徒然なるまままに

展覧会の感想や旅先のことを書いてます。

ス―チンの「白いブラウスを着た若い女」@コートールド美術館展

2019-10-20 | 絵画
コートールド美術館展 魅惑の印象派 @東京都立美術館
2019年9月10日-12月15日

マネの「フォリー=ベルジェールのバー」のメイド。彼女に会うのは三度目になる。

はじめて会ったのは、1984年。日本橋高島屋で、開催されたコート―ルド美術館展。展覧会の予告で見かけて、恋人に会いに行くようにワクワクと会いに駆け付けた時のことは、鮮明に覚えている。「見る/見られる」の関係が鑑賞者との間に設定したマネの罠に完全にノックダウンされてしまった。

次に出会ったのは、1990年代のロンドン。97年にも彼女は来日してくれたが、その時は忙しくて会えなかった。

そして、今回が三度目になる。相変わらず視線にドキドキしてしまうが、三度目になるといろいろなところに目が行く。三角形の構図からはみ出て描かれた、鏡に映る男性としゃべる後ろ姿。また手前のテーブルに並ぶお酒や果物。空中ブランコの足。署名もこっそりと画面左下の瓶にされていた。

この傑作に次に会えるのはいつのことだろうか。

これまで2度のコート―ルド・コレクションの鑑賞では、マネの「フォリー=ベルジェールのバー」に意識が集中してしまい、他の傑作の鑑賞はどうしても流しがちになっていた。今回は、印象派作品を世界中でみてきて、もう一度コート―ルドの傑作を見るということで、10点余りのセザンヌも、モディリアーニ 「裸婦」(1916)も、ルノワールの「桟敷席」も、フィンセント・ファン・ゴッホ 「花咲く桃の木々」(1989年5月 アルルの作品)、ポール・ゴーガンの「干し草」「ネヴァーモア」「テ・レリオア」も、やはり傑作ぞろいの傑作を充分に味わえた。

その中で、今回の展覧会で発見した一押しは、ス―チンの「白いブラウスを着た若い女」Young Woman in a White Blouse 。最近、松方コレクション展で、ポンピドーセンター所蔵のChaïm Soutine, Le Groom(Le chasseur) ページー・ボーイ(1925)を見たからだろうか。ページ・ボーイは赤だったが、今回は白い人物。主題に単純な単色で少し神経質な輪郭で描く、ス―チンのスタイルは鮮明な印象を与える。

後年のために、鑑賞したセザンヌPaul Cézanne をリストしておく。

アヌシー湖 1896年 e Lac d’Annecy
レ・スール池、オスニー 1875年頃 L’Étang des Sœurs, Osny
ノルマンディーの農場、夏 (アッタンヴィル) 1882年 Farm in Normandy, Summer (Hattenville) 個人蔵(サミュエル・コートールド旧蔵、 コートールド美術館に長期貸与)
ジャス・ド・ブッファンの高い木々 1883年頃 Tall Trees at the Jas de Bouffan
大きな松のあるサント=ヴィクトワール山 1887年頃 Montagne Sainte-Victoire with Large Pine
鉢植えの花と果物 1888–1890年頃 Pot of Flowers and Fruit
カード遊びをする人々 1892–1896年頃 The Card Players
(このシリーズの4作目、3作目はオルセー、5作目は2011年に$250Mでカタールのロイヤルファミリーに取得にされたとのこと、WIKIに説明あり)
パイプをくわえた男 1892–1896年頃 Man with a Pipe
キューピッドの石膏像のある静物 1894年頃 Still life with Plaster Cupid
曲がり道 1905年頃 Turning Road
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佐竹本三十六歌仙絵の所有者変遷

2019-10-14 | 絵画


「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」の図録に、最新の所蔵者やProvenanceがあったので、他の情報もあわせてUPDATEしておきたい。

番号  歌 人 1919年当時所有者 1919年当時の価格 1984年当時所有者(●印)(*は京博図録による) 「絵巻の流転」参照箇所 所有者
 一番 柿本人麿 森川勘一郎 金一万五千円 →森川馨→某氏→出光美術館● 7章 出光美術館
 二番 凡河内躬恒 横井庄太郎(古美術商) 金三千円 →横井万太郎→某氏→某氏   個人
 三番 大伴家持 岩原謙三(芝浦製作所社長) 金一万円 →某氏→松下幸之助(松下電器創立者)● 7章 松下幸子(西宮市)
 四番 在原業平 馬越恭平(大日本麦酒社長) 金一万円 湯木貞一(吉兆創立者)● 6章、8章 湯木美術館
 五番 素性法師 野崎廣太(中外商業新報社長) 金七千円 土橋嘉兵衛→某氏→個人(京都府)●   個人(京都府)
 六番 猿丸大夫 船橋理三郎(株屋) 金一万二千円 →某氏→個人(愛知)● 7章 個人
 七番 藤原兼輔 染谷寛治(鐘淵紡績重役) 金一万円 →某氏→某氏→個人(大分県)   個人(大分県)
 八番 藤原敦忠 團琢磨(三井合名会社理事長) 金一万二千円 →團伊能→日野原家→中埜又左エ門(中埜酢店社長)● 8章、8章 個人(愛知県)
 九番 源公忠 藤田彦三郎(藤田組) 金一万円 →大原孫三郎→大原総一郎→萬野裕昭(萬野汽船会長)● 5章、8章 京都・相国寺
 十番 斎宮女御 益田孝(三井物産社長) 金四万円 日野原宣(日野原節三夫人)● 8章 個人(愛知県)
十一番 源宗于 山本唯三郎(松昌洋行社長) 山本唯三郎氏ニ贈与スル事 →某氏→服部栄三●   個人蔵(徳川美術館寄託**)
十二番 藤原敏行 関戸守彦(第十一代) 金一万五千円 →関戸有彦(第十二代)→関戸佳基(第十三代)● 3章 個人(愛知)
十三番 藤原清正 藤田徳次郎(藤田組) 金六千円 →土橋嘉兵衛*→個人●   個人
十四番 藤原輿風 大辻久一郎 金八千円 →土橋嘉兵衛→個人(兵庫)●(*八馬家)→個人→メナード美   日本メナード化粧品(株)(メナード美術館)
十五番 坂上是則 益田英作(益田孝の弟) 金一万円 →津村重舎→某氏→個人(愛知)●   文化庁
十六番 小大君 原富太郎(生糸貿易商) 金二万五千円 大和文華館 4章 近鉄グループホールディングス(株)(大和文華館)
十七番 大中臣能宣 高橋彦次郎(相場師) 金一万一千円 長野・A社● 8章 サンリツ服部美術館
十八番 平兼盛 土橋嘉兵衛(古美術商) 金五千円 MOA美術館● 6章 世界救世教(MOA美術館)
十九番 住吉大明神 津田信太郎 金三千円 →松永安左エ門→東京国立博物館● 5章 東京国立博物館
二十番 紀貫之 服部七兵衛(古美術商) 金三千円 →伴良太郎→耕三寺耕三→耕三寺博物館● 6章 耕三寺博物館
二一番 伊勢 有賀長文(三井合名会社理事) 金一万五千円 →松永安左エ門→日野原家→岡崎恒雄(岡崎鉱産物社長)● 4章、5章、8章 岡崎恒雄(西宮市)
二二番 山部赤人 藤原銀次郎(王子製紙社長) 金一万円 個人(東京)●   個人
二三番 僧正遍照 小倉常吉(小倉石油社長) 金五千円 →小川乃ぶ→某氏→出光佐三→出光美術館● 7章 出光美術館
二四番 紀友則 野村徳七(野村財閥創始者) 金一万円 →野村文英→野村文華財団● 1章 野村文華財団
二五番 小野小町 石井定七(相場師) 金三万円 →渡辺甚吉→藤木正一→藤木鉄三(藤木工務店社長)● 4章 個人(大阪府)(藤木玄三?)
二六番 藤原朝忠 小林寿一 金五千円 →大倉喜八郎→三浦孫二→三浦一宏(三浦商会社長、金沢市)●   個人(金沢市)
二七番 藤原高光 児島嘉助(古美術商) 金八千円 →小林一三→逸翁美術館● 5章 阪急文化財団(逸翁美術館)
二八番 壬生忠岑 西川荘三 金一万円 →某氏→個人   東京国立博物館(原操氏寄贈)
二九番 大中臣頼基 益田信世(益田孝の子) 金九千円 →遠山元一→遠山記念館   遠山記念館
三十番 源重之 嶋徳蔵(大阪株式取引所理事長) 金四千円 →畠山一清→某氏→岡崎恒雄(岡崎鉱産物社長)● 4章 岡崎 恒雄(西宮市)/個人(京都府)
三一番 源信明 住友吉左衛門(15代)(住友銀行創設者) 金五千円 住友吉左衛門(第十六代)● 1章 泉屋博古館
三二番 源順 高橋義雄(三越呉服店理事) 金九千円 →熊沢一衛→山口玄洞→某氏→個人(東京)●   サントリー美術館(1994年10月収蔵)
三三番 清原元輔 高松定一(3代)(名古屋商工会議所会頭) 金一万円 →長尾銀弥→五島慶太→五島美術館 7章 五島美術館
三四番 藤原元真 嘉納治兵衛(7代目)(白鶴醸造) 金一万円 →某氏→幸福相互銀行→頴川美術館●   文化庁
三五番 藤原仲文 鈴木馬左也(住友総理事) 金三千円 →蜂須賀侯爵家→北村ひろ→北村美術館 6章 北村文華財団(北村美術館)
三六番 壬生忠見 塚本與三次 金一万円 →平井仁兵衛*→中島徳太郎(中島商店社長、金沢市)●   個人(金沢市)
三七番 中務 山田徳次郎 金八千円 →山口玄洞→某氏→東京・B社● 8章 サンリツ服部美術館

1984年当時所有者は、資料1,2から作成
現所有者は、資料2-4等から作成。

資料1:「三十六歌仙絵巻の流転」日経ビジネス文庫(2001年)

資料2:「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」の図録 京博(2019年)

資料3: 国指定文化財等データベース https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index

資料4: 兵庫県 国指定文化財リスト(H29年)


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流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美 @京都国立博物館

2019-10-14 | 絵画
特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美 @京都国立博物館
2019年10月12日 ~ 2019年11月24日

初日に観覧しようと計画していたら、台風19号が来襲するというので新幹線も運休というので、一度は断念。
とはいえ、14日に前期を拝見してきました。

37点の絵図のうち31点が出展されますが、第一週に展示されていたのは24点。
お姫様は、小野小町1点とちょっと寂しい感じです。

とはいえ、2階は、ほぼ佐竹本三十六歌仙絵のみでゆったりとした展示でになっています。
数点を鑑賞するだけだと、ほぼ同じような図像に見えてしまいますが、24点をゆっくりと説明書きをみながら拝見すると、なるほどと描き分けられています。

例えば、家持「さほしかのあさたつをのゝあきはきに たまと見るまておけるしらつゆ」に対して、冠直衣姿の家持は右手を冠にかざし遠くをみやる。その眼には秋萩におかれた白露が朝日をうけ輝くさまが映っているのだろうか。と説明があります。

24点をこのように拝見できるとは、なんという贅沢。

このほかに
  • 国宝 三十六人歌集のうち、躬恒集と輿風集(本願寺) 料紙が素晴らしい。
  • 国宝 本阿弥切 古今和歌集 巻第十二残巻(京博)  多分はじめて見ました。断簡とはちがい迫力があります。
  • 国宝 一品経和歌懐紙 西行筆(京博) これが西行の真筆。文字数も多く書風がよくわかります。
  • 重文 紫式部日記絵詞 第三段(東博) 鈍翁が表装させた一幅。
    等がさりげなく並びます。

  • 三十六歌仙図屏風 鈴木其一 は、モダン。

    2006年の出光美術館での歌仙の饗宴でも説明されていたかもしれませんが、柿本人麻呂の掛軸は歌がうまくなるように、と拝まれていた、とのことや、図像のタイプの説明なども面白かった。
    藻塩草には、だれの書ぐらいの札をつけてほしかった。

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    六波羅蜜寺 の吉祥天女像

    2019-10-14 | 工芸
    初めての六波羅蜜寺。宝物館は木造彫刻の宝庫。

    教科書にも掲載されている木造空也上人立像。運慶作の地蔵菩薩坐像や定朝作の地蔵菩薩立像、平清盛坐像、運慶坐像、湛慶坐像などが、さりげなく、所狭しと並べられている。

    その中で、由緒書きで気になったのが、吉祥天女像。
    もともとは足利祈寺の本尊。禅海上人が阿波内侍屋敷跡を寺院に改め万寿山新醍醐寺として崇徳院の御霊を鎮めるために十住心院を建てたが応仁二年に焼失したため、六波羅蜜寺にこの本尊があるという。
    京都の歴史を感じ、興味深い。
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