備前焼 やきもん屋 

備前焼・陶芸家の渡邊琢磨(わたなべたくま)です。陶芸、料理、音楽、路上観察……やきもん屋的発想のつれづれです。

流雫へ その3  ~ テストいろいろ ~

2020-06-26 11:49:47 | 陶芸


今回の個展では流雫(るな)シリーズを始めています。それらについて少し……。

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さて、これまでに伊部手(黒備前)に対して素材のテストした。
そして、次は技法のテストを始める。

自分の絵画センスは甚だアヤシイのだけれど、かつては音楽の趣味として不協和音、変拍子、十二音技法、無調性などが好みであった。
その所為なのか、抽象画は好きな部類である。
無釉焼締めの景色もいわゆる抽象画のようなもの。やはりここは抽象性を目指すのが自分にとっては自然なのだろう。
絵唐津や志野ではなく、ジャクソン・ポロック氏のpouring、河井寛次郎氏の打薬、弥七田織部のテイストを無釉焼締め陶でするという事。
自己内面的には、これまでの象嵌文様のカウンターであるのかも知れない。

手元には『自家製 備前産ベンガラ』と『備前産一次粘土』がある。
黒と白。「いかに使うか……」と、考える間もなく手が動いていた。それも衝動的に。

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◆テストピース製作◆

塗り分け。ベンガラの濃淡による発色の検証。

「焼く前の秋色コーデっぽいのん、エェなぁ~」とは思うけれど、そうはならないのがヤキモノである。

焼き上がり。

鉄以外の金属もあるのだろうな。キラキラも出るぞ。
これはこれで、良き。

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◆テスト色々◆

焼成条件を変える。


ベースの土を変える。


いやはや面白いな。

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ちょっと迷彩柄っぽくもある。
ちなみに迷彩柄は4色構成が多い。それが数学の4色問題に関係するのかは知らない。
今ある素材での発色は『素地の地色、ベンガラ、泥漿、自然釉(ゴマまたはヒダスキ)』である。
ちょうど4色ぐらいの数。
さてさて、これに焼成条件や火の走りも入れると無限の組み合わせであるなぁ。

いやはや大変だが、楽しみ。

……という事で今後も続けるべくシリーズ化します。


そして、最後に恒例のCM~~~~~~~~~。
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◆流雫シリーズは下記で展覧中◆

タイトル : Sturm und Drang 2020
会期 : 6/26(金)~7/1(水) 11:00~19:00
会場 : 備前焼ギャラリー夢幻庵 銀座店
       〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目6−10
       TEL 03-3289-8585

※在廊しませんが、会場からZOOMでウチと繋いでお話できるようにしています。ご希望ありましたら是非!
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世界的厄災によって、価値観やスタイルの変更が急激にもたらされた。
疾風怒濤吹き荒れる時ではあるが、新しい何かが生まれるタイミングでもあろう。
そのタイミングでシリーズ化した『流雫(るな)』。
実験考古学的に始めた素材考証だったが、一気に新たな技法となった。
でも、それも良いと思っている。 Sturm und Drang

ただし、願わくば「月が綺麗ですね」とサラリと落ち着いて言える心情は持っていたい。

『流雫』シリーズ。今後ともよろしくお願い致します。























流雫へ その2 ~ 備前産ベンガラを作る ~

2020-06-25 19:58:21 | 陶芸


今回の個展では流雫(るな)シリーズを始めています。それらについて少し……。

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◆備前産のベンガラを作る◆

採取した湖沼鉄を精製してベンガラ(弁柄)を作ることにしました。しかも出来るだけシンプルな工程で作りたい。
その後、ベンガラを使って黒い備前焼を作る方針です。

ゴミを取り除き


乾燥させて


有機物を燃やすと~~~~


鉄ゥ!! 

(磁性が発生して磁石にくっつく)


これで、備前産のベンガラが出来ました。簡単に作りましたがキチンと『鉄』です。

これを使って伊部手を再現してみます。まずは全面を均一に黒くする。基本は大事。

薄い塗膜での黒い発色です。刻文の小さな凸凹も損なっていません。


出来るね、うん。よし。

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◆別の可能性◆

黒がベンガラによるなら、他の可能性としては高梁市成羽町で作られていた『吹屋ベンガラ』があります。
それをヤキモノ屋が入手した? または、池田の殿様が呉れた? 
誰も見ていないので真偽は判りません。
鉱物由来のベンガラは釉薬的観点からしても安定していて大いに可能性はありますが、そこには興味ない。キッパリ。(……だって結果が判ってるもの)

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という事で、『近所で採った素材で黒備前が出来るのか?』という検証は終わり。

素材としての正否は不明ながらも、ひとつの方向性として示せるものではあるかな。


さて、検証は出来た。
次は自分の表現として使いたいよねぇ。解体&リミックスがモットーなので。
……という事で、色々と始めちゃうのよさ。ぐへへ。 


(その3へ、続く~~~っ!!)


ちょっとCM
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◆流雫シリーズは下記で展覧中◆

タイトル : Sturm und Drang 2020
会期 : 6/26(金)~7/1(水) 11:00~19:00
会場 : 備前焼ギャラリー夢幻庵 銀座店
       〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目6−10
       TEL 03-3289-8585

※在廊しませんが、会場からZOOMでウチと繋いでお話できるようにしています。ご希望ありましたら是非!
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流雫へ その1 ~ 伊部手の黒はどこから? ~

2020-06-25 18:54:49 | 陶芸


今回の個展では『流雫(るな)』シリーズを始めています。それらについて少し……。
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◆そもそもの自分の製作スタイル◆

備前焼の伝統技法を現代的視点で解体・リミックスすることで、 今を生きる焼締め陶の在り方を模索しています。

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◆技法のシリーズ化◆

昨年より実験的に展覧会に出品していたモノをシリーズ化しました。
具体的には、鉄と泥漿による彩色です。

昨年のタカシマヤ新宿店でのモノ


筆描きせずに、垂らしたり飛ばしたりして自然に出来る文様を旨としています。
アメリカの画家ジャクソン・ポロック氏のpouring、河井寛次郎氏の打薬、濱田庄司氏の流描、弥七田織部などに類するものです。
差しあたって備前において技法名がないために『流雫(るな)』としました。作業的部分にフォーカスした命名です。

泥彩では鉄に言及出来ないし・・・・・・。
抽象的イメージである巌と波から『山雲濤声(さんうんとうせい)』由来の『山濤文(さんとうもん)』も考えたのだが、「伝わりにくい」&「箱書き大変!」。

よって、新しい技法名は『流雫(るな)』であります。(元号発表的)


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◆製作の前提◆

●白について
今まで象嵌で使っていた備前の一次粘土を使う。

●黒について
まずは、材料を決めなければならない。
以前より江戸期の備前焼にある伊部手の『黒』の発色に興味がありましたので、それを一考する事にします。
主に細工物や献上手に見られる色で、藩の特産品として上手なモノが求められたのか、焼き方にも随分と気遣いが見られます。
その裏面を見ると時折、極薄い塗膜での黒が見られます。小さなヘラ目の溝も埋まっていません。(墨はまた別)
つまりポテッとした釉薬のような濃度ではなく、薄くて黒く発色するもの……。(すべての細工物がそうではありません)

さて、その原料はどこから?

古今東西、人は人力だけで何かをするには出来るだけ楽な方法を考えます。
重いものの運搬などもってのほかで、そういうものは権力の誇示として使うべきものです。城、石垣、古墳などがその例です。

先人の陶工たちも身の回りの素材を利用して陶器を作ってきた事でしょう。
山や平地から粘土を採取し、木を切って燃料とし、地形を利用して窯を築き、溶着防止に稲ワラを使ってきました。
(ヒダスキは本来、重ね焼きでの溶着防止が目的。緋色はその結果として生じたもの)

生産地が異なれば材料も変わりますが、陶工がする事は同様で「手に入りやすいもので作る」のが基本です。
溶着防止材は備前焼では稲ワラですが、海に近ければ貝殻や海藻などを使います。
土地によって粘土の母岩である火山岩の組成が異なる(花崗岩、安山岩、流紋岩等)ので、出来る粘土の性質も異なります。
これらの結果として、産地の特徴が自然と出来上がります。
同じような無釉焼締め陶であっても、越前、常滑、信楽、丹波、備前……と特徴が出ます。

さてさて、話を戻して……黒の原料はどこから?

つまりは、簡単に身近で手に入って安定的に黒く発色をするもの・・・とは。

ひとつの仮説を立てました。
それは田んぼや用水に溜まる生物由来の鉄ではないか?
ヒダスキの稲ワラ同様、半農半陶の備前では田んぼは身近なフィールドです。
鉄をエネルギー源とする鉄バクテリアによって代謝される鉄。
つまり、ソブです。

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◆湖沼鉄=祖父(ソブ)の発見◆

事の端を発したのは、近所で『湖沼鉄』を発見した事によります。


『湖沼鉄』の名称は様々で、
●環境土壌学:斑鉄、褐鉄鉱、酸化鉄黄土
●地質学:鉄バイオマット、鉄バイオフィルム
●生化学:バイオ酸化鉄
●考古学:パイプ状ベンガラ
●工芸:ソブ

と呼ばれます。
異業種交流した場合、同じものがイメージ出来るのかしら?

ちなみに土地の名前を見ると「おや?」という発見もあるけれど、そこはまた別の機会に。
まぁ、山師の世界ですな。

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これを自分で精製すると間違いなく『備前産の鉄』が出来上がります。

「備前の素材で作りました」と言える部分で、ちょっとここは大事にしたいところ。


(その2へ、続きます)



ちょっとCM~~~~!
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◆流雫シリーズは下記で展覧中◆

タイトル : Sturm und Drang 2020
会期 : 6/26(金)~7/1(水) 11:00~19:00
会場 : 備前焼ギャラリー夢幻庵 銀座店
       〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目6−10
       TEL 03-3289-8585

※在廊しませんが、会場からZOOMでウチと繋いでお話できるようにしています。ご希望ありましたら是非!

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【ご案内】 個展@銀座・夢幻庵

2020-06-25 11:14:30 | 展覧会・ご案内


今年は東京での個展はこの展覧会のみです。
去年は「住んでるの?」と訊かれるぐらい上京してたのにな……。
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タイトル : Sturm und Drang 2020

会期 : 6/26(金)~7/1(水) 

会場 : 備前焼ギャラリー夢幻庵 銀座店

※在廊しませんが、会場からZOOMでウチと繋いでお話できるようにしています。
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「古備前の伊部手の鉄分は何に由来するのだろうか?」
その疑問を実験考古学的に考証することにした。
近所の田んぼから湖沼鉄を採取、ベンガラを自家精製して窖窯・連房式登窯で焼成する。
実験を進めるうちに、正否は別として自分の技法として使いたいと思った。

理性より表現への衝動が勝る『Sturm und Drang』……嵐と衝動。
疾風怒濤な時代に流れる鉄の雫。

ご高覧頂けると幸いです。



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◆Sturm und Drang (独:シュトゥルム・ウント・ドラング)
直訳は『嵐と衝動』であるが、通常『疾風怒濤』と訳される。
学生の頃に生粋のドイツ人に訊いた事があるが、曰く「ドイツ人気質の微妙なニュアンスがあって適当な外国語訳はない」とも。

内容的には、18世紀後半にドイツでの革新的な文学運動に端を発して、その後のロマン主義へと向かう流れである。
名称は、ドイツの劇作家が書いた同名の戯曲に由来する。
これまでの古典主義や啓蒙主義に対し、理性に対する感情の優越を主張する。
ロマン派前夜! なのだろうね。

個人的に西洋美術史を西洋音楽史に置き換えて理解している身からすると……、
ちょうどハイドン、モーツァルトからベートーヴェンを挟んでロマン派へという流れが相当する。
まぁ、ちょっとイジワルな見方をすると貴族から市民へと政治や芸術の主軸が移っていく段階で、反知性的側面や市井感情を反映するのは致し方ない。あと、ピアノを始め楽器が改良されて富裕層のご家庭での小さな音楽会やご子息ご息女でも弾ける平易な曲が流行していくのも興味深い。
え~~と、脱線しすぎるからこの辺で。
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けだし、Sturm und Drang とは「やりたいことを やりたいようにやるのだ!(by 浅草氏)」という事なのでしょう。
でっ! ミライノカセキも出ています。


さてさて、時節柄いろいろでは御座いますが、よろしくお願い致します。