北大路機関

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陸上防衛作戦部隊論(第六一回):航空機動旅団、戦車とは根本的に異なる機動戦闘車の運用

2017-01-10 23:38:18 | 防衛・安全保障
■機動戦闘車と戦車の相違点
 機動戦闘車と戦車の相違点について、特に戦車とは根本的に異なる機動戦闘車の運用という視点から見てみましょう。

 機動戦闘車は戦車とは根本的に異なる装備であり、機動旅団へ配備が開始される状況、今回までに提示してきました装甲機動旅団と航空機動旅団ともこの戦車とは異なる機動戦闘車という位置づけを踏まえて部隊の在り方や運用を考えてゆかなければなりません。16式機動戦闘車と10式戦車、比較した場合は最初に装軌式車両である10式戦車と装輪式車両である16式機動戦闘車と、機動力の相違点に最大の注目が集まるところですが、これは間接的なもの。

 最大の相違点は防御力の低さにより攻撃衝力の持続性が非常に低いという難点が挙げられます。16式機動戦闘車により近く完全に代替される74式戦車ですが、防御力はこの旧式である74式戦車と比較した場合でも非常に低いものとなっており、74式戦車では対戦車ミサイル全盛の時代に在って防御力を機動力に置き換えようとした時代の装備品ではありますが避弾経始という、発想で設計されています。

 避弾経始、発想としては一世代前の第二世代戦車のもので、敵戦車砲弾の直撃を想定し当時徹甲弾の主流であったAP弾を受け流す、またMP弾のような化学エネルギー弾に対しても信管作動を遅延させ車体への致命的打撃を回避するとの設計思想が執られています、現在はAP弾がAPFSDS弾へと転換し、避弾経始と云う概念は時代遅れのものとなっていますが、それでも携帯対戦車火器に対しては一定以上の水準の防御能力を発揮できるよう要求性能が示されました。

 勿論、74式戦車は現時点では夜間戦闘能力について、車長の携行する暗視望遠鏡や携帯暗視装置を除けば夜間戦闘能力が無く、主砲用の照準用には赤外線サーチライトを用いるアクティヴ式照準装置しか保有しませんので、相手が第三世代戦車等夜間戦闘を重視した戦車であれば一方的に撃破される事から、積極的な夜間戦闘は考えられていません、戦車は500m以遠の目標へ威力を発揮しますが、錯綜地形で夜間に歩兵から近接し対戦車戦闘を展開された場合生残る事が難しい。

 第二世代戦車による日本での夜間戦闘は、普通科部隊の対戦車ミサイル部隊や偵察部隊の熱線暗視装置等と協同し、夜間は攻撃前進を選択せず防御に徹する、という非常に運用が制限されたものでしかありません、これは1974年に制式化された戦車の限界であると共に、元々2016年の時点では冷戦時代の生産規模が維持されていたならば既に90式戦車へ換装完了していた筈でした。

 冷戦終結後、限られた予算を第二世代戦車の近代化ではなく戦車新造に回さざるを得なく、又、第三世代戦車の量産開始が列国の中で、例えばレオパルド2やM-1A1よりも後手に回った為冷戦終結の時点で充分に数を揃えられなかった故でもあります。この中で16式機動戦闘車ですが、戦車の撃破能力はあるものの撃ちあって相手の攻撃を受けるだけの能力は無い、従って、待伏せ戦闘に用いるものといえるでしょう。

 故に攻撃機動の三要素として戦術の基本に挙げられる包囲・突破・迂回の三要素の中で、包囲は敵警戒部隊に戦車があった場合は機動が著しく制限され、突破は相手の対戦車火器への防御能力が非憂く不可能、迂回は可能ですが最終確保地域までの敵防御部隊へ戦車が含まれていた場合、行動はおおきく阻害されるといわざるを得ません。

 16式機動戦闘車は防御戦闘や警戒部隊及び敵前進を待伏せる拘束部隊等用途はありますし、着上陸第一波の水陸両用装甲車や空挺装甲車の撃破には大きな威力を発揮するものではありますが、16式機動戦闘車単体での攻撃は非常に難しく、無理に単体使用すれば74式戦車の投入並に厳しい結果を生みかねません、戦車とは全く異なる装備である、という事へ留意が必要です。

北大路機関:はるな くらま
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12 コメント

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Unknown (PAN)
2017-01-12 10:28:48
はるな様
16式機動戦闘車が、戦車の役割を100%代替えしうるものでないことは同意です。また、単体による攻勢で使うべき装備ではなく、あくまでも歩兵部隊等との共同作戦において効果を発揮するものであることもそのとおりだと思います。

ただ、記事中で16式機動戦闘車の防御が74式と比べても著しく劣るとありますが、それはどうでしょうか?
車体部分についてはともかく、砲塔部についてはむしろ74式を上回るのではないかと思います。
最新の複合素材によるコンポジットアーマーを取り入れた砲塔正面は、歩兵携帯兵器に耐えられる仕様であり、たしかカールグスタフ等での試験も行われたはずです。
構造的にも10式の砲塔で培った技術をもとにしていることは明らかで、センサー類の精度も74式と比べ物にならぬことを考えると、例えば車体を豪に隠しての待ち伏せ攻撃等では、74式を上回る攻撃力/防御力を備えうるかもしれません。
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Unknown (軍事オタク)
2017-01-12 13:14:27
機動戦闘車は74式よりもずっと防御力が高いと思います。
対戦車ミサイルもミサイルの能力や当たり所等、場合により封じることができるのではないかと考えています。
理由の第一は最新の複合装甲の装備です。
TOPアタックについても追加装甲を取り付けるためのボルト受けもあるようですから追加したらさらに防御力はアップするのではないでしょうか~
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Unknown (しろ)
2017-01-22 12:34:53
曲がりなりにも戦車戦闘想定した戦車と戦車駆逐車の違いは忘れるべきではないな
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機動戦闘車構成要素開発時期 (はるな)
2017-02-05 11:45:36
PAN 様 こんにちは

16式機動戦闘車ですが、構成要素の全体試作として将来装輪戦闘車両の研究試作が要請されたのは2003年度、将来装輪戦闘車両は戦車を代替とする構想が無かった点に加えて、この当時の戦車定数が900両なのですよね、戦車の撃破能力が盛り込まれるとしても、防御力の面で戦車戦闘を想定していたか、という視点

更に、74式戦車に関してはSTB試作車二次試作車の防御力試験というかたちで105mm戦車砲の耐弾試験が実際に行われ、1967年度の避弾経始形状の研究、と新戦車用防弾鋼板素材の研究、というものが実施されている訳ですが、16式機動戦闘車に関しては、2000年度の74式戦車防御力強化に関する研究、くらいしか応用できる研究が無く、果たしてミサイルの直撃や戦車砲弾の命中を想定した設計となっているのかなあ、と
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84mm無反動砲 (はるな)
2017-02-05 13:23:05
軍事オタク 様 どうもです

16式機動戦闘車、84mm無反動砲弾までの装備庁が技本時代に試験用無反動砲まで調達し耐弾試験は実施しているようですが、戦車砲弾に対する試験については寡聞にして聞かないのですよね

74式戦車の正面部分は傾斜効果も含め200m前後と推測されるのですが、機動戦闘車の場合はまだ未知数で、全長8.45m・全幅2.98m・全高2.87m・全備重量26.0t、74式の場合は全長9.41m・全幅3.18m・全高2.25m・全備重量38t,と

複合装甲については、圧延防弾鋼板全溶接構造を採用しており、機動戦闘車は採用していません、ただ、イラク戦争のM-2装甲戦闘車への追加25mmセラミック防弾鋼板装着を以て同車を複合装甲採用、としているように、後付けの装甲パネルが複合装甲、という意味ならば別ですが・・・、ちなみに駒門の国際教に配備されている高機動車もその定義に含めれば複合装甲、となる、つか普通科隊員も戦闘防弾チョッキ2型以降は複合装甲になるのか

ただ、ご指摘の通り追加装甲により防御力は強化できます、この点で現在防衛装備庁では軟体投射型アクティヴ装甲を研究中ですので、16式に装着するならば防御力は向上します。もちろん、74式に装着しても同様のことが言えるのですが、ね
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試作 (はるな)
2017-02-05 13:26:48
しろ 様 こんにちは

10式戦車と90式戦車については、部分試作として“戦車用複合装甲”が上げられているのですが、16式機動戦闘車は“機動戦闘車用装甲”の試作事業が、調べ方もあるのでしょうが見つからないのです

ご指摘の通り、戦車駆逐車は戦車を駆逐する能力はあっても戦車戦にて撃たれる事を想定しないもの、戦車は戦車戦闘を想定し撃ちあう車両です、この部分は留意しておくべきですが、実際、防御力で74式戦車と16式機動戦闘車の優劣はどうなっているのか、興味深い内容ではありますよ、ね
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Unknown (kanryu)
2017-05-06 11:12:51
74式戦車が機動戦闘車より防護力が上回るという意見はいかがかと思います。

均質圧延防弾鋼で作られた74式戦車がRPG等を始めとした成形炸薬弾に抗たんできるとは到底考えられませんが、機動戦闘車は携行対戦車弾に対する抗たん試験が実施されていると推測されているのはご承知のとおりです。

機動戦闘車は本体の装甲のみではせいぜい20mm機関砲弾に耐える程度でしょうが、増加装甲をつければ30-40mmにも耐えられるようになるでしょう。
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意外と大きな74式戦車の防御力 (はるな)
2017-05-30 20:57:45
kanryu 様 こんばんは

74式戦車の防御力ですが、意外と馬鹿にできないものがあります。それは第二世代戦車の中でも戦闘室を異様に抑えた鋳造砲塔を有している為、正面部分に装甲材を集中する事が出来ました

砲塔正面部分の装甲厚は110mmから140mm、ここに避弾経始効果と傾斜効果が加味されます、戦車砲弾には特にAPFSDS弾には限界がありますが、大口径機関砲には充分対抗できる装甲厚です

機動戦闘車は携行対戦車弾に対する抗たん試験が実施されている、とのご指摘ですが、当たり前の話ですが千歳試験場で74式戦車も実験を行っています、勿論74式は戦車砲弾への耐弾試験も実施しています、ただ、逆に言えば16MGSに戦車砲弾を用いた耐弾試験を行った、という話、聞かないのですよね

機関砲について、エリコン35mm機関砲はAP弾使用で1000m距離にて40mm均質圧延防弾鋼を貫徹します。ところで、30-40と十把一絡げに示されていますが、40mm機関砲はボフォースの資料ではAP弾を使用した場合、初速1470m/sの砲弾は1500m距離で150mmの貫徹力を有します、安易に30-40とされましても10mmの違いはこれほど威力が段違いである点、ご留意下さい

また、16MGSへ増加装甲を取り付ければ30-40mmに対抗できる、という視点ですが、そもそもその増加装甲は仮に開発されたとして74TKに取り付けられないのでしょうか、16MGSは装輪式であり云わば八点の車輪で接地しています、対して74TKは装軌式であり履帯幅550mmの面で接地、重量への耐性は、勿論懸架装置により制限されるものでしょうが、装軌式の方が重量増加には長けています

確かに、機動戦闘車は装甲防御に先進的な配慮は為されているといえます、逆にされていなければ不自然です。しかし、26tの16MGSと38tの74TK,16MGSの車体長8.05m全幅2.98mと全高2.87mに対し、74TKの車体長6.70mに全幅3.18mと全高2.25m、16MGSは74TKよりも12tも軽量でありながら大柄です、この重量と車格の違いを補える程、防御材は進化したのでしょうか?こうした視点から、74TKの方が16MGSよりも防御力は高い、としました
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Unknown (kanryu )
2017-08-19 07:23:29
>74式戦車の防御力ですが、意外と馬鹿にできないものがあります。それは第二世代戦車の中でも戦闘室を異様に抑えた鋳造砲塔を有している為、正面部分に装甲材を集中する事が出来ました

だからどうしたと言うんでしょうか? それが機動戦闘車が耐えられない砲撃を74式戦車が耐えられるという証拠にでもされるおつもりでしょうか? そもそもT-72やM1A2がRPG系でいくらでも撃破されている例があるわけですがまさか知らないとでも?

機動戦闘車が増加装甲込みで40mm機関砲に耐えられるという推測は、機動戦闘車が模範としているチェンタウロ戦闘偵察車の増加装甲がまさにそういう仕様だからです。後から開発された機動戦闘車がこういった拡張仕様を知らないわけがないわけですし、増加装甲を後から付けられる仕様なのは明らかなのですから。

74式戦車に増加装甲どころか近代化改修をしないというのは自衛隊がそういう方針だからです。知らないわけはありますまい。

それと、10式戦車や機動戦闘車が増加装甲を付けるか付けないかは全く無関係ということも付け加えておきます。
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論点すり替えは困ります (はるな)
2017-08-20 18:57:07
kanryu 様 論点すり替えは困ります

>だからどうしたと言うんでしょうか? 

あなたの主張する16MGSが40mm機関砲弾に耐えられるはず、というものは根拠が無く、耐弾試験をしているのだからきと防弾性能も高める筈、という視点でしかありません

>自衛隊がそういう方針だからです

いいえ、G型として火器管制装置と暗視装置を中心とした改修を費用対効果で算定した上で、実施したならば後継車両である90式戦車の調達に支障が来すとして、事業評価当時の年産36両体制維持を優先しただけに他なりません

>機動戦闘車が模範としているチェンタウロ戦闘偵察車の増加装甲が

うーん、軽装甲機動車の防御力をフランスのVBLを元に算定しているような表現をされてもなんともいえないのですが、それ以前にチェンタウロが40mm機関砲に耐えられるという話は初耳です、イヴェコ社も増加装甲で正面部分が30mm機関砲弾に耐える、という話です

40mm機関砲弾に耐えられる、というのは何処の話でしょうか・・・、繰り返しますが35mmと40mmでは威力が40mm均質圧延防弾鋼貫徹と150mm均質圧延防弾鋼貫徹で全く違います、もしかして当方が知らないうちにチェンタウロに装着可能な軽量で100mm相当の防御力をもつ増加装甲が追加できるよう開発されたのでしょうか、もしそうならば喜ばしい事です

>そもそもT-72やM1A2がRPG系でいくらでも撃破されている

戦車の防御力のうすい部分を叩けばRPGでも簡単に撃破出来る事は事実です、しかし、それでもって命中しやすい部分も含め軽装甲でよいかと問われれば全く別の話しです

その上で留意せねばならないのは、74TKが耐弾試験を含め戦車戦を意識しているのに対し、16MGSは対戦車戦闘能力を持っていたとしても、敵戦車砲弾命中を想定した設計には、そもそも要求されていない、ということです

>10式戦車や機動戦闘車が増加装甲を付けるか付けないかは全く無関係ということも付け加えておきます

2002年に技本が74TKへ防御力強化試験を実施しています、その上で無関係と勝手に付け加えられましたが、当方が指摘しているのは現状の防御力ではなく、10TKや16MGSに追加できる増加装甲が開発されたならば、その増加装甲は74TKへも装着できるものであり、この場合は懸架装置の冗長性と接地圧が搭載出来る装甲の重量を左右する、という意味で前回指摘しました、16MGSは装輪方式ですので増加装甲は点で支える車輪の接地圧に直結します、この部分は面で支える装軌式とは根本的に異なります
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