ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『あしたの私のつくり方』

2007-02-19 23:04:42 | 新作映画
----これって市川準監督の映画だよね。
彼の映画って、どことニャくオトナっぽいよね。
「うん。
彼はデビュー作『BU・SU』のときから
すでに才能の片鱗を伺わせていた。
80年代に雨後のタケノコのように出てきた
異業種監督たちの中でも
一頭抜きん出ていたね」

----どういうところが違ったの?
「CF出身の監督によくありがちな気負いがないんだね。
映像的な遊びに走ることもなく、
じっくりとヒロインの内面と向かい合う。
その姿勢は一昨年の『トニー滝谷』でも不変。
商業性からはほど遠いところにいる。
今回もその辺りを覚悟して行ったんだけど、
これが意外に親しみやすい作り」

----確か、これってイジメをモチーフにしてるんだよね。
前に『問題のない私たち』という映画もなかった?
「うん。あの映画も好きだけどね。
ただ、この映画の目新しいところは、
ヒロイン・寿梨(成美璃子)自身はイジメにはあっていないこと。
彼女は学校では目立たず、家でも良い娘の役割を演じている。
一方、寿梨の小学生時代の同級生・日南子(前田敦子)は
優等生からクラスで無視される存在に転落。
やがて高校生になった寿梨は
日南子が転校したことを知り、
偶然を装いながら日南子に携帯メールで
架空の物語を送り始める。
もちろん自分の正体を隠してね」

----架空の物語ってどういうこと??
「それは『みんなに愛されるための物語』。
この映画の切ない痛みは、ここにある。
いまの子供たちは、ただ漫然とは生きていない。
自分がみんなに無視されないため、
もうひとりの自分を演出しなくてはならないわけだ。
この映画で寿梨は
『奇数人のグループを見つけて合流すること』だとか
『テストは平均の3点上を目指す』と言ったことを
日南子に教える」

----つまり愛されるための“努力”が必要ということだね?
「そういうこと。
さて主人公たちはやがて
どれが本当の自分か悩み始める。
日南子はもちろんのこと、
“愛されるための方策”を彼女に伝授している寿梨だって、
結局はそういう自分を演じているわけだけだからね」

----でも、こういう言葉ってない?
「演じている自分もまたほんとうの自分だ」って…。
「鋭いね。
市川監督はそんな彼女らに
『世界はもっと広い。強く生きて欲しい』というメッセージを投げかける。
おそらく、近年の市川監督の映画でも
もっともメッセージ色が強い一本じゃないかな」

----でもそのメッセージが
同世代の人たちに伝わらなくては意味がないよね。
「うん。
いいところを突いてきたね。
今回の市川監督の映画は
これまでになく平明でさわやか、
とても分かりやすい作りとなっている。
分割画面によるふたりの対比、
そしてその間を行き交うメール。
こんなにもしなやかで、
それでいてビビッドな市川監督の映画は初めて観た」

----女の子の友情とメールと言えば
『子猫をお願い』を思い起こすけど…?
「あっ、少し似ているかも。
この映画では、
そのメール文字がときにざわつき、ときに揺らめく。
文字に彼女らの感情が乗り移っているんだね。
日本映画でパソコン文字を最初に見せたのは
森田芳光監督の『(ハル)』(だと思う)。
そこでは<新しい意思の伝達方法>=パソコン文字を
まるでサイレント映画の字幕のように写し出し、
観客に一種の緊張感を与えていた。
それから何十年も経ったというわけでもないのに、
時代はすっかり変わったね」

----ニャんだか、話がそれていない?
イジメの映画の話をしているのに少し不謹慎。
ん?この話。ぼくから言い出したんだっけ?

  (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「フォーンはメールがなくても感情を伝えられるニャ」うららかフォーン

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4 コメント

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Unknown (プリシラ)
2007-02-23 13:35:35
これ、観たいです。
変なアニメじゃなくて こういうのを輸入してもらいたいんですが マーケットの小ささのせいで あまり日本の新しい映画を観る機会がありません。

去年見たのは 隣人13号と もう一本。
両方とも 「とっても暴力的だよね」と 同居人には言われました。
11月に日本映画祭があって 父と暮らせば を観る機会があったのですが たまたま帰国しなくてはならず 未見です。

DVDにならないでしょうか・・・。
返信する
■プリシラさん (えい)
2007-02-23 15:05:51
こんにちは。

いまの子供たちは、
自分が周囲から浮かないように
自分自身を作らなくてはならない…。

「イジメ」が
アイデンティティの喪失と言う
個人の根源に関わる問題を引き起こしている。
<痛い>作品でした。
市川準の映画で初めて涙がこぼれました。

『父と暮せば』はDVDになっていますよ。
通常版と特典ディスク封入のプレミアム・エディションの2種類があるようです。

返信する
メッセージ (april_foop)
2007-04-05 00:24:20
連投失礼します。

やはり育った時代も違いますし、ボクはなかなか共感しづらかったのですが、
寿梨と日南子という現代っ子のある種の典型といえる2人。監督は彼女たちを並列に置き、我々に2人の生き方を客観的に観させることで、その滑稽さに気付かせようとしたのかも、とえいさんのレビューを読んで感じました。

デリケートなテーマを繊細にまとめてましたね。
返信する
■april_foopさん (えい)
2007-04-05 00:40:45
こんばんは。

僕はこの映画には不思議と好感がもてるんです。

「ここだけがすべてじゃないんだよ」という
ポジティブなメッセージ。

実はこの後、『14歳』という
徹底してへこませてくれるの映画を観たために、
よけいにこの「話せば分かる」の姿勢が嬉しくなったんです。
返信する

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