私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命の命運(3)

2017-09-25 21:57:58 | 日記・エッセイ・コラム
 前回、バルザニとペシュメルガは全くの食わせ物だが、欧米と日本のマスコミは、それについてほぼ完全な黙りを決め込んでいると申しました。詳しいことは(あまり詳しいとは言えませんが)3月末にアップした二つのブログ記事『シンジャルのヤズディ教徒に何が起きているか』(1)、(2)(2017年3月25日、31日)を見てください。(1)の一部を以下にコピーします:
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現在、IS(イスラム國)勢力撲滅作戦と称する主要な戦闘が二箇所で行われています。一つはシリア北部のラッカ、もう一つはイラク北部のモスル。モスルの西方に位置するシンジャルはクルド語を話す少数民族ヤズディ教徒の居住地域でした。2014年8月、IS軍はシンジャル一帯に侵攻し、シンジャルの町やあたりの村落を襲撃占領し、千人を超える住民が殺害され、国連はジェノサイドと認定しました。多数の女性の拉致、奴隷化など、ISが犯した蛮行は広く知られるところとなりました。
 なぜISは、特に力を入れてヤズディ教徒に襲いかかったのか? ヤズディ教はイスラム教徒が悪魔とみなす異神を信仰するから、というような説明に惑わされていけません。モスルはイラク第二の大都市ですが、2014年6月、わずか1500人のIS武装集団は、その十数倍の重装備のイラク正規軍をあっという間に蹴散らしてモスルを占領し、大量の武器弾薬と市内の銀行が所有していた莫大な資産を手に入れたとされています。しかも、その2ヶ月後には特にシンジャルのヤズディ教徒に襲いかかったのは何故か? これはしっかりと考えてみる必要があります。
 まず、2014年8月はじめにISがシンジャル市に侵攻占拠した時に、ISの残虐行為を逃れるために、多数のヤズディ教徒が市の西側でシリアのロジャバ地域の東部に続くシンジャル山系の山の中に逃げ込みました。その数万人をシリアのロジャバ地域(Cizire Canton)に脱出させて救ったのはロジャバの人民防衛隊とKPPのゲリラ部隊であったのです。
 ところで、その時シンジャル一帯を守っていたはずのイラクのクルド自治地域の“国軍”ペシュメルガ(Peshmerga, 「死に立ち向かう者」の意味)はどう行動したか? 通説では、「モスルをいとも簡単に攻略したIS軍はイラクの首都バグダードに向けて南下すると見せかけつつ、一転北進に転じ、不意を突かれたペシュメルガは次々と敗北退却を続け、ISにヤズディ教徒のジェノサイドを許してしまった」ということになっています。公式の説明はさらに加えて「この状況を見るに見かねたオバマ政権は、一旦米軍を引き上げた筈のイラクに再び米軍兵力を投入し、その援護のもとに、クルドの自治地区のペシュメルガは再び何とかシンジャル市からISを排除した」ということになっているようです。
 しかし、この通説は真実ではありません。中東の専門家たちはこの虚偽を先刻承知のはずですが、我々衆愚に真実を告げてはくれません。はっきりしていることの第一は、ペシュメルガがISから作戦的に不意打ちを食らったのではなく、どこからかの命令で自主撤退をしたのです。第二に、ISをシンジャル一帯の大部分から排除したのは、ロジャバの人民防衛隊とPKKゲリラの長い時間をかけた戦闘努力の結果です。
 こうした真実の背後関係は、シンジャルをめぐる事態の最近の展開で白日のもとに曝されることになりました。この3月3日、イラクのクルド自治地域の大統領マスウード・バルザニ統率下のペシュメルガ勢力がヤズディ教徒とその自衛隊に攻撃をかけてきたのです。現地での状況は混乱しているように見えますし、現場にいるヤズディ教徒を含むクルド人たちの間でも混乱が広がっていますが、その最も重要な背後事件は、2月26−27日にトルコの首都アンカラで行われたエルドアン大統領とバルザニ大統領の会談です。そこでの合意と取引に基づいて、イラクのクルド自治地域のクルド人とシリアのロジャバのクルド人との間の内紛を本格化し、ISの力も援用して、出来ればロジャバ革命とPKKを壊滅させようというエルドアン大統領の企ての現れです。
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これだけ読んでも、バルザニとペシュメルガがまるっきりの食わせ物(者)であるかをお分りいただけると思います。
 ロジャバの人民防衛隊(YPG)とPKKゲリラによって救われたシンジャル一帯のヤズディ系クルド人の多数が、今はオジャラン(ロジャバ革命)の思想に共鳴し、バルザニが大声で呼びかけてきたクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票に参加しないこと、投票しないことを呼びかけていたことを、次の記事は報じています:

https://anfenglish.com/kurdistan/call-for-Ezidis-not-to-vote-in-independence-referendum-22328

今回の住民投票は米国、イスラエル、トルコ(エルドアン大統領)が首謀する大芝居です。目的はイラン、イラク、シリア地域の政治的、地政学的不安定化にあります。米国が反対しているのは、相変わらずの大ウソの最新版です。しかし、やがて嘘がバレて、首謀者達が窮地に追い込まれるなどと安易に期待してはなりません。バルザニのクルド自治区のクルド人とロジャバ革命のクルド人との間の亀裂も米国によって残酷に利用されることでしょう。米国の国家戦略の悪魔的な冷酷非情さには驚くべきものがあります。以下に引用させていただくのはウェブサイト『マスコミに載らない海外記事』に昨日掲載された記事「アフガニスタン国民は欧米帝国主義者の蛮行にうんざり」からですが、ここでアンドレ・ヴルチェクがアメリカについて述べていることはその的確さ簡潔さにおいて稀有の至言です:
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<アンドレ・ヴルチェク>・・・・・概して欧米、とりわけアメリカ合州国は、自分たちが何をしているのか十分承知しているのはほぼ確実だと思います。アメリカには最も邪悪な植民地大国、特にイギリスが顧問として、ついているのです。
アメリカは、必死に戦わずに没落することは決してなく、ヨーロッパとて同じです。世界の中の、この二カ所は、世界をひどく略奪することによって、築かれてきたのです。連中は今もそうです。彼らは自分の智恵と努力だけで自らを維持することはできません。連中は永遠の盗人です。アメリカは決してヨーロッパから別れられません。アメリカは、ヨーロッパの植民地主義、帝国主義と人種差別という木の恐るべき幹から別れ生えた、巨大な枝に過ぎません。
アメリカ、ヨーロッパとNATOが現在行っていることが何であれ、見事に計画されています。決して連中を見くびってはいけません! 全て残虐で陰険で凶悪な計画ですが、戦略的視点から見れば、実に素晴らしいものです!
しかも連中は決して自ら立ち去ることはありません! 連中とは戦って、打ち負かすしかありません。そうでない限り、連中はずっとい続けます。アフガニスタンであれ、シリアであれ、どこであれ。
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そうです。ロジャバ革命の犠牲において、米国はシリアにずっとい続けようとしています。我が「ロジャバ革命」はまさに風前の灯です。(次回に続く)

藤永茂(2017年9月25日)