****** コメント(私見)
「ホメオパシー」推進団体が販売する「レメディ」の中には、「ビタミンK2の代わりになるレメディ」、「逆子を治すレメディ」、「出血を止めるレメディ」、「新生児が出生後に泣かなかった場合に使うレメディ」、「インフルエンザを予防するレメディ」など、妊娠や分娩のさまざまな異変に対応する「レメディ」があり、これらを実際の助産業務の中で駆使している助産師も少なからず存在するようです。
「ホメオパシー」の効果に科学的な根拠はなく、偽薬効果以上のものは期待できません。それにもかかわらず、助産師の間に「ホメオパシー」が広く浸透し、実際の助産業務の中で「ホメオパシー」を実践している助産師が少なからず存在するという現実があるため、今回のような勧告が必要になったのでしょう。
しかし、すでに「ホメオパシー」信奉者となってしまった一部の助産師達に通常医療を実践するように勧告しても、彼女らを通常医療の世界に戻すのはなかなか容易でないと思います。
これは単にビタミンK2投与のみに限った問題ではありません。実態を徹底的に調査する必要があると思います。
****** 日本助産師会のホームページより
http://www.midwife.or.jp/pdf/H220810_K2.pdf
ビタミンK2投与に関する日本助産師会の見解
助産師は、安全かつ有効な助産行為を行うことを前提に業務を遂行しているものである。安全かつ有効な助産行為とは、現在の医療水準において、科学的な根拠に基づいた医療を実践することである。
山口県で起こったビタミンK2シロップを投与せず児がビタミンK 欠乏性出血症により死亡した事例については、当該助産師が補完代替医療の一つであるホメオパシーによる効果を過大に期待したためと考える。ホメオパシーのレメディはK2シロップに代わりうるものではない。
日本助産師会はこの件を重く受け止め、全会員に対して、科学的な根拠に基づいた医療を実践するよう勧告する。
2010年8月10日
社団法人日本助産師会
会長 加藤尚美
****** 日本助産師会のホームページより
平成22年7月9日
社団法人日本助産師会
ビタミンK2投与がなされず、児が死亡した件に関して
平成22年7月9日付、読売新聞(朝刊)に次のような記事が掲載された。
昨年8月3日に本会会員の開業助産師が関わり、自宅分娩し、母乳のみで育て、ビタミンK2を投与せず、自然療法のビタミンK2の代わりの錠剤を投与した児が10月16日に山口県宇部市の病院で、ビタミンK 欠乏性出血症と診断され、呼吸不全で死亡した。母親は、助産師を相手に、損害賠償訴訟を山口地裁に起こしたことが報道された。
このような事態が発生したことは、誠に遺憾であり、亡くなられたお子さまとそのご家族の皆さまには、心から哀悼の意を表しますとともに、二度とこういうことが起きないよう本会としても、強く会員に注意の喚起を促していきたいと考えている。
今回の自然療法を含む東洋医学・代替医療等に関する本会の見解を述べる
東洋医学、代替医療等に関する日本助産師会の見解
助産師は、「保健師助産師看護師法」に基づき、正常妊産婦及び新生児に対する診査やケアを提供することを業務としている。具体的な助産師の役割や責務に関しては、本会で、「助産師の声明」や「コアコンペテンシー」に規定し、公表している。
助産師は、女性や新生児が本来持っている力を最大限に発揮できるよう支援している。それゆえ、生理的な自然の力を重視し、業務を行っている。
助産師は、活動の対象としている人々に対して、人間存在を全体的に捉えるべきであると考えている。すなわち、西洋医学を中心とした上で、食事療法、東洋医学や代替医療等も包含する統合医療の観点から理解しケアを展開している。
分娩を取り扱う開業助産師の業務基準に関しては、「助産所業務ガイドライン」を定め、それに基づき、母子の安全性を最優先した業務を実施している。
したがって、助産学に付随する医学の考え方の基盤は、いうまでもなく西洋医学であり、あくまでも西洋医学的見解を主に助産学が展開されていることは既存の事実である。それゆえ、助産師業務にまつわる妊産褥婦や新生児の様々なケアに関する考え方も同様である。
それゆえ、ビタミンK2の投与や予防接種は、インフォームド・コンセントのもと推奨されるべきである。
以上
****** 以下、読売新聞記事(平成22年7月9日)
「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴
生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。
助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。
母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃に嘔吐し、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。
新生児や乳児は血液凝固を補助するビタミンKを十分生成できないことがあるため、厚生労働省は出生直後と生後1週間、同1か月の計3回、ビタミンKを経口投与するよう指針で促している。特に母乳で育てる場合は発症の危険が高いため投与は必須としている。
しかし、母親によると、助産師は最初の2回、ビタミンKを投与せずに錠剤を与え、母親にこれを伝えていなかった。3回目の時に「ビタミンKの代わりに(錠剤を)飲ませる」と説明したという。
助産師が所属する団体は「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。
日本助産師会(東京)によると、助産師は2009年10月に提出した女児死亡についての報告書でビタミンKを投与しなかったことを認めているという。同会は同年12月、助産師が所属する団体に「ビタミンKなどの代わりに錠剤投与を勧めないこと」などを口頭で申し入れた。ビタミンKについて、同会は「保護者の強い反対がない限り、当たり前の行為として投与している」としている。
(以上、読売新聞記事、平成22年7月9日)
****** 日本助産師会からの回答
平成21年5月15日
社団法人 日本助産師会
安全対策室長 ○○○○
ホメオパシーに関するお問い合わせへの回答
平成21年4月10日付のメールでお問い合わせいただきました上記の件に関して、回答させていただきます。
記
1.ホメオパシーに関する見解
ホメオパシーは今から200年前にドイツの医師ハーネマンが確立した療法で、その起源は古代ギリシャのヒポクラテスまで遡るといます。代替医療の一つである。イギリスでは療法そのものが、国民医療保険の対象になっており、英国王室の主治医は150年間、ホメオパシーの医師が勤めていると言われている。
我が国の開業助産師の中には、ホメオパシー療法の認定の施術者として、日本ホメオパシー医学協会にて認定された助産師がホメオパシー施術を実施しているときいている。認定を受けた者が対象者の妊産婦の同意を得て実施することは、問題がないと考える。
現在、わが国における開業助産師の業務は、保健師助産師看護師及び医療法に基づき、更に本会の「助産所業務ガイドライン」にのっとって実施している。ホメオパシー施術の適用もその業務の範疇は正常経過を辿る妊産婦であることは言うまでもない。
2.ホメオパシーを実施する助産所が児の予防接種を勧めないかどうかについて、数ヶ所の助産所に電話で確認したが、その事実はなかった。
今後、助産所において、そのような指導がなされていることが判明すれば、本会としては直接指導することや、中止するよう働きかける必要があると考えている。