因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サンモールスタジオ新春特別公演 『30才になった少年A』

2014-01-14 | 舞台

*Sun-mallstudio produce×The Stone Ageブライアント
 鮒田直也(The Stone Age ブライアント)作・演出 公式サイトはこちら サンモールスタジオ 14日で終了
 昨年9月に新宿ゴールデン街劇場で初演された本作を観劇したサンモールスタジオ代表の佐山泰三氏が即座に再演を希望し、サンモールスタジオ新春特別公演として早々にお目見えとなったもの。初演では登場人物5人、新聞販売店の住み込みの寮の一室が舞台にだったところを、今回は登場人物11人、上手に寮の部屋、下手に販売所の作業場や事務室などをつくって大幅にリニューアルした。自分は今回が初見である。

 「かつて少年Aと呼ばれた男は、その店でひっそりと30才になっていた/あれから16年/日々黙々と新聞配達をしながら、男は人知れず“ある希望”を見い出し始めていた/その希望を持ち続けさえすれば、罪を清算できると信じてー」
 本作公演チラシに記されたこの文章を読めば、いやタイトルを読んだだけで今回の舞台がどのような設定であるかは相当程度予想がつく。というか、予想がついてしまってよいのだろうか。

 物語の設定など、観劇前に得られる情報から想像する舞台は、強く関心を掻きたてる魅力を持つものであった。しかし始まった舞台になかなか集中できない。どうしてだろう。

 公演チラシや感想をネットで少し読めば、多少の予備知識は得られる。というより否応なく目に入ってくる。しかし詳しいことは実際に舞台をみなければわからない。観客は彼のことを知らない。これが大前提である。過去に重大な事件を起こしたわけありの人物であるらしい。どんな事件であったのか、彼は何をしたのか。周囲の人々はどの程度知っているのか。そしておそらく彼の過去が何らかのきっかけによって知られるところとなり、彼は次第に追いつめられてゆき・・・という流れをなかばお約束のように待ちうけるのである。

 どうにか穏やかに暮らしている彼のもとに過去を知る人が訪れ、少しずつ真実が明かされてゆく過程が本作の大きな核であり、ここで観客をどう捉えるかがポイントである。実は自分はこの過程で躓いたようなのである。
 すでに記憶があいまいなのだが、主人公(アフリカン寺越)は14歳のときに殺人事件を起こした。しかし現在彼が住み込んでいる新聞販売所と、事件の現場との位置関係はじめ、周囲の人々との距離感がなかなかつかめないのだ。少年が殺人を犯したなら、然るべき更生施設で指導を受けた上で、保護司や後見人などの支えによって実社会に出るはずだが、劇中の人物のやりとりがどうもしっくり聞こえなかったのは、そのあたりの具体的な情報を自分は聞きもらしたのではないか。舞台の設定や話の流れを把握し、整合性をもってつぎの展開をみることができないために集中できなかったのか、集中できなかったから理解できなかったのか。

 劇中にキーパーソンがふたりいる。ひとりはある新興宗教に属する女性(永澤菜教)で、主人公にしつこく伝道する。もうひとりは主人公の中学時代の元女教師(吉水恭子)で、事件を阻止できなかった後悔に苦しみつづけている。
 宗教の女性は外見も演技も大仰でコミカルな造形で、うさんくさい匂いを強烈に発する。いっぽう元教師は彼に対して一筋縄では捉えられない複雑な接し方をする。
 宗教の女性は、過去が知れて行き場を失くした主人公を嬉々として受け入れるそぶりをしながら、元教師に「わたしは神を信じない」と断罪されて、あっというまに退く。
 驚くのは現実にある宗教団体の名前がそのまま使われていることだ。これには作者のどのような意図があったのだろうか。名称の一文字を変えるだけでもだいじょうぶだと想像するのだが、なぜ敢えてそのまま使ったのか。宗教や信仰や神に救われないことを示すのに、あの女性の存在や造形は非常に的を得ており、それだけに疑問が残った。

 劇団ショーマ主宰の高橋いさをが、主人公の所属する通信制高校の教師役で出演した。
 高校のクリスマス会に彼を誘いに販売所を訪れる。無口で恥ずかしがり屋。クリスマス劇のキリスト役で「初舞台だよ」とはにかむ表情や、黙って販売所の看板を指差してうなづくところなど、何を言いたいのかはわからないが(笑)とても味わい深く、みる人に「うちの学校にもあんな先生いたなあ」と思わせるのではないか。劇ぜんたいをゆったりととらえた上での自然体の造形は力みがなく、この先生がひとり登場するだけで、劇世界がぐっと奥行きを深めた印象がある。

 収拾のつかない記述で申しわけない。新宿ゴールデン街劇場での初演を見のがしたことが悔やまれる。これが初対面の劇作家、つぎはどんな出会いになるのだろうか。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 月刊「根本宗子」第9号『夢も... | トップ | 名取事務所『運転免許 私の... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ちょっとはいしゃく第3回公演『ボクサァ』/制作・脇谷 (脇谷)
2022-08-16 16:44:48
はじめまして。
[ちょっとはいしゃく]という団体の制作をしております、脇谷と申します。この場をお借りしてのご連絡、お許しください。

当団体は、9月に第3回公演『ボクサァ』を上演します。つきましてはぜひ次回公演をご覧いただきたくご連絡いたしました。

以下、次回公演の概要でございます。
_____________________

ちょっとはいしゃく第3回公演『ボクサァ』
作= 高橋いさを 演出= 虻蜂トラヲ

日程:2022年 9月7日(水)~11日(日)
会場:遊空間がざびぃ

あらすじ:
「下の階には、ボクサァが住んでいる。」
深夜、大学の友人カトウの家に遊びに行くと彼はそう口を開く。
そいつはどういうやつなのか、いるのかいないのかすら分からない。
ただ僕たちは、そんな相手をからかってしまった。
襲ってくるかもしれない、そんな想像が頭を駆け巡る。
そして僕らは…


※当団体所属の<岡本真奈>はBキャストで出演いたします。
_____________________

まだ駆け出しの団体ではございますが、より客観的な批評や感想をいただきたいという思いからお声がけさせていただいた次第です。

ご興味ございましたらぜひ以下めーるまでご返信いただければと存じます。



ちょっとはいしゃく 制作/脇谷(わきや)
--
○●---------------------------------------------------●○
ちょっとはいしゃく 
主宰・演出〈虻蜂トラヲ〉を中心に、古今東西の名作を扱い、これからの演劇をつくる団体。
2021年6月『売春捜査官ー熱海殺人事件ー』で旗揚げ。

Mail:chottohaishaku.1@gmail.com
Twitter:@chottohaishaku
🐝----------------------------------------------------○●

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事