東京大学の入学式で名誉教授の上野千鶴子先生が述べた祝辞が話題になっています。
ありきたりの祝辞でなく、『頑張っても報われない社会が待っている』と、戒めともとれるエールを贈ったのです。
実は、上野先生には10年ほど前に、札幌市男女共同参画センターのサポーター役を担っていた時、講師としてお招きし公演して頂いた際に初めてお会いしました。
ジェンダー研究の第一人者で実践的論理の先駆者として舌鋒鋭く、禁句とも思える際どいフレーズも飛び出したりもしたが、今は少し丸みを帯びたものの久しぶりに上野節に触れた気がしました。
特に素晴らしいと思ったのは後半部分で、印象に残った言葉を幾つか紹介しておきます。
『私が学生だったころ、女性学という学問はこの世にありませんでした。なかったから、作りました。女性学は大学の外で生まれて、大学の中に参入しました。4半世紀前、私が東京大学に赴任したとき、私は文学部で3人目の女性教員でした。……今日東京大学では、主婦の研究でも、少女マンガの研究でもセクシュアリティの研究でも学位がとれますが、それは私たちが新しい分野に取り組んで、闘ってきたからです。そして私を突き動かしてきたのは、あくことなき好奇心と、社会の不公正に対する怒りでした。』
『学問にもベンチャーがあります。衰退していく学問に対して、あたらしく勃興していく学問があります。女性学はベンチャーでした。女性学にかぎらず、環境学、情報学、障害学などさまざまな新しい分野が生まれました。時代の変化がそれを求めたからです。』
『あなたたちは頑張れば報われると思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そして頑張ったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。』
『あなたたちの頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。』
『大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。知を生み出す知を、メタ知識といいます。そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です。ようこそ、東京大学へ。』
晴れの入学式で新入生たちがこの祝辞をどう受け取ったかは分らないが、ちなみに自分の現役時代の最高年収は1350万円ほどで、自慢ではなく頑張ればそれなりに報われる社会であった。
若くしてマイカーを何台か乗り換えできたし、マイホームや海外旅行も無理せず手に届くところにあった。給料が全てではないが、頑張ればまがりなりにも「やりがい」や「生き甲斐」をもって励めたことだけは間違いない。
翻って今はどうだろう? 非正規雇用の拡大、「働き方改革」という名のもとの「働かされ方改悪」、政府や役所~大企業までが平気で嘘をつく欺瞞ニッポン。一体こんな国に誰がした!?
指導者には、爪の垢でも煎じて少しは見識をもって国政に当たって貰いたいものである。