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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 336 注目選手 in 1983 ①

2014年08月20日 | 1983 年 



落合博満(ロッテ)…一昨年オフに三冠王宣言をして見事に実現させた落合が今度は前人未到の打率四割を目指すと宣言した。4月1日現在のオープン戦成績は打率.390 と目標達成に調整は順調に進んでいる。三冠王宣言に続く今回の大風呂敷も再び実現してしまうのか?

並みの選手だったら単に夢を追っているドン・キホーテ扱いされるだろうが選手として一番脂の乗っている今の落合だけに「ひょっとしたら…」と考えている球界関係者は少なくない。ただ闇雲に安打数を増やそうとしている訳ではなく落合なりの青写真がある。四球を増やす事で打数を減らそうというのだ。昨年は 150安打・86四死球で打率.325 だったが今年は 170安打・100四死球 を目標としており、これで恐らく打率.380 を超える。そして肝心の安打数を増やせば四割も可能だと目論んでいる。

「ホームランを狙って大振りしたら率が上がらないから(落合)」と四割達成の為に本塁打王は諦めるとの事。更に慣れ親しんだ今の打法を改造する決意をしてキャンプでは徹底的に引っ張る練習に終始した。昨年の150安打のうち本塁打も含めて左方向への打球は 1/3 程度。内角球が来ると本塁打狙いで大振りし、結果として凡打になる事が多かった。今年は得意の流し打ちに加えて内角球は大振りする事なく軽打して率を稼ぐ算段だ。オープン戦では16安打(4月1日現在)中、8安打が左方向と練習の成果は早速現れている。

今年は万全の体調で開幕に臨めるというのも大きい。3月25日の大洋戦で遠藤投手から左上腕部に死球を受けたが僅か1試合の欠場で済んで大事には至らなかった。思い起こせば昨年はオープン戦で左手のマメを潰した影響が殊のほか残り、開幕後しばらく低迷が続いて16試合目でようやく初打点、17試合目で初本塁打を放つ最悪のスタートだった。更に今年は一塁コンバートのお蔭で守りの負担が軽減した。当の落合は「まぁ99%ダメでしょうね。でもやらなければ給料が上がりませんから」といつもの人を喰ったような発言に終始しているが、昨年の今頃も「三冠王?無理無理…」と言っていたのを思い出す。この男、案外アッサリと大仕事をやってしまいそうな気がする。



長崎啓二(横浜大洋)…「10年目の突然変異」と揶揄されながらも3割5分1厘で堂々の首位打者に輝いた。ただ終盤で田尾(中日)の猛追に会い醜い四球合戦を演じた為に「ああいう嫌な形で終わっただけに今年は余計にやらないとね」とキャンプを過ごしたがオープン戦が始まった現在でも精彩を欠いている。原因はやる気が災いし無理をした為に「キャンプ終盤に左足太腿の裏側に痛みが出た。最初は大した事ないと思ったけど長引いている。静養せずに九州・大阪遠征に帯同したのが悪かったかな?でも大丈夫、休めばすぐに治りますよ(長崎)」と楽観していたが3月下旬には左膝にも痛みが出るなど更に悪化する事に。

「俺も歳だからねぇ、まいっちゃうよ」と務めて明るく振舞うが顔は笑っていない。それは昨年まで守っていた左翼のレギュラーが阪神から移籍して来た加藤のお蔭で危うくなっているからだ。更に三番打者争いも新外人・トレーシーがオープン戦でトップの7本塁打を放ち猛アピールしていて流動的。トレーシーの活躍の裏で3月9日のオープン戦初戦に代打で1打席登場(結果は三振)した以降は試合に出ていない。「正直、焦ってますよ。でも痛みはすぐに消えてくれないので待つしかないと言い聞かせてます」 チームを離れること10日間、ようやく快方に向かっていて3月29日にチームに合流した。

結局、3月中のオープン戦で登場したのは三振した初戦と合流した翌日30日の四球の二度だけ。首位打者に輝いた昨年のオープン戦は打率5割の高打率を残し、その勢いのままシーズンに突入した。それだけに今年の調整遅れは気になる所だが本人は「さほど気にしてません。もういい歳だし自分の打撃スタイルは把握しているつもり。元々が春男でシーズン途中で失速しがちなので出遅れで丁度いいくらい」と楽観視している。



宇野 勝(中日)…「オイ 宇野、今日は1000円だ」3月31日のロッテとのオープン戦後のベンチ裏で黒江コーチが声をかけた。罰金を命じられた宇野は何故か笑顔で「でしょう?今日は少なかったですから」と答えた。罰金を笑顔で払う奇妙な光景こそ「宇野本塁打王計画」だと知る部外者は少ない。話はキャンプでのスタッフミーティングに遡る。昨年は掛布、原に次ぐ30本塁打を放った宇野の育成方針が議題となった。打率よりも40本塁打以上の長距離砲か、20~30本でも高打率を残せるシュアな打者のどちらに育てるのか?

会議は近藤監督のツルの一声で終わった。「ポスト谷沢として四番を打てる打者に育って欲しい。今季の宇野には何としても40発以上を期待している」そして育成担当に黒江コーチが抜擢された。「去年までの宇野は気分屋で打つ時と打てない時の波が激しかった。スランプに陥る最大の原因はボール球を無闇に振ってしまう事。そこを直せば大きく飛躍出来る」と黒江コーチは見ている。ボール打ちの矯正法として採用したのが昨年、上川を開眼させた罰金制度だ。宇野と同じくボール球を振る癖が抜けない上川に「ボール球を振る毎に1000円を徴収」して見事に矯正に成功した。

3月19日の日ハム戦からこの罰金制度を始めた。10試合経過時点で合計金額は1万6千円、最初の頃は3千円を超す日もあったが試合を重ねる毎に減って0円の時もあったほどだ。徴収金額と反比例するように安打数は増えて目標の40本塁打に向けて着実に成長している。谷沢に匹敵するというシャープな腕の出、鞭のようにしなる上半身、加えて天性の思い切りの良さ。「開幕戦の広島バッテリーは驚くと思うよ。昨年までの一発は有るが穴も大きいとのイメージは今年は当てはまらない。特に北別府には面白いようにボール球を振らされていたけど今年は昨年の二の舞とはいかないよ」と黒江コーチ。
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