ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『キック・オーバー』

2012-09-05 23:04:22 | 新作映画


(原題:Der ganz grosse Traum)

----これって「メル・ギブソン完全復活!」と言われている奴だよね。
どこかで聞いたような…。
「そう。
このフレーズは“シルベスター・スタローンの『クリフハンガー』でも使われた。
あの頃のスタローンは、
コメディに挑戦してイマイチぱっとせず、
この山岳アクション大作で第一線に復帰。
そういう意味では、まさにピッタリのコピーだったけど、
この映画『キック・オーバー』にそれを使うのはよく分からない。
というのも、彼は前作『復讐捜査線』でもアクションはやっているし、
その評判もすこぶるいい。
じゃあ、この映画が、
『クリフハンガー』のような大作かと言うと
そんなことは全然なくて、
どちらかというとB級アクションのノリ。
でも、ぼくはそれが嬉しくもあるんだけどね。
かつて名画座で観たいくつかのアクションを思い起こさせて…」

----どんなお話ニャの?
「主人公は
“ドライバー”とだけ呼ばれる
いわゆる名なしの男。
彼はマフィアから大金を強奪して
パトカーに追われている。
場所はアメリカとメキシコの国境線。
逃げ場がなくなった彼は、
難と国境を超えメキシコ側へ。
ところが、その土地で
強欲な警官に逮捕され、投獄されてしまう。
彼が入った刑務所というのが、また変わっていて、
金さえあれば酒も麻薬も女も手に入る。
なにせ、その家族まで一緒に暮らしていて、
子供向けに
遊園地のようなところまであるんだ」

----ぷっ。それって嘘っぽい。
「いや、これは実在した刑務所がモデルになっているんだ。
世の中、知らないことばかりだと思ったね。
さて、映画は
この刑務所を仕切っているボス、
悪徳所長、警官、そしてマフィアが入り乱れ、
消えた金をめぐるノンストップ・アクションが展開される。
そして物語の隠し味として用意されるのが
ボスの肝臓移植…」

----ニャに。それ?
「このボスは、
肝臓を病んでいて移植しなくては命が長くない。
ところが、その血液型が特殊で
それに適合するのは、あるひとりの少年だけ。
そのため、手術の時がくるまで少年は周りから特別待遇。
いわゆる“保護”されているんだ」

----それはまたよく考えられた設定だニャあ。
これまで聞いたことニャい。
「だよね。聞いたことない。
まるでクローン人間。
あっ、『わたしを離さないで』がそうか…。
でも、ぼくがこの映画を強く推すのは、
そのストーリーよりも映像による語り口の方。
冒頭は、メル・ギブソンの出世作『マッドマックス』を思わせる
赤茶けた世界でのカ―チェイス。
ところが、そこがメキシコとの国境であるところから
あるひとりの映画作家の名前が甦ってくる。
それは“最後の西部劇作家”と言われたサム・ペキンパー
実際、刑務所内での大銃撃戦は
一瞬、西部劇を観ているのではないか?
と、そう思わせるほど。
そしてその描き方は、
またサム・ペキンパー調であることに気づく」

----他の西部劇と、どう違うの?
「これはいまでは信じられないことだけど、
かつて、西部劇やギャング映画などでは
人が撃たれると、
その後は、次のような映像となる。
撃たれた方の男は
傷口を押さえ体をかがめ倒れる。
そしてその後に、銃創からじわり血が滲み出す。
でも、医学的に言ってそれはありえない。
で、ペキンパーは次のような映像を編み出した。
撃たれたと同時に銃創から血が噴き出す。
と同時に倒れる。
いまではあたりまえの映像だけど、
これが当時はとても新鮮だったんだ。
この映画『キック・オーバー』は
それを意図的に強調して見せる。
マカロニウエスタンとは、また別の“死の美学”。
映画では、
メル・ギブソンは“クリント・イーストウッド”を名乗ったりもするけど、
もしかしたら、彼は
同じアカデミー作品賞受賞監督として
頭の中にイーストウッドに対するライバル意識があったのかもしれない。
イーストウッドがセルジオ・レオーネ、ドン・シーゲル、を継承するなら
自分はサム・ペキンパー、ウォルター・ヒルを継承しようと…

----なぜ、そこにウォルター・ヒルが?
「だって主人公の名がドライバー。
舞台も『ダブル・ボーダー』の地」

----ちょっとこじつけっぽいけど、
そういうことを考えるだけでも
映画は楽しくなるよね」


フォーンの一言「オスカー受賞監督がこういう映画を撮るところが嬉しいのニャ」ぱっちり

※同じB級アクションでもジョン・ステイサムあたりとは全然違う度


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