平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

松本清張「黒い福音」~あんたの神様は今、消えたよ。これは清張版「罪と罰」ですね。

2014年01月21日 | 推理・サスペンスドラマ
 松本清張「黒い福音~国際スチュワーデス殺人事件」
 やっぱり役者ビートたけしさんはいいなぁ。
 やくざ映画の時のような派手なことはしないんだけど、内に抱えた<屈折><不屈>みたいなものが滲みでている。
 その背景にあるのは、戦争中に信じていた価値観に裏切られたこと、何も信じないという虚無、大きなもの=政府への不信、いまだにくすぶる敵国アメリカへの思い。
 これは前夜の「三億円事件」の田村正和さんの役もそうだった。

 さて事件。
 以下ネタバレ。


 ひとりのスチュワーデスの殺人が、公安警察を巻き込んだ大きな広がりを見せる。
 それはアメリカの教会が、物資や麻薬の密輸、流通に関わっていたこと。
 殺されたスチュワーデス生田世津子(木村文乃)は麻薬の密輸をしており、これを拒んだため口封じで殺されたのだ。
 殺したのは神父。生田世津子とは男女の関係。
 このスキャンダルが公になれば、大きな国際問題になりかねないので、警察はこれを隠蔽しようとする。
 松本清張らしいスケールの大きな話だ。
 一件の痴情のもつれが、麻薬の流通という大きな組織ぐるみの犯罪を暴いてしまったというのも面白い。
 犯罪はこうしたほころびから発覚する。

 一方、この事件を登場人物に焦点をあてて考えると、テーマは<罪と罰>。
 ドストエフスキーの小説「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフは金貸しの老婆を殺して激しく苦悩する。
 最後は罪を認め、神に許しを乞う。
 だが、この作品の神父はそれをしない。
 言い逃れをして、罪を否定し、国外に逃亡する。
 ラスコーリニコフとは対照的に<神と向き合うこと>を拒んだのだ。
 神父でありながら、神に許しを乞い、救われる道を否定したのだ。
 だから刑事・藤沢六郎(ビートたけし)は言う。
「あんたの神様は今、消えたよ」

 神父は法律的には罪を免れた。
 しかし、神に対しては……。
 その後のことは描かれなかったが、神を失った彼の生涯は罪の意識にさいなまれる孤独で、不毛なものだっただろう。 


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (ああ)
2019-05-11 10:43:04
初めからネタバレしすぎ
ご指摘ありがとうございます (コウジ)
2019-05-12 10:25:42
ああさん

ご指摘ありがとうございます。
一応「以下、ネタバレ」とことわってはいますが、確かに犯人バラしは芸がありませんよね。

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