北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦 対馬海峡に出現、北上を確認!

2010-05-18 13:57:50 | インポート

◆第14護衛隊はまゆき、当該艦を確認

 統合幕僚監部の5月17日発表において、非常に驚く事ですが、ロシア海軍のキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦が対馬海峡を北上していたことが明らかにされました。

Img_2237_1  16日2300時頃、海上自衛隊舞鶴基地を母港とする第14護衛隊の護衛艦はまゆき、が下対馬南東約22kmを北東に進むロシア海軍のキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦を確認、警戒を続けたところ対馬海峡を北上したことを確認したとのことです。キーロフ級は第二次大戦後最大の水上戦闘艦として知られています。キーロフ級は満載排水量24300㌧、全長252㍍、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型よりも大きいミサイル巡洋艦です。一番艦キーロフは1980年に就役、二番艦フルンゼは1983年、三番艦カリーニンが1988年に、四番艦ユーリアンドロポフが1992年就役予定として建造が続けられ冷戦崩壊後の混乱の末1998年に就役しています。

Img_8104  キーロフ級は、イージス艦を含む全ての水上戦闘艦を圧倒する能力を有しています。防空ではフォールト防空システムを搭載しており、射程90km有効射高30kmのSA-N-6艦対空ミサイルと組み合わせることで、西側で言うところのイージス艦に準じる艦隊防空能力を有しています。また米海軍の空母機動部隊に対抗するためにSS-N-19対艦対地ミサイルを搭載していて、このミサイルは射程550km、超音速で巡航し、350?核弾頭か750㎏HE弾頭により空母を含む大型水上戦闘艦にも破滅的な威力を行使することが可能です。世界で最も初期にステルス性を設計に取り入れた水上戦闘艦としても知られ、基本的にミサイルは全てVLSに収容されていて、このほか艦内の格納庫にヘリコプター3機を搭載しています。

Img_8409 艦隊防空、長距離打撃力とかなり強力な航空機運用能力を有している巡洋艦は原子力を動力としていて、補助動力として蒸気タービンを搭載しています。キーロフ級が就役した当時は、ソ連軍がアフガニスタンへ侵攻した時期であり、加えて非常に大型である原子力ミサイル巡洋艦には、平時のプレゼンスとして、アメリカ海軍が現役復帰の為の近代化改修を実施していたアイオワ級戦艦の満載排水量57353㌧を除けばカウンターバランスとなる艦船が無かった事もあり、非常に大きな脅威として捉えられていまして、二番艦フルンゼが太平洋艦隊に配備された際には、1979年に太平洋艦隊に配備された空母ミンスクと並び日本へ及ぶ脅威の代名詞のように捉えられた巡洋艦です。

Img_2016  キーロフ級は、このように巨大で強力な水上戦闘艦なのですが、今回の行動については注目すべき点が幾つかあります。まず第一にキーロフ級が動いたという事です。水上戦闘艦として世界最大の規模を誇るキーロフ級は乗員だけで750名以上を必要として、原子炉を含め維持運用には多くのコストを要します。したがって、冷戦終結後はロシア国内の経済的混乱もあって海軍予算は劇的に縮小を余儀なくされた結果、その運用は非常に稀有であり、現役艦は冷戦終結後多くが予備艦として保管され、三番艦カリーニンのみがアドミラルナヒモフとして稼働状態に留まりました。四番艦ユーリアンドロポフはロシア政府の強い意向もあり1998年にピョートルヴェリキイとして就役しましたが、代わりに三番艦が予備艦状態となっています。キーロフ級が外洋に出た、ということだけでも本型が稼働状態にあるという点で重大な意味を持っている訳です。

Img_7548  海上自衛隊としてはキーロフ級が稼働状態にあるだけでも先日のアクラ級攻撃型原潜宗谷海峡通過以上の重大な関心事となります。防衛省ではキーロフ級のどの艦を確認したかについては発表していませんが、参考写真では艦番号099、ピョートルヴェリキイの写真が掲載されていました。そこでもうひとつ重要な点を加えなければなりません、実はピョートルヴェリキイはモスクワの遥か北バレンツ海に面したムルマンスクの北方艦隊に所属する巡洋艦で、北方艦隊旗艦です。一部外電では、ピョートルヴェリキイが黒海艦隊との合同演習に参加するという報道があり、インド洋を航行していた、という情報もあったのですが、インド洋から太平洋、そして対馬海峡を北上したとすれば、太平洋艦隊司令部が置かれているウラジオストック基地に入港した可能性があります。

Img_7226  今回のピョートルヴェリキイの行動は、冷戦終結後としては特筆すべき事例なのですが、一方でこうした行動が今後も継続的に実施されるのか、数年に一度の単位で実施されるのかについては現時点で未知数です。その一方でロシア太平洋艦隊には予備艦として、キーロフ級のフルンゼが残っており。また稼働艦として満載排水量11490㌧のミサイル巡洋艦ワリヤーグを筆頭に原子力潜水艦17隻、8000㌧前後の大型水上戦闘艦約10隻が現役です。通常動力潜水艦もキロ級が少なからず配備されており、技術的能力的には中国海軍よりもロシア海軍の方が遥かに大きい訳で、中国海軍の装備品の多くがロシアからの供与もしくはそのデットコピーであることを忘れてはならないでしょう。従って日本も周辺国情勢として西方や南方に注視する事ももちろん重要ですが、北方へも関心を向ける必要があることを確認する、今回の出来事はそういう機会として考えてはどうでしょうか。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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8 コメント

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記事とは直接関係無いのですが、 (蒼い)
2010-05-18 22:23:55
記事とは直接関係無いのですが、
対独65周年パレードをみて思ったんですが、
ロシアは欧米と戦略的に関係を改善しようという意図が感じられました。
米英がパレードに参加している姿をみて、なんとも言えない気持ちになったのですが、
他にも直接関係ない中国なども参加して、
ロシアが今後関係を深めている国を選んで参加させたという感じもします。
ロシアとしては欧米中国との関係を最重要にして、
グルジアやその周辺を脅威と考えると同時に、
日本を仮想敵国として定め、軍事的な圧力をさらに強め、
北方領土問題で欧米を味方につけ、日本に譲歩(主張を実質的に破棄させる)
させるという狙いを持っているのではないかと。

鳩山総理の米との対等な関係、アジア外交推進などと言っては見たものの、
アメリカとは対等どころか、王様の命令に家来が大騒ぎしているような、
みっともない状況になり、その日本の姿を見た中国が、
軍事的な圧力外交に切り替え、その圧力を見た民主党が
自民党時代に合意した東シナ海の油田で中国側に譲歩するという話も出ています。
私は日本はどこの国からも孤立しているのではないか、そんな日本を見て
世界中から圧力をかけられているのではないかと感じています。
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蒼い 様 こんばんは (はるな)
2010-05-19 03:02:59
蒼い 様 こんばんは

ロシアは、グルジア紛争で生じた対立構造に対して、必要以上に溝を拡大させること無く、という選択肢があるのだろうかな、と。

しかし、今回の戦勝パレードですが米英を参加させても、まさか枢軸国を参加させる、という選択肢は無かったのかな、と。何分、ドイツ兵捕虜が戦時中にモスクワのパレードに捕虜として参加させたことがありますからね。

大祖国戦争と彼らが歴史に残したように、ソ連と言いますか、今日のロシアにとっても第二次世界大戦、というのはそれだけ大きく、という意味なのではないでしょうか。フランス軍は置いておきまして中国、当時は今とは政権は違いますが、イギリス、アメリカ、という国はそうした背景を考えさせます。
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キーロフ級CGNは、2隻を現役復帰させる計画があ... (丸猫)
2010-05-19 13:42:11
キーロフ級CGNは、2隻を現役復帰させる計画があるようですね。アドミラル・ラザレフ(旧フルンゼ)もその内の1隻のようです。スラヴァ級CGワリヤーグは、国際観艦式で、横須賀基地に寄港した事がありますが、海自の人が、「ミサイル発射筒の中は、空で来ている可能性がありますね。昔、赤の広場で、ICBMの発射筒の中は、空で中に錘を入れて誤魔化していた事が、ありましたから。」なんて言ってました。あの時は、キロ級SSも来航したのだから、時代が変わったものですね。最近は、ロシア軍機による東京急行も活発化しているようですからね。西方重視に傾倒するのも、いかなものかと思います。
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丸猫さんの投稿にもありますがロシア国防省はキー... (月虹)
2010-05-19 20:34:06
丸猫さんの投稿にもありますがロシア国防省はキーロフ級のラザレフとアドミラル・ナヒモフ(旧カリーニン)の2隻を近代化改装の上で現役復帰させると発表しました。しかも内1隻は太平洋艦隊に配備されるそうな…

最近ロシアではエネルギー関連の好況に沸くロシア経済の影響を受けて新型戦闘機PAK-FAや海軍の新世代フリーゲートの建造といったように軍事部門が活発化してきています。ここでロシアとしてはキーロフ級を復帰させ、存在感を示すことによりアメリカの空母外交に対抗する狙いもあるのでしょう。

2隻は80年代末からほとんど動いていなかった為、完全復帰にはそれなりの時間を要するでしょうが我が国としては今後注意深くその動向を見守っていく必要性がありますね。
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丸猫 様 どうもです (はるな)
2010-05-20 00:51:24
丸猫 様 どうもです

フルンゼは沿海州周辺の施設で保守整備だけは実施されている予備状態と聞いていたのですが、本格復帰への準備に入りましたか。

しかし、フルンゼは1983年就役、今年で艦齢27年を迎える訳ですから、水上戦闘艦としてはどの程度運用できるのかな、という素朴な疑問が涌いてこないでもありません。

ロシア海軍ですが、ここ数年を見てもウダロイ級やキロ級が舞鶴基地に寄港していますので、時代は本当に変わった、という印象なのですが、一方でロシアは同盟国ではなく、価値観も決して近くは無い訳で、西方シフトとともに北方を戦略予備として重装備部隊の集中、という必要は多少あるのだろうと考えます次第。
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月虹 様 どうもです (はるな)
2010-05-20 01:25:30
月虹 様 どうもです

 フルンゼ、先程のコメントで決して新しくは無い、と書いたのですが一方、あまり動いていない分摩耗部分だけは最小限なのかもしれません。まあ、年に一度二度対馬海峡や宗谷海峡を通行するだけで絶大なプレゼンスを発揮できるのが、あの巨大な原子力ミサイル巡洋艦なのですけれども・・・。

 一方新世代フリゲイトは、かつてのウダロイ級やソブレメンヌイ級のような大きさは無く、アドミラルゴルシコフ級で4500㌧、予定ですが来年一番艦が就役予定で19隻を量産する計画のようですがこの艦や、遅れている模様であるグロム級フリゲイトが3600㌧、かつてのクリヴァク級くらいの大きさで、今後、キーロフ級のような超大型巡洋艦の建造、というのは無いのだろうか、とも。平時のプレゼンスよりも有事の実用性、という移行の過程かもしれませんが。
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キーロフ級ってまだ生きてたんですね。 (F-5)
2010-05-20 09:43:26
キーロフ級ってまだ生きてたんですね。
巨大な原子力ミサイルフリゲートって何か大艦巨砲時代の亡霊のような感じです。
全通飛行甲板の軽空母にでも改造すれば結構役に立ったかもしれないと思いますが・・・
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F-5様 こんにちは (はるな)
2010-05-20 12:54:59
F-5様 こんにちは

四番艦だけは現役、とジェーンや世界の艦船では記されていたのですが、同時に世界の艦船では予備艦となっている艦も整備状態は良好(廃艦や解体準備の様子が無いという意味で)、と出ていましたので、そろそろ次の動きがあるのでしょうかね。

キーロフ級は、下手に空母のようにしてしまいますとかつてのキエフ級のように中途半端なものになってしまいそうで、何分艦載機としてVTOL機のYak-38があるのですけれども実用性が余りない機体でしたので、それよりは550km先の目標を狙える大型の対艦ミサイルの方が実用性が高かったのかもしれません。

航空機の胴体並の大きさがある対艦ミサイルは、ミサイルの整備にもハープーンやSSM-1のような整備不要チューブ封入式ではなく、取り出して整備する必要があるのですし、・・・、強力な対艦無人機、という印象もあります。
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