児の映像が映し出され、ここでも現実と劇世界が交じり合う。俳優は幕の中央部の切りこみからすばやく出入りする。その動作は劇世界を断ち切るようであり、生者と死者の冷厳な断絶を示しているようでもある。そして幕の向こう側に広がっているのは、ヘルマン・ヘッセの人生と作品に魅入られた劇作家川村毅その人の世界観かとも思わせる。
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