日比谷同友会 こぶし会

日比谷同友会 サークル活動

第378回こぶし会例会報告(令和元年5月13日)

2019年05月29日 | 例会報告

話題 1 タイは中進国の罠を回避できるか            加藤 隆

 タイは長年に亘るわが国からの支援もあり、今やアセアン諸国(特に陸の回廊)の中心として進展し,中進国入りを果たした。タイは面積が日本の1.4倍、人口は約半分で、亜熱帯に位置し自然豊かで、独自の文化があり、これが観光資源にもなっている。国民は国王をこよなく敬愛し、僧侶を尊敬する仏教国であり、今や4,500の日本企業が進出し、住人として日本人は7万人を超え、日本レストランは3,000軒に及ぶ。そして特に最近日本にあこがれ親日的である。これまでタイの産業への日本からの寄与は計り知れない。それは技術協力とビジネスを通してなされたが、電気通信の分野でも、半世紀に及ぶ日本で開発された技術の移転、通信網建設や人材育成に貢献し、今でもデジタルトランスファー(DX)などで続いている。         タイの最近の情勢として、周辺の国の振興が進んでいるせいか、報じられる話題が減少気味ではあるが、依然活気に溢れている。クーデタにより成立した軍事政権が5年目に入り、先般民主的な総選挙が行われたが、政権の行方がなお不透明で、政情がやや不安定である。またGNPの成長はやや停滞気味で、首都圏と地方との格差が縮まっていない。わが国からの投資が一巡した感があり、米中貿易摩擦の影響がじわじわ出てきている。1年前に国民が敬愛してやまなかった前国王が逝去され、ラマ10世王が即位した。                        タイはその中にあって、中進国の罠の回避に向けての模索をしている。その一つが、長期的に目指す経済社会ビジョン「タイランド4.0」実現に向けた施策で、イノベーション・生産性・サービス貿易に重点をおいた持続的付加価値創造を目指している。そのため、10の産業(次世代電話、スマートエレクトにクス、ロボット産業、農業バイオテクノロジー等)を優遇している。       そのために、デジタル経済社会の促進(インターネット環境整備等)、新規投資戦略(東部経済回廊への投資を優遇)、タイランド+1(周辺国へ進出)を柱とし、バンコックーチェンマイ間に日本式高速鉄道の導も入計画されている。また貿易の拡大を図るため、ASEAN内の貿易振興はもとより、TTPへの参加も望んでいる。ここに今後とも我が国からの技術やノウハウの移転や投資のチャンスは大きい。更にタイは国民性として強みをもっている、それはb、国王敬愛や仏教崇拝など精神文化のバックボーンがある。また目上の尊敬や互助など心豊かで微笑みの国でもある。更に柔軟で八方外交というしぶとさも持っている。「遅々として進む国」・「何とかなるさの国」のタイは着実に進展している。

話題 2  目から鱗の地政学           島田 博文

 最近は新聞等で地政学という言葉が説明もなく使われている。そこで地政学とは如何なるものかを知りたくなって、勉強したのが今回の”目から鱗の地政学”である。             地政学には、「歴史を善と悪の戦い」と考え「正義は勝つ」とする理想主義と「歴史には正義も悪もない。あるのは生存競争。勝敗は道義的な正しさではなく、力の強さで決まる」という現実主義(リアリズム)がある。では地政学とは如何なるものか。                    地政学は、国家間の衝突のことの善悪でなく”国家間の生存競争”とみなし,時刻が国際社会で生き残るための国家戦略を、国土の地理的条件からマクロ的に分析する学問である。地政学の提唱者には、米国のアルフレッド・マハン、英国のマキンダー、ドイツのフリードリッヒ・ラッツエル等があり、初めて地政学という言葉を使ったのはスウエーデンのルドルフ・チェーデンだ。 

マハンは米国の立場から、①海を制する者は世界を制す。②如何なる国も、大海軍国と大陸軍国を同時に兼ねることは出来ないとし、マキンダーは英国の立場から、①これからの世界ではSea Poweの力は衰退し、Land Powerが優勢となろう。②東欧を制する者はハートァンドを制し、其処を制する者は世界を制するとした。ラッツエルは、国家が生存する為に一定の領域が必要だという生存圏論を提唱した。チェレーンは”生存圏肯定の理論”を再編成し、「ゲオポリティク」(地政学)の名称を用いて自給自足論を提唱した。

米国はマハンの戦略通り動き、第二次世界大戦に勝利し、本国は戦場にならず、戦後経済は大発展する。資本主義国であるため、常にフロンティアを求め、Sea Power国家になり、世界の警察官の役目を果たした。フロンティアが無くなり、格差が拡大し、ポスト資本主義に悩み、自国第一主義を唱え閉鎖的になってきた。結果、「力の空白」ができ、リムランド(大陸縁地域)での紛争が発生する。

ロシアはロシア革命でソ連を創り”社会主義の世界への普及”を目指したが、資本主義に負け、ソ連は崩壊した。民主主義・資本主義に移行したが、格差が拡大し、社会主義に戻りつつある。プーチンは独裁的になり強いロシアをめざし、巻き返しを図っている。

中国は常に北からの脅威を意識していたが、ソ連が崩壊し北の脅威が少なくなり、世界制覇の為にSea Power国家を目指し、一帯一路でリムランドを支配する国家戦略を持ち出した。

英国は欧州半島戦略のオフショアバランス(地域覇権をとりそうもないものに対し、対抗勢力を援助すること)のためロシア・ソ連と組んで第一次・第二次世界大戦を戦いドイツに勝利したが、Land Powerのソ連を強くした。また日本との戦いに勝利したが、植民地が皆独立して、植民地を失い、勝者の混迷にはまり、その地位をアメリカに譲った。  

半島国家は強いところと組むのが地政学的戦略だ。韓国は清に朝貢していたが、日清日露戦争で日本が清に勝ったので親日派ができた。第二次世界大戦で日本が米国に負けると、今度はソ連と組む北朝鮮と米国と組む韓国が出来た。

中東の地政学は次回に譲る。

出典:茂木誠著「世界史で学べ。地政学」祥伝社、倉前盛通著「悪の論理~地政学とは何か」日本工業新聞社、宮脇淳子著「日本人が教えたい新しい世界史」徳間書房

         

 

 

 

 


  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする