北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑧ 災害関連死対策へどれだけ輸送すればよいか

2012-06-23 00:40:03 | 防災・災害派遣

◆自衛隊が地域の最小限補給を支えるために
 東日本大震災、死者行方不明者は二万をわずかに下回る水準ですが、災害関連死を含めた場合、二万を大きく上回ることが判明しています。
Nimg_6939 地震と津波から生き残った国民を死なせないためには毎時何t/何km輸送を何日間継続すればよいのか、橋梁破壊と道路障害を復旧させるための仕事量はどれだけなのか、これを明示しなければどれだけ部隊と装備を揃えるべきか要求が出来ないだろう、という点。津波被害、そして地震による被害から生き残った上で、しかし災害関連死と、という状況は絶対に避けなければならないところであり、特に新潟中越地震などでは地震そのものの犠牲者よりも災害関連死の件数が凌駕していたことを思い出します。これを避けるにはどうすればいいのか、それは避難所と、避難所での生活を改善、病院機能と負傷者搬送体制の刷新、これらを行うほかはないでしょう。対処療法的と言われるでしょうが、このほかに犠牲者を減らすすべはありません。
Nimg_1123 これはいわば第二の死、というもので、このうえない悲劇です。災害関連死を回避するには、適切な暖房や冷房により避難所の居住性を高め、震災当初であれば一時的に栄養失調を防ぐ事に主眼が置かれるべきですが、続いて健康被害が出ない食事体系への適切な移行、更には避難所での生活、過密状態等が起因し血管に障害が出来るなどの要因を回避するという面や持病などに対する震災下での壊滅したインフラ体系に際しても、平時医療基盤を最大限維持するということ、これらによってしか成り立たないでしょう。
Nimg_1199 さしあたって、重要となるのは民間インフラ復旧をいかに迅速に立ち直らせるか、ということで、これは自衛隊の能力では特に高架部分の復旧や錯綜地形の橋梁復旧は時間を要しますので民間の区分、言い換えるならば、その間の補給支援は道路が通行困難となる状況に際しては、やはり自衛隊が実施しなければならないということになります。即ち、輸送ヘリコプターや多用途ヘリコプターによる空輸、輸送艦や護衛艦艦載機からの物資輸送、場合によっては輸送機からの直接問うか、ということも真剣に考えられなければなりません。
Nimg_2260 上記の通りの問題ですが、大きな問題は自衛隊がどの程度の輸送能力を整備すればよいのか、防衛計画の大綱にはそもそも自衛隊に求められる輸送能力、24時間当たりの輸送トン数と輸送距離について、大まかな目安が無いのです。防衛計画の大綱、防災計画の大綱でもよいのですけれども、自衛隊は大規模災害という、文字通り国家的非常事態、つまり有事に際してどれだけの輸送能力を持っていなければならないのか、大綱は戦車や護衛艦に戦闘機の定数、それも予算削減の意味での上限というべき数字だけを列挙し、他方必要な輸送能力を明示しないというのは余りに後方支援軽視ではないでしょうか。
Nimg_2498 もちろん、数字の算出は複雑です。まず、航空自衛隊の輸送機を以て輸送能力を確保、と考えますと、王に際して、空港機能がどれだけ被害を受けるのか、というところに空輸能力はかなりの面が左右されるわけで、高知空港、南紀白浜空港は沿岸部から数百mの距離、徳島空港は滑走路が海上に延伸、関西国際空港は海上空港であることから、自衛隊輸送機の拠点となるべき航空基地が機能不随となり、伊丹空港や八尾空港に輸送機で全国から物資を集中させ、そこからヘリコプターにより輸送する、という方法になる可能性さえあります。
Img_0069p 航空管制を空中警戒管制機に依存し、そのまま演習場への不整地着陸による強行輸送を行う、落下傘での輸送を行う、直線の高規格道路について航空機の発着に耐えるアスファルト厚確保区間を予め調査しておく、という方法はもちろん考えられるでしょう。特に空中警戒管制機による管制支援は、東日本大震災においてE-767が災害派遣で展開した際に、実際に航空管制を実施していますので、こちらは可能です。他方、落下傘を用いる、高速道路を用いる、これらはどうしても通常の飛行場利用に比較して、連続性と輸送能力に影響しますので、可能ならば空港復旧の即時化などを考えてもらいたい。
Nimg_7290 輸送艦については、恐らく相当規模の被害があった地域であってもLCACにより揚陸を行うことが可能でしょう。ヘリコプター搭載護衛艦に搭載される哨戒ヘリコプターや掃海輸送ヘリコプターもこの能力を最大限発揮することが出来ますし、陸上自衛隊や航空自衛隊のヘリコプターを輸送艦に展開させての輸送任務も十分能力を発揮することはできるでしょう、しかし、即座に展開できるヘリコプターはどの程度であり、これは被災地域の海岸線で例えば50kmあたりでは何機が必要なのか、ということ、そして平均してどの程度の輸送能力が必要になるのか、これは考えなければならないところ。
Nimg_6220 東日本大震災に際して、当時の東北方面航空隊長が報道陣に対し、当時の稼働機は8機であったことを説明しています。方面航空隊の定数は20機であったと記憶しており、もちろん、師団飛行隊への多用途ヘリコプター配備が開始されたことで、定数は変化しているのではないか、ということも考えられるのですが、それにしても重整備や定期整備のことも含めているとはいえ、稼働機8機は少なすぎ、方面航空隊の充足率と稼働率は真剣に考えてゆかなければならないのだ、という印象を特に強く感じました。
Nimg_8310 次期多用途ヘリコプターについて、師団及び旅団飛行隊用の装備は先日川崎重工が開発を受注しましたが、方面航空隊用のものは例えばEC-225やCH-101のような、もう一回り大型の機体が装備されていてもいいかもしれません。UH-1やUH-60と同程度の輸送力で十分ならば川崎重工が開発する次期多用途ヘリコプターに統合できますし、不可能ならばもう少し大型の機体を、ということ。これは最終的には今回の命題とした輸送能力がどの程度求められるか、という一点に集約され、その一機あたりの輸送能力をどのように見込むのか、という点が結論を左右するのですが。
Img_2199i ただし、ヘリコプターについては物資輸送と同時に捜索救難任務にも多用される、ということを忘れてはなりません。もちろん、此処で定義する捜索救難任務には、孤立地域からの住民救出という任務が含まれるので、救出した住民は孤立地域から後方のある程度インフラを復旧した、もしくは被害を受けていない地域の避難所へ搬送するのですから、この問題点はある程度片付くのでしょうけれども、例えば長期浸水などにより市街地から救出する必要のある被災者の見積もりなど、併せて孤立地域で、ある程度安全性が確保されている一方で物資輸送が行わなければ生命維持に問題が生じる、此処では災害関連死を意味するのですが、これを防ぐ輸送力の在り方、まず検討されるべきです。
Nimg_9106_1 この点で重要なのは、南海トラフ地震が発生し、道路、特に橋梁破壊や路盤崩壊から復旧し、民間の輸送車両、その数から圧倒的な輸送力を持つトラックやバスなどが通行可能な状況となる迄の必要な期間をどのように見積もるのか、という国土交通省の試算が先に啼ければなりません。なぜならば、輸送能力全体から考えた場合、我が国において単に一地点から一地点への輸送能力であれば圧倒的に民間の輸送能力が多い為に他ならず、この見積もり如何で必要な輸送能力が根本的に違ってくる、ということ。
Nimg_7205 即ち、現時点で我が国には橋梁だけで建設から40年以上を経て耐震改修が必要な老朽化橋梁が33000程度あり、しかも南海トラフ地震の想定震源域を見た場合、峻険な地形、陸上自衛隊の応急架橋では対応することが難しい高架部分などの崩壊が現実のものとなれば、再開通へかなりの時間を要することが考えられるためです。例えば、トンネルが崩壊する場合や、代替防災道路が整備されていない場合、更には無駄な公共事業として有事の際にはう回路となる林道の建設が制約されていることがこれに拍車をかけ、民間交通の恢復までの期間、これは同時にその地域が孤立する期間を意味するのですが、長期化する可能性があるのです。
Nimg_4407 自衛隊の輸送能力はどうあるべきか。これはWeblog北大路機関において繰り返し強調しているのですが、任務本位であるべきと考えます。稼働率や安さではなく、非常時にその能力を発揮できれば、どうだってもよい、ということ。数字の上での帳尻合わせで有事の際に多分稼働率は根性で上がる、ということや、トン数と機数を単純に割り算し気象条件などで変化する輸送能力を無視して南紀程度あれば大丈夫、というところではなく実任務で必要な輸送力を責任と共に算出し、この輸送力を政治が責任を以て予算措置を採らなければなりません、何故ならばそのための政治への権利の委託なのだから。
Nimg_8475 どれだけ輸送しなければならないのかを画定しなければ方向性のない能力整備し亜不可能になります。これを何とかしなければならない。適切な輸送により避難所へ物流体制を確保し、可能な限り早い時期に通常生活への切り替えを支援する、小規模避難所であれば輸送ヘリコプターによる地域疎開を同時に行うと共に後方の安全地域における宿泊施設の借り上げを行う、災害を生き延びたにもかかわらず衰弱する災害関連死、これは制度としての問題に起因するものであり、これを防ぐ輸送能力の在り方は、ヘリコプターや空港施設と輸送機、それに海上からの輸送艦と護衛艦艦載機などから適切に判断されなければなりません。

北大路機関:はるな

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