ヒロシの日記

たくさんの人たちの幸福を願いつつ、常に自然な生き方を望む私の日記です。

魔笛 ミヒャエル・ゾーヴァ=画

2009-02-09 21:23:46 | 日記
魔笛
ミヒャエル・ゾーヴァ=画
那須田淳=文


■あらすじ■

王子タミーノは夢の旅の途中の宿で、うなされる夢からの目覚めの後に気の良い鳥捕り名人パパゲーノと出逢った。
そこに夜の女王の手下である三人の魔女が登場し、夜の女王の娘であるパミーナ姫を王子に紹介しようとする。
魔女が差し出した姫の絵を見て、王子は一目で恋に落ちてしまう。
窓が開いて夜の女王が登場し、太陽の司祭ザラストロにつかまっているパミーナ姫の救出を王子に嘆願する。
ザラストロは夜の女王の夫である太陽の王のいちばん弟子でありながら、太陽の王の魔力を奪い、なおかつ娘のパミーナ姫もさらってしまったと言うのだ。

王子が女王から贈られた、危難から救ってくれるという金色の魔笛とパパゲーノに贈られた銀色の鈴を持って二人は太陽の神殿に向かった。

王子の寝室にある暖炉をくぐって太陽の神殿に着くと、そこには荒涼とした大地が広がっており、空を覆う闇は太陽が昇るのを邪魔していた。

二手で姫を探すためにパパゲーノと別れた王子の前に永遠の子供(三人の童子)が現れ、道案内をすると言った。
パミーナ姫を気遣う王子に、童子の一人が魔笛を吹くように言い、王子が笛を吹くと姫の寝室の光景が浮かび上がった。

逃げ出そうとしたものの、再び捕まってしまった姫のそばには醜い巨人のモノスタートスがいて、今にも姫に襲いかからんばかりであったが、突然入ってきたパパゲーノに驚いたモノスタートスは逃げ出してしまう。
びっくりした姫だったが、パパゲーノの言葉に安心して手に手を取ってそこから逃げることに。

パミーナ姫は、パパゲーノの優しさを讃えるが、パパゲーノは姫から優しいと言われても、自分には可愛い小鳥のような連れ合い(パパゲーナ)がいないことを嘆いた。
姫は恋や愛を真面目に語るパパゲーノに「きっと、そのうちに小鳥たちみたいに可愛らしい娘さん、パパゲーナがみつかるわよ」と微笑みながら返した。

王子が魔笛を離すと、パミーナ姫たちの姿は消え、戸惑う王子に童子はこう言った
*「この世で起きていることは、すべて幻だし、ほんものでもあるんだよ。きみがなにを信じるかで決まるんだ。さあ、パパゲーナとパミーナ姫を追いかけて、きみもいそげよ」

太陽の神殿に着くと、その眼に前の入口には三つの大きなドアがあった。

*向かって左から「理性」「叡智」「自然」と書かれ、それぞれにシンボリックな銅像がついていた。
*「理性」には本。「叡智」には鍵。「自然」にはウサギ。

童子は、ザラストロがこの神殿で「人はどう生きるべきか」を教えているのだと言い、そしてこの神殿では何があっても沈黙を求められているのだと言った。

初めに三つのドアのうちの「理性」と「自然」から拒まれた王子は、最後に「叡智」のドアに手をノックすると、ドアのある壁の右側の小窓が開いて僧侶が顔を覗かせたが、王子がそこを訪ねた理由を言うと驚くべきことに僧侶はこう言った。

*「さらわれた? ああ、おまえは、夜の女王にだまされているのだ。太陽の司祭ザラストロスさまがパミーナ姫を連れ出したのには、深いわけがある」

僧侶は、タミーノ王子が真理を求めることでその理由が分かると言ったが、ドアを開けてくれようとはしなかった。
それで、王子は魔笛を吹くと、再びパパゲーノとパミーナ姫の姿が心の中に映し出された。

パパゲーノとパミーナ姫は神殿の中で迷っており、ばったり鉢合わせした怪物モノスタートスとその手下の奴隷たちに捕まってしまいそうになったが、銀の鈴を鳴らして危機から脱することが出来た。
しかしパパゲーノが姫の手を引いて廊下を進むと大きなドアの先に大広間があって、二人はそこで群衆に捕まってしまう。

そこへやってきた司祭ザラストロは、意外にも優しい言葉をパミーナにかけ、姫を夜の女王の元に返さない理由についてこう言った。
女王の夫である太陽の王が亡くなる時に王が自分に全てを託したことで女王が心変わりをし、気まぐれ、嫉妬、物欲の化身となり、世の闇に溶け込んで人の心を乱れさせているのだと。
そして彼の使命は、自分の「叡智の神」の名にかけて、その呪いを解くことだとも告げた。

一方王子は理性のドアの前にいたが、それを知っていたザラストロの指示で動いたモノスタートスに捕まってしまい、その時に魔笛も取り上げられて司祭ザラストロの前に引き出されてしまう。

しかしその時初めてタミーノ王子とパミーナ姫は出会い、一瞬にしてお互いに恋をしたことを知った。

モノスタートスは、王子を捕らえた褒美を求めるが、真実(姫に言い寄っていたことを)を知っているザラストロは、逆にモノスタートスに罰を与える。
群衆はザラストロを賢者として讃え、広場は歓声に包まれた。

太陽の司祭ザラストロは、タミーノ王子が夜の女王にかけられた呪いを解くために、叡智の殿堂に進み、いくつかの試練を乗り越えるように言った。
そうすることで、この国が夜の女王の悪しき魔法から解放され、その時こそ王子に姫を委ねることが出来て、仲間のパパゲーナにも良き伴侶が見つかると言うのだ。

最初の試練では夜の女王の手下の魔女が呼びかけてきた。
魔女からはザラストロの言葉に耳を傾けると地獄におちると言われたが、王子は沈黙を守り通して試練をくぐり抜けることが出来た。

書架の間を抜けながら次の試練に向かう途中の窓からは中庭が見え、そこにはベンチに座るパミーナ姫が見えたが、その背後にはモノスタートスが潜んでいた。

そこに雷鳴をとどろかせて、パミーナ姫の母親である夜の女王がやってきた。
姫に短剣を渡して司祭ザロストロの殺害を強要するが、パミーナ姫はそれを拒否したので、女王は憎悪をあらわにしながらも地下にもぐるしかなかった。
それを見ていたモノスタートスは、パミーナ姫にそのことをザラストロに秘密にすることを条件に、自分を受け入れるよう求めたが、その時現れたザラストロに閃光で打たれ、追い払われてしまう。

王子はそこまでの様子を小窓から声一つ上げずに見ていたが、小窓は案内の僧侶によって閉められてしまった。
僧侶は二人に、沈黙の試練がまだ続いていることを告げてその場を去っていったが、そこへ腰の曲がった老婆がグラスに入った水を持って来ると、陽気なパパゲーノは黙っていられずに、その老婆をからかってしまう。

老婆が消えると三人の童子が空から降りて来て、ザラストロの命令だと言って魔笛と銀の鈴と食事を二人に渡し、また空に帰ってしまった。

王子タミーノは、愛しいパミーナ姫を思い浮かべて笛を吹くと、今度は本物の姫がやってきた!
姫は王子と話をしたがったが、沈黙をまもらなくてはならない試練の途中なので王子はそれに応じることはなかった。

そこへそこまでの試練の終わりを告げるべく、ザラストロが僧侶を伴ってやってきた。
王子はそこでの試練を越えることが出来て次の試練に向かうことになったが、パパゲーノは沈黙を守れなかったためにそこに残されることになってしまった。

残されたパパゲーノは、自分の弱さを嘆きながら一人ワインを飲み始めると、そこにやってきたのはさっきの老婆で、彼が自分のものになるなら、ここから出られると彼に誘いかけるのだった。
神殿の奥に閉じ込められたままより、老婆のものになった方がまだましと思ったパパゲーノが老婆の手を握ると、老婆は小鳥のしっぽのある若くて美しい娘に姿を変えて彼の前に立った。
パパゲーノは、これが自分の求めていた「可愛いパパゲーナ」だと喜んだが、あろうことか彼女は僧侶たちに連れ去られてしまい、その場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。

王子の次の試練は火の神殿だった。
獣の頭をかたどった巨大なモニュメントがあって、その中では火が燃え盛っていたが、そこにパミーナ姫がやってきて自分も王子と一緒に行くと言った。

姫がその気持ちを歌いあげると、炎を守る鎧の男たちは姫が王子とともに行くのを許した。

*「はじめて会ってきみに惹かれたときよりも、今の方が、はるかにきみを愛しているような気がするのはなぜだろう?」
*「わたしも同じ気持ちよ。苦しみを重ねただけ、喜びが大きいのかしら」

王子はしっかり姫の手を握り、パミーナ姫はにっこり微笑んでこう歌った。

*今こそ 魔笛を吹いて
*その魔笛は 亡きわたしのお父さま 太陽の王が
*風の日の魔法の時間に 千年の樫の樹を選んで刻んだもの
*きっと わたしたちを守ってくれるでしょう

炎を前にして王子が魔笛を吹くと、激しく燃えていた炎は次第に小さくなっていき、二人は難なくその炎を越えることができたのだった。
そうして炎の試練を越えると、二人は水の神殿に連れていかれ、次なる水の試練が待っていた。

神殿には巨大な魚の頭をかたどったモニュメントがあり、中で濁流が水しぶきをあげて渦巻いていたが、恐れるものがない二人は魔笛の音とともにそこに飛び込むと、水しぶきは小さくなり、気がつくと魚の巨像を抜けていたのだった。

二人は微笑みあい、見守っていた僧侶たちは歓声を上げ、二人にこう言った。

*若者たちよ 試練の時は終わった!
*おまえたちは 夜の女王の呪いを打ち破ったのだ
*おかげでこの国も 夜の女王のよこしまな魔法から解き放たれ
*時間の秩序を 取り戻すことができる!

その時、ふとタミーノ王子とパミーナ姫は、引き離されてしまったパパゲーノのことを思い出し、王子は彼のことを念じて魔笛を吹くと、心の中に森の中をよろけながら歩くパパゲーノの姿が見えた。

なんということか!パパゲーノは「可愛いパパゲーナ」と引き離されて絶望し、自殺しようとしているところだったのだ!

そこへやってきた件の三人の童子は、パパゲーノに自殺を思いとどまるよう諭し、パパゲーノに魔法の銀の鈴をならすように言った。
すると、老婆がやってきてパパゲーノの手を握るや、小鳥のしっぽのある娘に変身したのだった。
パパゲーノは喜んだ。二人はダンスを始め、そして喜びの歌声が広がる。

タミーノ王子とパミーナ姫は、太陽の民である群衆を背に太陽の神殿の祭壇の前に立ち、司祭ザラストロは一番鶏の声とともに、夜の女王の魔法からの解放と秩序の回復を宣言した。
神殿のはずれに潜んでいた夜の女王や魔女たち、そして怪物モノスタートスは、きらめく朝の光に打たれてたちまち消え失せてしまった。

ザラストロは続けた
「太陽が夜の闇を追い払ったのだ。これから闇は、太陽の沈むいっときだけに現れ、日の出とともに地の底に戻る定めになるだろう。愛と叡智に感謝を!」


        ■ここからがレビューです■


下記(>)は、リンク先からの引用です。

>ゾーヴァがモーツァルトのオペラ「魔笛」の舞台美術と衣装草案のために書き下ろした原画を使い、物語化された大人向きの絵本です。

絵本と実際に舞台化されたオペラとの内容の違いは分かりません。
ただ、絵本の中で登場した人物の状況や心情を語ったり歌ったりする場面は、舞台の上であることを想像しなから読むとしっくりします。

問題解決の視点で見れば、これは「秩序回復」の物語です。
夜の女王は誰かを殺めたり何かを奪い取ったりしたのではありません。
また、ファンタジーにありがちな、「世界を救う」的に大袈裟なテーマでもありません。

女王は夫である太陽の王を愛していました。
その夫に対する盲目的とも言える愛が、夫がなしてきたことを叡智の神でもある司祭のザロストロに引き継がれることを拒んだのでしょう。
彼女のやったことはその魔力で太陽の国を闇で覆うことであり、それが彼女にとって夫が収めた国に対する彼女なりの支配であって、亡き夫に対する愛の証だったのです。

元来、愛と叡智は相いれるものではありません。
王の亡きあとにその「秩序」を巡って、夫への盲目的な「愛」と「叡智」が対立するのは当然の成り行きでしょう。
そして「秩序回復」の物語は、夢の世界の魔法によって彩られます。
魔法のアイテムは、女王、司祭のどちらに組みするものでもありません。また途中から登場する三人の童子にしてもです。
しかし童子らや魔法のアイテムは、要所々々で主人公たちを助け、次の展開へと導いてくれます。

その世界で起きている問題とは無関係の主人公が、与えられた試練を乗り越えてその世界を救うのはファンタジーのお約束ですが、ファンタジーとオペラの組み合わせはどうもしっくりきません。
ここではファンタジーの底に脈うつ「希望」が一番のテーマではないと思いますし、一途な愛とそれを諌めるがごとき「叡智」との闘いは、オペラの主題には相応しくないと思うからです。

であれば、この絵本のテーマは一体何だったのでしょうか?

それは、登場人物の一人であるパパゲーノの描き方で見てとれます。

日本人のイメージで陽気なイタリア人を彷彿させるパパゲーノは、登場した時には軽薄そうな女好きのイメージを与えながらも、男と女の愛について強い信念を持っています。
それは姫をモノスタートスから救った時に姫に語った言葉に表されており、王子が写真を見て一目惚れするほど美しい姫と手をつないで逃げながらも、心を姫に移すことはありませんでした。
姫に心を移さなかったのは、自分の求める相手のイメージをしっかり持っているからであって、その思いは老婆が変身した「小鳥のしっぽのある娘」と出会った時に成就されます。
しかし彼は、試練を受けている間の沈黙を守れなかったために王子から引き離され、「小鳥のしっぽのある娘」とも出会ったその束の間に引き離されてしまいます。

実は筋書きのところでは省略してしまいましたが、パパゲーノの最初の登場シーンで、彼はタミーノ王子に嘘をついてしまいました。
王子が大蛇に襲われそうなところを、あたかも自分が救ったかの如く言ってしまったのです。
しかし、大蛇を倒したのは夜の女王の配下である三人の魔女でした。
彼はこの最初のシーンで、彼の適当でお調子のりなところをたっぷり見せてくれたのです。

しかしこのような人物であっても、彼に好感を抱く人間は沢山いるでしょう。
彼は王子とともに最初の試練を受けた後に、書架の間を抜けていく途中の小窓から見えたパミーナ姫の背後に潜む、姫に片思いのモノスタートスに同情しているのです。

この物語は、例えそんな意思が弱くて試練を乗り越えることができない人間に対しても、魔法とともに幸福な結末が用意されているのだということを暗示させてくれます。

そして、この絵本のあとがきにはこうありました。

*つまり「魔笛」は、人間のだれもがもつ弱さやもろさに優しく目をむけた人間賛歌なのだ。


「人間賛歌」


もしこの本を手にされたなら、その言葉を心に刻んで、もう一度パパゲーノの登場シーンを開いてみてはいかかでしょうか。
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