たんぽぽの心の旅のアルバム

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『就職・就社の構造』より_各業界有力三十四社の辛口評価_杉田望(2)_日本電信電話( NTT)

2017年05月20日 19時03分31秒 | 本あれこれ
「各業界有力三十四社の辛口評価_杉田望(2)_日本電信電話( NTT)

 本社 東京都千代田区
 資本金 7,800億円
 従業員数 110万8,028人
 平均年齢 41.0歳
 平均賃金 41万106円
 大卒初任給 19万8,950円


 中央省庁とその監督下にある民間企業は、通例、友好関係を保つ。例え本音は別のところにあっても、表向き友好関係を装う。しかし、日本電信電話(NTT)は、郵政省との関係で、この日本的官民関係をはずれた企業である。

理由はいくつか考えられるが、歴史に一因がありそうだ。かつては逓信省として同じ組織だったが、1949年に郵政省と電気通信省に分離。52年に電気通信省が日本電信電話公社になり、85年の通信自由化でNTTが誕生した。公社時代、形式上の監督権限は郵政省にあったが、実際には公社から郵政省に出向した人間が監督して、政界工作はすべて公社自身が行った。郵政省は通信自由化で役員人事や料金の認可権限を持ち、名実ともに監督官庁になったが、そんな歴史を持つNTTが素直に郵政省のいうことをきくわけではない。郵政省はNTTの傲慢な態度が気に入らず、NTTに過剰な規制をするという悪循環となっている。どちらも大人気ない点では共通している。

 この関係がもっとも象徴的に現れているのが、料金問題だ。NTTの1992年度の収支構造をサービス別にみると、市内通話が1兆6,097億円ともっとも多く、以下、市外通話1兆1365億円、基本料1兆1,283億円、公衆電話3,164億円、番号案内236億円となる。しかしこれを経常損益でみると、稼ぎ頭は市外の6,798億円で、それ以外は赤字になっている。一言でいえば、市内部門の赤字を市外通話で補っていることになる。NTTの悲願は、赤字の市内部門の値上げである。というのも、通信自由化後に参入した新電電にドル箱の市外通話のシェアをどんどん食われているからだ。92年度の総通話回数に占める新電電のシェアは、5.8%にとどまっているが、県間通話になると26.8%、東京、愛知、大阪に限ると54.4%に跳ね上がる。新電電はNTTと料金の格差をつけることでシェアを伸ばしてきた。NTTも手をこまねいていたのではシェアを食われるだけだと、92年10月に市外料金を大幅に値下げした。ということは、稼ぎ頭の市外部門の収益悪化は確実で、その分、赤字の市内部門の値上げが必要になる。しかし、郵政省はすんなりとは認めない。「利用者に負担増を求める前に合理化の余地がある」という理由で、市内部門の値上げ申請をさせない。わずかに92年10月から公衆電話料金の値上げを認めた。それまでの3分10円が20円となり、94年4月からは30円になる。

 NTTは悲願の市内料金値上げのために、なりふり構わぬ合理化に走っている。公社時代の水ぶくれ体質があることは間違いないが、合理化のためなら何でもする、PRも積極的に、という姿勢だ。92年10月には希望退職者を募集した。2年間で1万人という大規模な内容で、雇用不安が高まっている産業界に、大きな波紋を投げかけた。1年目は4,000人程度の応募があり、日標は達せられそうだという。その代わりに、料金値上げを認めてほしいという作戦だ。

労働組合の全電通は「組合員に強制しない」ことを条件に希望退職に応じた。この例でわかるように、NTTほど労使が近い関係にある会社も珍しい。郵政省はかつて、NTT分割を目論んだが、NTT労使一体の政界工作の前に断念した。経営側は当時の政権党である自民党、組合側は野党の社会党に分割阻止を働きかけた。労使とも組織が小さくなることは、何かと困るからだ。料金値上げも、NTT労使の共通の悲願である。経営側はよりよい業績を望むし、組合にとっても賃金が高くなる経営内容のほうがいい。

 人事面でもそうした影響は出ている。児島仁社長は、労務担当が長く、組合からNTT民営化への合意を取りつけた手腕が買われた。児島社長誕生には、全電通出身で政界再編のキーパーソンとなった山岸章連合会長の支援があったといわれる。

しかし、こうした労使一体が、社内の不満も高めている。「闘わない組合なんて意味がない」「ストがなくて組合財政は潤っているのに組合員への還元がない」という若手の声が聞こえる。民営化したとはいえ、染み付いた公社体質は拭えない。社員はどことなく甘く、身のこなしも機敏さを欠く。責任感が強いわけでもなく、何かといえば愚痴が先に立つ。事態を打開するための綿密な戦略、機略があるわけでもない。

 それでも日本一の社員数を誇り、ノーベル賞受賞者を出すかもしれない企業ではある。 一社で中央官庁にたてをつき、組合OBが政界再編に奔走している。日本有数の不思議な企業であることは間違いない。」

(内橋克人・奥村宏・佐高信編『就職・就社の構造』岩波書店、1994年3月25日発行、168‐170頁より。)


就職・就社の構造 (日本会社原論 4)
クリエーター情報なし
岩波書店

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