「点字」 近藤宏一
ここに僕らの言葉が秘められている
ここに僕らの世界が待っている
舌先と唇に残ったわずかな知覚
それは僕の唯一の眼だ
その眼に映しだされた陰影の何と冷たいことか
読めるだろうか
星がひとつ、それはア
星が縦にふたつ、 それはイ
横に並んでそれはウ
紙面に浮かびでた星と星の微妙な組み合わせ
読めるだろうか
読まねばならない
点字書を開き唇にそっとふれる姿をいつ
予想したであろうか・・・
ためらいとむさぼる心が渦をまき
体の中で激しい音を立てもだえる
点と点が結びついて線となり
線と線は面となり文字を浮かびだす
唇に血がにじみでる
舌先がしびれうずいてくる
試練とはこれかー
かなしみとはこれかー
だがためらいと感傷とは今こそ許されはしない
この文字、この言葉
この中に、はてしない可能性が大きく手を広げ
新しい僕らの明日を約束しているのだ
涙は
そこでこそぬぐわれるであろう