ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ふがいない僕は空を見た』

2012-09-22 15:00:18 | 新作映画


----この映画、
タナダユキ監督の作品だよね。
『百万円と苦虫女』だとか『俺たちに明日はないッす』とか
あまり気に入っていなかったような気がするけど…。
「うん。
でも、やはり注目の監督ではあるし、
やはり押さえておかなければと…。
噂では、過激なシーンもあるということだし(汗)」

----ちょっと不純な気もするけど、
どうだった?
「そうだね。
これまでに比べて語り口が凄く練れている気がした…。
物語は、シンプル。
高校生の卓巳(永山絢斗)は友人と出かけたアニメの同人誌販売イベントで
アニメ好きのあんずこと主婦の里美(田畑智子)と知り合い、深い仲になる。
卓巳に自分の好きなアニメのキャラクターのコスプレをさせ、情事にふける里美。
そんなある日、卓巳は同級生の七菜(田中美晴)に告白される。
彼は里美との関係をやめようと決意するが…」

----ふむ。読めてきた。
これは、事件に発展するニャ。
「う~ん。
事件は事件でも、
殺人とかそういう方向ではないんだ。
里美は、夫(山中崇)との間に子どもができず、
姑(銀粉蝶)から不妊治療や体外受精などを強要されていた。
ほどなく姑は里美の情事の事実を掴み、
それを知った夫は、
その写真や動画をネットでばら撒いてしまう…」

----うわあ、悲惨な話だニャあ。
「で、この映画はその話だけで終りはしない。
助産師である卓巳の母(原田美枝子)、
痴呆症の祖母と団地で暮らし、
コンビニでバイトしながら極貧の暮らしに耐える卓巳の親友・福田(窪田正孝)…。
その人たちを軸に、さらに映画は
彼らを取り巻く人々にまでスポットを当てていく。
実は、本作は
第24回山本周五郎賞を受賞して話題をさらった窪美澄の原作の映画化。
一章ごとに語り手となる主人公が入れ替わる構成らしい。
本作では、卓巳と里美の話が軸。
途中、ふたりの情事がバレて
卓巳が学校に行かなくなったあたりから、
映画は、福田とその周囲を追い始める。
この転換が実に見事で、
物語の落ち着く先というより、
映画がこの後、どう転がっていくのか、
その興味で観る者をスクリーンに引きつけてゆく。
これは、脚本の向井康介の力が大きいのかも」

----ニャるほど、映画用に再構成しているワケか…。
「うん。
その軸となる卓巳と里美の物語にしても
時制をずらしながら
同じシーンを複数回、見せたりするんだ。
これ、一見、頭の中がこんがらがってしまいそうにもなるけど、
間に、<過去>を挟むことで、
一回目に現われた映像の持つ意味が
二回目にでてきたときは変わって見えるというオモシロさを内包している」

----そうか、
それぞれの心情が分かるワケだものね。
「そうなんだ。
確かに今の時代をよくとらえてはいるけど、
さほど目新しい話ってわけでもないし…。
それでも映画を楽しむという意味では、
あ~、こういう描き方ってありだな…と。
あと、女性監督の視点という意味では、
ベッドシーンの生々しさだね。
ロマンポルノの頃は、
セックスシーンは
生々しいというよりなまめかしかった。
接合部分を隠さねばならない時代だったから、
雰囲気の方で見せていたしね。
いまは、その壁が取り払われている。
セリフ的にも
西川美和監督『ゆれる』を思い出す
ドキッとするものもあったし…。
でも、その反面、
出産シーンが感動的。
<生命の誕生>への畏敬の念、
また、母と子の生命が繋がっていることを
ここまで感じさせてくれた映画もまれだね。
こう言っては失礼だけど、
大谷健太郎監督『ジ―ン・ワルツ』
比較すればよく分かるよ」


フォーンの一言「ニャるほど。女性目線の映画ニャのだニャ」身を乗り出す
※かなり焦るシーンもある度


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