日比谷同友会 こぶし会

日比谷同友会 サークル活動

第388回例会(令和3年4月)報告

2021年05月06日 | 例会報告

第388回例会(令和3年4月)報告
 この例会もネット開催した。第一話の配信は1月22日、第二話は1月25日、第三話は2月3日、第四話は2月16日、第五話は2月21日、第六話は3月19日にネット配信し、ネット上で質疑応答を行い、終わりに5月3日にZOOM会議を行ってレジュメをまとめた。
話題 卓話
                        桑原 守二
第一話 米技術見本市が示した新潮流
米国のCESも初のオンライン開催となった。例年、世界から4000社以上が出店しているが、今年は記者会見や製品発表など全てがネットで配信され、出展企業も半減したようだ。それでも会期中の発表からは、これからの技術潮流が示されたという。
最初は米小売りの最大手、ウォルマートの健闘ぶりである。ネット通販配送拠点として既存の店舗を併用し、また定額制の宅配サービスに参入するなどコロナ危機下でも業績を伸ばしている。伝統的な巨大企業でもネット技術をうまく組み合わせれば、将来の成長戦略を示せる好例であり、日本企業もデジタル技術を活用して事業構造の変革を急ぐ必要があるとしている。
次は脱炭素の取り組みである。米GMは2025年末までに高級車から商用車まで30車種のEVを発売すると発表した。企業ロゴを57年ぶりに変更して電動化への決意を示した。日本の自動車各社も脱炭素への長期ビジョンを示すことが急務である。
世界1の自動車メーカ、トヨタもGMと同様にEVへの取組が遅れた。プラグイン・ハイブリッド(PHV)で当分はEVに対抗できると言っていたが、販売車両数の多い中国でシェアが惨憺たる状況を現実にして、ようやく電動化に腰が据わったようだ。
第二話 「一話:新潮流」の続き
EVと自動運転に向けて2025年までに270億ドルもの投資を行い、厳しい構造改革を進めるというGMの発表は車業界に「電気ショック」を与え、発表後にGMの株価を上昇させて2010年の再上場後の最高値を更新した。全車種にわたる電動化の具体的な方針を示したのは、大手ではGMが初めてである。
日産は主要市場で発売する新型車を30年代早期にすべて電動化する計画を発表したが、発売済みのモデルは対象にしていない。日本の自動車大手はHVを含めた全方位の電動化戦略であり、政府も電動車の35年の普及目標にHVを盛り込んでいて、ガソリン車中心の産業からの構造転換は道半ばだ。抜本的な構造改革を急がねば、生き残れないリスクがある。
堀洋一東京大学教授の「走行中給電の検討を」という論評を載せている。画像や音楽をすべてネットで配信して楽しむ昨今、大きなエネルギーを自らが持ち運ぶEVは時代錯誤の商品だ。配電のインフラを道路に設備し、電動車はワイヤレス給電を受けながら走ればよいという意見である。
日本の自動車業界には「日本は火力発電の依存度が高いために、EVを作るほど二酸化炭素ガスが増える」という意見がある。2030年という時代のことだ。もっと再生可能発電を増やすという議論をすべきあろう。
第三話 空飛ぶ基地局について
欧州エアバス、NTTドコモ、フィンランドのノキアの3社が「空飛ぶ基地局」に向け共同研究を実施する覚書を結んだ。高度約20キロメートルの成層圏を飛ぶ無人飛行機に携帯電話の基地局を搭載し、次世代の通信規格「6G」を含めて通信ネットワークの拡充を目指すという。
  筆者は「空飛ぶ基地局」構想について否定的である。高度20キロメートルの飛行機から電波を飛ばすのであれば、少なくなくとも直径50キロメートル程度をカバーするのであろう。これはセルラー方式ではなく、それ以前の大ゾーン方式である。この方式で数多くのユーザーに移動通信サービスを提供するために使用する電波の周波数をどこから探してこようというのであろうか。
 NTT研究所で100GHzの無線方式を開発したことがある。このあたりの周波数なら利用し得る電波があるかもしれないが、スマホなどの端末機で直接受信するのは難しいであろう。エントランス回線としての用途はあるが、雨が降った時の減衰は避けようがなく、伝送が不安定になるのを覚悟する必要がある。
 また昭和40年代の後半、成層圏を飛ばす飛行機をマイクロ波中継所とする案を横須賀研究所が検討したことがあった。詳しく調査をしたところ、成層圏には想像以上に強い偏西風が常時流れており、その風に逆らって一致の場所に止めておくためにはかなりの燃料が必要で、実現は困難という結論だった。
第四話 半導体の研究開発
世界最大の半導体受託製造会社、TSMC(台湾積体電路製造)が茨城県つくば市に本格的な開発拠点を設けると発表して、大きな話題になっている。このところ半導体分野で日本勢の存在感がなくなっているので、世界で名だたるTSMCが関連日本企業を引っ張っていってくれることを多くの人が期待している現われである。
TSMCの2020年の売上高は前年の25%増で約5兆円、サムスン電子の6兆円に近い数字である。TSMCの2020年売上げの20%が回路線幅5nm製品、29%が同7nm製品であるが、サムスンも昨年5nm製品の量産を始めたが歩留まりが十分でない。半導体の雄インテルもいまだ7nm製品の製造に踏み切れておらず、2022年にずれこむとの予想もある。長年見慣れた「Intel Inside」という表示が無くなるかもしれない。
第五話 クラウドとデータ通信サービス
 世界最大のデータセンタ企業はエクニクスだという。1998年の創立だからまだ20年余しかたっていないが、世界24か国、約200カ所にデータセンタを保有している。日本でも東京および大阪市で12カ所のデータセンタを運営している。
 現在、世界でクラウドサービスのシェア第1位はアマゾンのAWSであることは新聞で承知していたが、第2位マイクロソフト、第3位がIBMであり、このところ力を入れているグーグルがそのうちに肩を並べる存在になるかもしれない。NTTデータが活躍していると思っていたが、世界の中では存在感が薄いようだ。クラウドというのはネットを経由しコンピューター資源を活用する仕組みである。こうしたビジネスモデルは電電公社の北原安定元副総裁が局長時代に提言、昭和50年代初めにデータ通信サービスとして実用化された。しかし、通信回線の伝送速度が低かったため、大きくは発展しなかった。北原氏の着想が30年早かったのである。後に続く筆者たちの叡智と努力が足りなかったと、いつも忸怩たる思いに苛まれている。
第六話 垂直統合から水平分業へ
 開発・生産・販売まで、一貫して単一企業が担うのを垂直統合という。我々はこの言葉をベルシステムから学んだ。ベル研究所の研究開発成果を基にウェスタンエレクトリックが製造した通信機器を、22の地域電話会社と長距離電話を扱うAT&Tが調達して電話サービスを提供した。NTTはベルシステムから学んで、通研が研究し、技術局が仕様書を作成、ファミリ・メーカが製造し、専問の工事会社に発注したネットワークを介して電信電話サービスを提供した。これに対し、技術開発、部品生産、組み立て、販売、アフターサービスなどの業務ごとに、別々の企業(グループ)がそれぞれ得意分野を受け持つビジネスモデルを水平分業という。パソコンの製造委託は早かった。受託会社は韓国の広達(クアンタ)などで、工場にはソニーの銘柄が付けられた製品が並んでいた。液晶テレビなどの受託製造会社、鴻海(ホンハイ)は台湾を代表する企業である。半導体産業の水平分業については第四話で述べた。ガソリンを動力とする自動車は垂直統合の見本のような存在であった。しかしモーターと蓄電池だけで動くEV(電気自動車)は水平分業を可能にし、設計と販売だけを行う企業が現れ始めた。
 思いもかけなかった企業も電気自動車分野に参入する計画である。出光興産は地域内移動用の低価格EVを開発する。ヤマダ電機は、スズキOBが設立した小型EVメーカに出資をした。佐川急便は配送用の小型EVを開発中だという。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第387回例会(令和3年1... | トップ | 第389回例会(令和3年6... »
最新の画像もっと見る

例会報告」カテゴリの最新記事