密度の濃い映画は意識を覚醒させ、そして陶酔させる。
橋口亮輔監督『恋人たち』。
それまでの眠気は吹き飛び、その余韻を失いたくないがため、
次に予定していた一本を取り止めた。
----『恋人たち』?
これって昔のフランス映画にあったような…。
ブラームスの音楽が印象的で。
「フォーン、さすがよく知っているね。
あれはルイ・マル監督の映画。
でもこちらは日本映画。
橋口亮輔監督の作品なんだ」
----橋口監督…。
よく聞く名前だけど、
あまり作っていないよね。
「そうだね。
でもその一本一本がすべて公開前から注目を集め、
しかもそれに答えた高い評価を得ているんだ」
----ふうん。
どういうところが他とは違うのかニャ。
「うん。
ぼくが“映画ならではの魅力”と考えるものの多くが
その中に詰まっているんだ。
今回も感動のあまり、
観た直後に次々とツイート連投。
それに沿って話してみよう。
橋口亮輔監督『恋人たち』。
ここに出てくる3人の男女は、身の周りに直接にはいないかもしれない。
だが、いるに違いないと思わせるだけの存在のリアリティがある。
そしてそれを確信させるのが、彼ら彼女らの背後に広がる生身の人たちだ。
そんな中のひとりに自分もいる。」
----これは分かるような気もするニャ。
「群像ドラマも含めて
映画というのは、
通常は、主人公に物語がフォーカスされていく。
それはもちろん正しいわけだけど、
そちらに気がとられすぎるあまり、
他の人の描き方がなおざりになることが多い。
それを如実に表しているのが学園ドラマ。
学校での昼休み。
そこでは主人公と友だち、
そして彼ら彼女らが意識する異性ばかりが深刻そうに
恋の話ををしている。
周りにも多くの人がいるのに彼らはいつもガヤガヤ。
まさにエキストラとしての役割。
彼ら彼女らにも、
それぞれの悩み、人生があるんだろうな?
と、そういうことが気になってしょうがないんだ。
ところがこの映画では、
3人の主人公の周りに出てくる人々の生活、生きざまが
きちんと描かれている」
---3人が主人公ニャの?
「そう。
自分に興味を持ってくれない夫と気が合わない義母と生活している瞳子(成嶋瞳子)、
同性愛者で完璧主義の弁護士・四ノ宮(池田良)、
そして妻を通り魔に殺害されたアツシ(篠原篤)。
その中のひとりアツシの例を出すと…。
ある女性社員が彼に声をかける、
一見なんでもないようなシーンがある。
会社でひとり輪の中に入っていけないアツシに対し、
彼女は自分の母親との“普段の生活”を話し、家に誘う。
ここは彼女の優しさだけではなく、
その背後の広がり、奥行き、
この女性社員の人生までを感じさせてくれるんだ」
---ニャるほど。
脇で終わりそうな人にまで
目が行き届いているということだニャ。
「そういうこと。
さて、次にツイートしたのがこれ。
橋口亮輔監督『恋人たち』には誰もが息を飲む瞬間がある。
クライマックス、篠原篤演じる篠塚アツシの独白をアップで捕らえた長いワンショット。
その高揚のピークで手持ちのキャメラがさらにぐいっと彼ににじり寄るのだ。
あれは監督の指示なのか? それとも気魄が乗り移ったキャメラマン独自の判断か?」
---う~ん。
それはおかしいニャ。
監督の権限を乗り越えてキャメラマンが独自に判断するわけはニャいよ。
「そうなんだ。
この件については
嬉しいことにオフィシャルからこんなコメントを頂いた。
~『恋人たち』への素晴らしいツイートの数々ありがとうございます!
あのシーンは橋口監督の明確な指示によるものです。
役者の演技を見ながら「まさにいま!」のタイミングで
撮影監督に合図をして寄らせたのだとか。
カメラと共にアツシの心に寄る名シーンだと思います!~
で、ぼくはこういうお返事をさせていただいた。
~ありがとうございます。
篠原さんの気魄に飲まれ、それを見つめるキャメラと自分が一体化。
キャメラも一緒に引き寄せられた…そんな錯覚を抱いてしまいました(汗)。
監督の指示タイミング、素晴らしいです。
やはり観客と一体化。帰宅後、予告で感動を追体験しています。~」。
---ニャるほど。
「つまり、ぼくにとって
映画とはストーリーをそのままなぞるモノではないということ。
そして映像のマジックによってある瞬間、
観る者を、感情の沸点にまで持って行ってくれること。
これに尽きるんだ。
だけどそれは、そこに至るまでの精緻な描き方があるからこそ成り立つもの。
ただ。やみくもに主人公の姿を追っていては
その感情の沸点という祝祭を味わうことはできない。
で、ぼくは一連のツイートの最後をこう締めたんだ。
『バクマン。』のような時代の最先端を走る映像で作られた映画もちろん嫌いじゃない。
しかし橋口亮輔監督『恋人たち』には、
この時代に継承された日本映画の誇るべき伝統を見ることができる。
そこでは、スクリーンの隅々まで、
絵空事ではない血の通った人間が、明日を掴むため、息をしているのだ。」。
---いやあ、えいの興奮が伝わってくるニャ。
フォーンの一言「猫さんの人生もそれぞれなのニャ」
※今年の邦画、文句なしのベストワンだ度
こちらのお花屋さんもよろしく。
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実に丁寧に作られたザ・邦画でした。
なるほどあの印象的かつ起きて破りなズームはしっかり計算されたものだったのですね。
橋口監督には毎回唸らされます。
この映画の1位は揺るぎない気がします。
内容もさることながら、
人間を見る目の確かさと優しさ、
そしてそれを描く技術の高さに感心しました。