徒然なるまままに

展覧会の感想や旅先のことを書いてます。

特別展 中国陶磁 美を鑑るこころ @泉屋博古館分館

2006-11-25 | 陶磁器
特別展 中国陶磁 美を鑑るこころ
2006年11月3日から12月10日
泉屋博古館分館(東京)

実はこの飛び石連休の期間に訪れた5つの展覧会の中でも、随一といっていいぐらい、予想を裏切る素晴らしい展覧会でした。「青磁の美―秘色の探求― 出光美術館」(記録はこちら)、「インペリアル・ポースレン・オブ・清朝 静嘉堂文庫美術館」(記録はこちら)と比較してということではありません。今月台北の故宮博物院(記録はこちら)で中国陶磁の名品ばかり見てきたあとの感想なのですから、この素晴らしさを判っていただけるでしょうか?

泉屋博古館分館で開催されているので、いつものように住友コレクションが展示されているかと思いきや、多くの個人蔵の作品を含む陶磁器が展示されています。「鑑賞陶器」蒐集の過程で形成された中国陶磁コレクションの中で、日本人の高い美意識にあった作品を選んだとのこと。コレクターの愛蔵品や現代的な視点が加わっているいるからでしょうか、本当に優品ばかりです。

展示室2は小品が、展示室1は優品が展示されています。まず素直に、(というか殆んど説明もないので)陶磁器自身に向かい合います。鑑賞陶器というだけあり、発色やデザインなど、引き込まれるようです。そして、(世界で数十点しかないという)汝官窯の青磁盤が1点あると気がついて、多分はじめて見るその深い色合いに感嘆。展示室にある図録を見ると、川端康成氏旧蔵品といいます。五彩龍鳳文六角瓶 明・万暦(在銘)は、梅原龍三郎旧蔵品。流麗で美しい川端文学と、賑やかな色彩の梅原作品を見るようだ、という解説。いとをかし。

図録は購入しないまでも、会場でぜひ目を通されることを薦めます。展示説明が不親切なだけに、個々の作品に関して逸話は面白く書かれています。カラー印刷の再現性もなかなかです。

以下、特に目に付いた優品を。
3. 灰釉加彩官人俑 北魏 個人; 静謐な精神性を持つ北魏の俑。
4.灰釉加彩駱駝 北斉 中国陶瓷美術館; 黄味を帯びた質感といい一寸上を向いた造形といい優品
5.青磁蓮弁文五連燭台 南北朝 出光美術館;米国フレデリック・メイヤー氏旧蔵品、1974年売り立てにより将来。「青磁の美―秘色の探求― 出光美術館」(記録はこちら)でも展示されていた。印象的であったが、そのような来歴とは。
6.褐釉貼花文瓶 隋から唐;貼花文が目を引く。
10.重要美術品 三彩貼花文鳳首水注 唐 個人; 正統的な唐三彩とはすこし違った、釉薬をかけ流している。そこがまたモダン。

29.青白磁牡丹唐草文瓶 北宋 景徳鎮窯 個人; 美しい青白磁の色、牡丹唐草文の浮彫りが幻想的な雰囲気、花びらのような瓶口の造形も見事。景徳鎮窯は、北宋時代の中期ごろは薄い白磁胎に青みの強い透明釉をかけて青白磁を完成させたという。

13.青磁輪花碗 一対 耀州窯 北宋
14 青磁波濤文盤 耀州窯 北宋;波濤文が見事
15.青磁鳳凰唐草文枕 耀州窯 北宋 静嘉堂文庫美術館;なんて優雅な枕でしょうか。

16.青磁盤 汝官窯 北宋 個人;北宋汝官窯は、1937年にパーシヴァル・デビッド卿が文献、作品を調査し、青色の釉薬が全面にかかった端正な造形の青磁を抽出し、汝官窯と提示。1980年代になり窯跡が河南省宝豊県清涼寺から発見され、推論が証明された。という。

30.重要文化財 青磁輪花鉢 南宋官窯 南宋 東京国立博物館;大きな貫入が文様の大振りの輪花鉢。古来からの将来品。昭和9年に尾山得二氏の売り立てにより横河民輔コレクションに。とのこと。
31.青磁管耳瓶 南宋官窯 南宋;こちらも大きな貫入が美しい。
32.青磁瓶(米色青磁) 南宋官窯 南宋;米色青磁が2点。青磁は鉄分を還元して青や緑色の発色をさせるが、釉薬がとけるときにやや酸化気味になったときに、淡褐色の色調になる。米色青磁と呼ばれる。
33.青磁洗(米色青磁) 南宋官窯 南宋 常葉山文庫
32.33は、作風からいって南宋官窯と考えたいという解説もうなずける優美な造形と美しい色合いと貫入。

34.青磁形瓶 龍泉窯 南宋(12から13世紀)
35.青磁腰袴香炉 龍泉窯 南宋(12から13世紀)泉屋博古館
36.青磁鉢 龍泉窯 南宋(12から13世紀);こちらも川端康成氏旧蔵品
37.青磁鉢 龍泉窯 南宋(12から13世紀)
さらに龍泉窯(12から13世紀)の美しい緑色の青磁が4点。

青花も優品がならびます。
39.青花双魚文盤 景徳鎮窯 明・永楽 大和文華館
41.青花唐草文碗 景徳鎮窯 明・永楽 個人 
44.青花龍濤文盤 景徳鎮窯 明・宣徳(在銘) 個人

五彩など。典型的な明晩期の様式。故宮での勉強の成果でよく判ります。
52.五彩魚藻文盤 景徳鎮窯 明・嘉靖(在銘) 大阪市立東洋陶磁美術館
56.紅地黄彩雲龍文壺 景徳鎮窯 明・嘉靖(在銘) 大阪市立東洋陶磁美術館
57.黄地青花彩花唐草文瓢形瓶 景徳鎮窯 明・嘉靖(在銘)イセ文化基金
59.五彩龍鳳文六角瓶 明・万暦(在銘) ;梅原龍三郎旧蔵品

単色釉磁器の優品
63.桃花紅団龍文鉢 景徳鎮窯 清・康煕(在銘)
64.白磁団龍文鉢 景徳鎮窯 清・康煕(在銘);この2点は色合いといい、龍の浮彫の文様といい、とても上品。
65.黄釉輪花盤 景徳鎮窯 清・雍正(在銘)イセ文化基金

67.琺瑯彩西洋人物連瓶 景徳鎮窯 清・乾隆(在銘)永青文庫

このほかにも素朴な味わいの風情の陶磁器、また私の趣味ではないですが、
48.重要美術品 法花蓮池水禽文瓶 明 イセ文化基金
61.重要美術品 五彩龍鳳唐草文合子 明・万暦(在銘) 個人
など。

古来、先進文化としての憧憬に加え、茶の湯という一つの世界観を加味して形成されてきたわが国の美術蒐集の歴史の中に、欧米風の美術品鑑賞のスタイルとして中国陶磁器を純粋に鑑賞の対象として賞翫する見方が導入されたのは大正中期頃からと考えられます。そして昭和初期には「鑑賞陶器」という言葉も生まれ、中国陶磁の蒐集が美術愛好家の蒐集対象の主たる一分野となりました。

さらに戦前の本格的な鑑賞陶磁器コレクションを礎として、引き続き戦後においても蒐集は盛んに行われ、コレクターの増加とともにいくつもの優れたコレクションが形成されました。それはわが国の蒐集家たちが深い見識をもって接し、その崇高な美の世界を追求してきた成果に他なりません。

今回の展覧会では、「鑑賞陶器」蒐集の過程で形成された中国陶磁コレクションのなかから、「コレクタ-ズ・アイ」ともいうべき観点に立ち、作品が鑑賞されてきた一側面を提示し、その奥深さや幅広さ、美質を堪能し、さらにそれを可能とした日本人の高い美意識、いうなれば美を鑑るこころを感じ取って頂ければ幸いです。

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1 コメント

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Unknown (あべまつ)
2006-12-09 21:44:44
こんばんは。TBありがとうございます。
いつも丁寧なレポートに、勉強させて頂いています。
今回も、慌ててみたので、こちらの記事に沢山助けて頂きました。
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