ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

「新型インフルエンザに感染した妊婦はまず内科受診を」 日本産科婦人科学会が注意喚起

2009年09月13日 | 新型インフルエンザ

新型インフルエンザに感染した場合、妊婦は一般の人に比べ死亡率が数倍~10倍程度になるというデータもあります。妊婦が新型インフルエンザに感染した際に産婦人科医を受診すると、別の妊婦に院内感染を広げてしまう恐れがあります。日本産科婦人科学会は一般病院への受診が困難な場合を除き、原則として一般の内科医を受診するよう求めています。

****** 読売新聞、2009年9月12日

新型インフル「妊婦診療できぬ」 医療機関の4割

 新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の診療体制について、感染症治療の中核となる全国の主な医療機関に対し読売新聞がアンケートしたところ、妊婦など周産期(妊娠22週以降)の患者を「診療できない」とする施設が4割近くに上った。

 妊婦の治療は国の指針で、他の妊婦への感染を防ぐため、かかりつけの産科以外で受けることを原則としており、妊婦の患者を受け入れる治療体制の整備が急がれそうだ。

 アンケートは、国や都道府県が指定する感染症指定医療機関と日本感染症学会認定研修施設の計668施設に対し8月に行い、352施設(回答率53%)から回答を得た。

 新型インフルエンザの多くは軽症で治るが、妊婦や腎臓病、糖尿病など持病を持つ人は重症化しやすく、国は患者の1・5%で入院が必要と試算している。アンケートで、受け入れ可能な最大病床数を尋ねたところ、1施設平均19・2床で、施設により0~300床まで差があった。0床の施設は8か所あり、人員に余裕がないなどが理由だった。

 周産期の患者の診療を「できない」と答えた施設は132施設(38%)に上った。小児の診療が「できない」も66施設(19%)あった。腎臓病患者に対する人工透析も対応できない施設が91か所(26%)に上った。

 周産期の患者を診療できない理由を尋ねたところ、「産科はなく対応は難しい」などのほか、「産科はあるが医師不足」との声もあった。

 政府・新型インフルエンザ対策諮問委員の川名明彦・防衛医大教授(感染症・呼吸器)は「地域ごとに医療機関が役割分担を話し合うなど、妊婦が行き場を失わないようにする必要がある」と話す。

(読売新聞、2009年9月12日)

****** NHKニュース、2009年9月11日

“感染の妊婦は内科受診を”

 新型インフルエンザに感染すると重症化しやすい妊婦の間で感染が広がるのを防ぐため、日本産科婦人科学会は、新型インフルエンザに感染したとみられる妊婦に対し、産婦人科ではなく内科を受診してほしいと呼びかけるとともに、今後、内科との連携を強めていく方針を示しました。

 これは日本産科婦人科学会の吉村泰典理事長らが11日に記者会見をして明らかにしたものです。この中で吉村理事長は「新型インフルエンザに感染した妊婦が産婦人科を訪れると、ほかの妊婦に感染させるおそれがあるので、まず内科でみていただきたい」と述べて、感染したとみられる妊婦に対し、産婦人科ではなく、事前に電話連絡をしたうえで内科を受診してほしいと呼びかけました。また、吉村理事長は、新型インフルエンザの感染が疑われる妊婦が内科を訪れたところ、診察を断られ、逆に産婦人科で受診するよう戻されたケースがこれまでに複数報告されていることから、日本内科学会に対し、妊婦の診察への協力を文書で求めたことを明らかにしました。今回の新型インフルエンザでは、アメリカの研究機関の報告で、妊婦は一般の人に比べ死亡率が数倍から10倍程度になるというデータもあり、専門家は妊婦の人たちと医療機関の双方がともに適切な対応をとる必要があるとしています。

(NHKニュース、2009年9月11日)

****** 朝日新聞、2009年9月10日

新型インフル感染疑いの妊婦、産婦人科の受診OK

 日本産科婦人科学会(理事長・吉村泰典慶応大教授)は10日までに、妊婦が新型の豚インフルエンザに感染したと疑われる場合、かかりつけの産婦人科医が対応できるようにする項目を指針に加えたことを医療関係者に伝えた。これまでは、他の妊婦への感染予防を重視し、一般病院での受診を勧めていた。

 新たに加えられたのは、(1)一般病院に通うことが難しい地域などでは、かかりつけ産婦人科医が対応(2)新型インフルの症状が重症化しておらず、出産や切迫早産の兆候がある妊婦は、かかりつけ産婦人科を受診する、など6項目。

 学会は、出産間近の妊婦への投薬判断や切迫早産など合併症への対応が予想されるケースでは、産婦人科の専門医でなければ処置が難しいとの指摘を重くみて、指針の修正を決めた。妊婦からは、一般病院に電話で受診の相談をした時点で診療を拒否されるおそれがあるとの不安が寄せられていた。

 海外の新型インフルの感染例をみると、妊婦は一般の人より症状が重くなる傾向がある。指針づくりの責任者を務めた水上尚典・北海道大教授は「妊婦が受診するまで時間がかかってしまうことを避けたかった。重症化を防ぎ、妊婦の死亡をゼロにしたい」と話す。

 新型インフルの感染が拡大した場合、産婦人科の専門医が不足している一般病院で妊婦が受診するのは困難な状況が予想される。そのため、関東地方のある県では、不妊治療などを中心に扱う産婦人科医院にも受診の受け皿になってもらう仕組みづくりを検討している。 【熊井洋美】

(朝日新聞、2009年9月10日)

****** 日本産科婦人科学会、お知らせ

妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての新型インフルエンザのQ&A

今回(平成21年9月7日)改定の要旨

① ワクチンに関するQ&Aを加えたこと
② 一般病院へのアクセスが困難な場合にはかかりつけ産婦人科医が対応すること
③ 当然であるが、産科的問題(分娩や切迫早産症状など)は重症でない限りかかりつけ産婦人科医が対応すること
④ 重症例は肺炎が疑われる患者であり、それら患者は適切な病院への搬送が必要であること
⑤ 新型インフルエンザであっても簡易検査でしばしばA型陰性と出ることがあるので、周囲の状況から新型インフルエンザが疑われる場合は躊躇なくタミフル投与を勧めること
⑥ 母親が分娩前7日以内に新型インフルエンザ発症した場合、母児は別室として児への感染に関して慎重に観察すること

妊婦もしくは褥婦に対しての
新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応
Q&A (医療関係者対象)

         平成21年9月7日(5版)
         社団法人 日本産科婦人科学会

Q1: 妊婦は非妊婦に比して、新型インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?
A1:妊婦は重症化しやすく、また死亡率が高いことが強く示唆されています。

Q2: 妊婦への新型インフルエンザワクチン投与の際、どのような説明が必要でしょうか?
A2: 季節性インフルエンザワクチンに関しては米国では長い歴史があり、安全性と有効性が証明されている。米国では季節性インフルエンザワクチンは毎年、約60万人の妊婦に接種されている。妊娠中にワクチン接種を受けた母親からの児についても有害事象は観察されていない。新型インフルエンザワクチンも季節性インフルエンザワクチンと同様な方法で作られているので同様に安全と考えられている。ワクチンを受けることによる利益と損失(副作用など)を考えた場合、利益のほうがはるかに大きいと考えられている。WHOも同様に考えており、妊婦に対する新型インフルエンザワクチン接種を推奨している。また、ワクチンを受けるということは「自分を守る」とともに、「まわりの人を守る」ことである。以上のようなことを説明し、ワクチン接種の必要性について理解して頂きます。

Q3: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応については?
A3: 発熱があり、周囲の状況からインフルエンザが疑われる場合には、「できるだけ早い(可能であれば、症状出現後48時間以内)タミフル服用開始が重症化防止に有効である」ことを伝えます。受診する病院に関しては、あらかじめ決めておくよう指導します。妊婦から妊婦への感染防止という観点から妊婦が多数いる場所(例えば産科診療施設)への直接受診は避けるよう指導します。これはあくまでも感染妊婦と健康な妊婦や褥婦との接触を避ける意味であり、「接触が避けられる環境」下での産科施設での感染妊婦の診療は差し支えありません。妊婦には一般病院を受診する際にも事前に電話するよう指導します。また、マスク着用の上、受診することを勧めます。一般病院へのアクセスが種々の理由により時間がかかる、あるいは困難と判断された場合にはかかりつけ産婦人科医が対応します。当然ですが、産科的問題(切迫流・早産様症状、破水、陣痛発来、分娩など)に関しては、新型インフルエンザが疑われる場合であっても、重症でない限り、かかりつけ産婦人科施設が対応します。ただし、院内感染防止対策に関しては最大限の努力を払い、感染妊婦と職員あるいは健康な妊婦・褥婦間に濃厚接触があったと考えられる場合は、濃厚接触者に対して速やかにタミフル、あるいはリレンザの予防投与を考慮します。
A型インフルエンザ感染が確認されたら、ただちにタミフルを投与します。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)が重症化防止に重要」と伝えます。新型インフルエンザであっても簡易検査でしばしばA型陰性の結果となることに注意が必要です。基礎疾患があり、インフルエンザが疑われる患者には簡易検査の結果いかんにかかわらずタミフルを投与すべきとの意見もあります。妊婦は基礎疾患がある患者と同等以上に重症化ハイリスク群と考えられていますので、周囲の状況や患者症状からインフルエンザが疑われる場合には簡易検査結果いかんにかかわらず同意後、躊躇なくタミフルを投与します。

Q4: インフルエンザ重症例とはどういう症例をさすのでしょうか?
A4: 肺炎を合併し、動脈血酸素化が不十分な状態になった場合、人工呼吸器が必要となりますので、それらに対応できる病院への搬送が必要となります。したがって、呼吸状態について常に注意を払う必要があります。また、若年者ではインフルエンザ脳症(言動におかしな点が出て来ます)もあり、これも重症例です。

Q5: 妊婦が新型インフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?
A5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与を開始します。

Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?
A6: 2007年の米国疾病予防局ガイドラインには「抗インフルエンザ薬を投与された妊婦および出生した児に有害事象の報告はない」との記載があります。また、これら薬剤服用による利益は、可能性のある薬剤副作用より大きいと考えられています。催奇形性(薬が奇形の原因になること)に関して、タミフルは安全であることが最近報告されました。

Q7: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?
A7: 米国疾病予防局の推奨では以下のようになっていますので、本邦妊婦の場合にも同様な投与方法が推奨されます。
1.タミフルの場合
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)
治療のための投与:75mg錠1日2回(計150mg)5日間
なお、本邦の2008年Drugs in Japanによれば、治療には上記量を5日間投与、予防には上記量を7日~10日間投与となっています。
2.リレンザの場合
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)
なお、本邦の2008年Drugs in Japanによれば、治療には上記量を5日間吸入、予防には上記量を10日間吸入となっています。

Q8: 予防投与の場合、予防効果はどの程度持続するのでしょうか?
A8: タミフル、リレンザともに2008年Drugs in Japanによれば、これらを連続して服用している期間のみ予防効果ありとされています。

Q9: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?
A9: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。

Q10: 分娩前後に発症した場合は?
A10: タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。また、母親が分娩前7日以内に発症した場合、母児は別室とし、児も感染している可能性があるので、厳重に経過観察し、感染が疑われる場合には検査(A型か否か)を行い、できるだけ早期に治療を開始します。

Q11: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?
A11: 母乳を介した新型インフルエンザ感染の可能性は現在のところ知られていません。したがって、母乳は安全と考えられます。しかし、母親が直接授乳や児のケアを行うためには以下の3条件がそろっていることが必要です。
1)タミフルあるいはリレンザを2日間以上服用していること
2)熱が下がって平熱となっていること
3)咳や、鼻水が殆どないこと
これら3条件を満たした場合、直接授乳することや児と接触することを母親に勧めます。ただし、児と接触する前の手洗い、清潔な服への着替え(あるいはガウン着用)、マスク着用の励行を指導します。また、接触中は咳をしないよう努力することを指導します。上記3条件を満たしていない間は、母児は可能な限り別室とし、搾乳した母乳を健康な第三者が児に与えるよう指導します。このような児への感染予防行為は発症後7日~10日間にわたって続けることが必要です。発症後7日以上経過し、熱がなく症状がない場合、他人に感染させる危険は低い(まったくなくなったわけではない)と考えられているので、通常に近い母児接触が可能となります。

         本件Q&A改定経緯:
         初版 平成21年5月19日
         2版 平成21年6月19日
         3版 平成21年8月4日
         4版 平成21年8月25日
         5版 平成21年9月7日