人間の様々な異常心理を描いてきた江戸川乱歩。
「虫」では「死体愛」。
柾木愛造は女優・木下芙蓉を愛するあまり殺害。
死んだ芙蓉を蔵の中で愛する。
柾木は死んだ芙蓉言う。
「僕たちはこの広い世の中でたったふたりぼっちなんですよ。誰も相手にしてくれないのけ者なんです。僕は人に顔を見られるのも恐ろしい人殺しの大罪人だし、あなたは、そう。あなたは死びとですからね」
死びとになって初めて芙蓉を独占できたと思う柾木。
しかし、死体の腐敗は免れない。
作品タイトル「虫」とは死んだ芙蓉の死体を腐らせる細菌のことだが、こんな描写がなされる。
「虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、彼の白い脳髄の襞を無数の群虫がウジャウジャと這いまわった。あらゆるものを食らいつくす、それら微生物の、ムチムチという咀嚼の音が、音なりのように鳴り渡った」
実に恐ろしい描写だ。
乱歩は死体の変化をこの様に描写する。
「彼はギョクンとして思わず手を離した。そこには「死体の紋章」と言われている、青みがかった鉛色の斑点が、すでに現れていたのだ」
「少しむくんだ青白い肉体が艶々しくて海底に沈んでいる、ある血の冷たい動物みたいな気がした」
「彼女は重い液体のかたまりのように横たわっていた。さわってみると、肉が豆腐みたいに柔らかくて、もう死後硬直が解けていることがわかった」
柾木は死体を腐らせない様にするため、様々な努力をする。
死体防腐用の防腐液を動脈に注射する。
股間をえぐって真っ赤なウナギのような大動脈を取り出す。
「ミイラ」の製法で彼女をミイラにしようとする。
腐らすことを止められないとわかると、絵の具を買ってきて塗りたくって化粧をする。
いやはやすざましい努力と情熱である。
そして死体膨張。
「女相撲のような白い巨人が横たわっていた。からだがゴムまりのようにふくれたたために、お化粧の胡粉が無数に亀裂を生じ、その編み目の間から褐色の皮膚が気味悪く覗き、顔も巨大な赤ん坊のようにあどけなくふくれあがっていた」
そんな彼女であっても柾木は愛し続ける。
「せっぱつまった最後の恋に、あすなきむくろと差し向かいで、気違いのように、泣きわめき、笑い狂った」
柾木はもともと厭人癖の強い男だった。
人は皆、意地悪だと思い、人と接することができない。
人の間にいると落ち着かず、恐怖で涙が溢れてきてしまう。
「彼はこの世において、全くの異国人だった」「彼にはどうかした拍子で、別の世界に放り出された、たった一匹の陰獣でしかなかった」
彼は自分を嫌い、人間を憎んだが、それは同時に愛を求めることでもあった。
そんな孤独な異国人の彼だったから、人を愛し愛されることを強く求めていたのだ。
乱歩はそんな柾木の愛を求める心が、芙蓉の死体に関する一連のことをさせてしまったと分析している。
実に卓越した人間観である。
乱歩は人間の深い心の闇を描き、同時に人間を描いている。
この様な人間像を描いた作家がいただろうかと思ってしまう。
そして乱歩の描いた人間たちは現在かなりのリアリティをもって、私たちに迫ってくる。
ニュースなどで報道されるショッキングな事件にはどこか乱歩の小説世界のにおいがする。
江戸川乱歩は現代の作家である。
「虫」では「死体愛」。
柾木愛造は女優・木下芙蓉を愛するあまり殺害。
死んだ芙蓉を蔵の中で愛する。
柾木は死んだ芙蓉言う。
「僕たちはこの広い世の中でたったふたりぼっちなんですよ。誰も相手にしてくれないのけ者なんです。僕は人に顔を見られるのも恐ろしい人殺しの大罪人だし、あなたは、そう。あなたは死びとですからね」
死びとになって初めて芙蓉を独占できたと思う柾木。
しかし、死体の腐敗は免れない。
作品タイトル「虫」とは死んだ芙蓉の死体を腐らせる細菌のことだが、こんな描写がなされる。
「虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、彼の白い脳髄の襞を無数の群虫がウジャウジャと這いまわった。あらゆるものを食らいつくす、それら微生物の、ムチムチという咀嚼の音が、音なりのように鳴り渡った」
実に恐ろしい描写だ。
乱歩は死体の変化をこの様に描写する。
「彼はギョクンとして思わず手を離した。そこには「死体の紋章」と言われている、青みがかった鉛色の斑点が、すでに現れていたのだ」
「少しむくんだ青白い肉体が艶々しくて海底に沈んでいる、ある血の冷たい動物みたいな気がした」
「彼女は重い液体のかたまりのように横たわっていた。さわってみると、肉が豆腐みたいに柔らかくて、もう死後硬直が解けていることがわかった」
柾木は死体を腐らせない様にするため、様々な努力をする。
死体防腐用の防腐液を動脈に注射する。
股間をえぐって真っ赤なウナギのような大動脈を取り出す。
「ミイラ」の製法で彼女をミイラにしようとする。
腐らすことを止められないとわかると、絵の具を買ってきて塗りたくって化粧をする。
いやはやすざましい努力と情熱である。
そして死体膨張。
「女相撲のような白い巨人が横たわっていた。からだがゴムまりのようにふくれたたために、お化粧の胡粉が無数に亀裂を生じ、その編み目の間から褐色の皮膚が気味悪く覗き、顔も巨大な赤ん坊のようにあどけなくふくれあがっていた」
そんな彼女であっても柾木は愛し続ける。
「せっぱつまった最後の恋に、あすなきむくろと差し向かいで、気違いのように、泣きわめき、笑い狂った」
柾木はもともと厭人癖の強い男だった。
人は皆、意地悪だと思い、人と接することができない。
人の間にいると落ち着かず、恐怖で涙が溢れてきてしまう。
「彼はこの世において、全くの異国人だった」「彼にはどうかした拍子で、別の世界に放り出された、たった一匹の陰獣でしかなかった」
彼は自分を嫌い、人間を憎んだが、それは同時に愛を求めることでもあった。
そんな孤独な異国人の彼だったから、人を愛し愛されることを強く求めていたのだ。
乱歩はそんな柾木の愛を求める心が、芙蓉の死体に関する一連のことをさせてしまったと分析している。
実に卓越した人間観である。
乱歩は人間の深い心の闇を描き、同時に人間を描いている。
この様な人間像を描いた作家がいただろうかと思ってしまう。
そして乱歩の描いた人間たちは現在かなりのリアリティをもって、私たちに迫ってくる。
ニュースなどで報道されるショッキングな事件にはどこか乱歩の小説世界のにおいがする。
江戸川乱歩は現代の作家である。
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