ディストピアからの脱出 ネットの先にある未来は
2020/3/22 2:00
日本経済新聞 電子版
ネットは創生期からずっと、人類社会を再定義する「思想」の側面を強く持っていた。だからこそ反権力やリベラルの気質が強い米国西海岸の空気にはまり、シリコンバレーの住人は個人の時代をもたらすネットにユートピアを夢みた。
だが、実現した世界は完全に逆行した。個人情報は巨大IT企業に吸い上げられ、人は行動や考え方まで左右されている。中国は個人情報を収集する統治システムを輸出し、民主主義を危うくしている。ネットは現実世界を反映したにとどまらず、かつてないほど強い中央集権型社会を生み出した。分散型への胎動はそんなディストピアを脱し、再びユートピアをめざす試みだ。
ディストピアという言葉は「自由論」を記した政治哲学者ミルが造ったという。1868年の議会演説で、都合のよい理想主義を「ユートピアンと呼ぶよりディストピアンと呼んだ方がよい」と皮肉った。ミルが唱えた個人の自由の前提には倫理や道徳など絶対的な自然法があった。