脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

かくしゃくヒント31-彫刻家 重岡建治先生

2017年01月11日 | かくしゃくヒント

今日の「伊東市自然歴史案内人」講座は、重岡建治先生のアトリエ訪問でした。
毎年5月に伊豆高原一帯で開かれる、アートフェスティバルの発起人のおひとりですから、期間中は毎年アトリエをオープンにされます。その他にも何度かお会いしたり、作品を拝見したりしています。ずーと作品もお人柄も魅力的だと思っていました。

東日本大震災で全村避難の福島県飯舘村。そこから注文の作品(小さいサイズの見本)を傍らにおいて今日のお話が始まりました。

「飯舘村に道の駅ができるんですって。結構交通量の多い道ですから需要はあると見込まれてるんですけど」
2012の夏に南相馬市に行く途中通った飯舘村の緑にあふれる道が目に浮かびます。南相馬市便り
村長さんが素晴らしい人で、その道の駅では飯舘村の産物は売れない。ならば、支援してくれている土地の産物を売ろう。そしてそこに子供たちが遊べる彫刻公園を作ろう!と。思いつきがいいでしょう。その考えに賛同してこの作品を飯舘村のために作ってます。彫刻はそこでどう見えるかで全く違ってきますから、もちろん現地にも足を運びましたよ」
目がキラキラとして、とても今年80歳におなりとは思えません。


「これは、若いころに作った具象的な作品ですけど、気仙沼の港にあったんです。大震災の後、台座から転がり落ちていたので、今は預かってます。整備が終わったら気仙沼に帰る作品」
こういうふうに説明される時、先生が作品を見る目がとてもやさしく、そしてその作品の向こうに気仙沼の人たちの顔があって、その人たちまで見つめていらっしゃるような気にさせられます。
重岡アトリエのシンボルみたいです。「どこにもいかず、ここにあるものです」とおっしゃいましたから。

「ボクのは触れてもらう作品です。触ってもらったところはこんなに木肌がつややかになってるでしょ。ちょっと抽象的な作品のようですけど、目が悪い人たちにもわかってもらうために肩から腕のつながりなんかはとても正確に表現してます」

これが上半身。肩から腕。そうですね、目をつぶって触っても確かに人体と感じるでしょうね。膝に置いた手の部分がつやつや。

下半身。「長い間生きてきた木(「楠がいちばん好き」とおっしゃいました)を使いますから、やっぱりその木から新しく生まれ出たということを表現したくて、だんだん木そのものから作り上げるようになりました。下部を見てください」

お話は幅広い分野にわたります。
「ボクは彫刻って総合芸術だと思いますね。木が扱えないといけないし、その道具の手入れも。木彫の時はそれでいいですが、ブロンズにするためには新しい素材の生かし方も勉強。芯には鉄骨を組んでるし、大きい作品は地面を深く掘って型を差し込んでブロンズを流し込み、その後引き上げて設置。業者がやるのですが、知っておかなくてはね。4メートル以上だと安全のために計算も必要なんです」
 
「できるだけ薄く作るんです」と作品を裏返して説明してくださいました。イタリア留学時代に貧乏で材料代を節約するために細く薄く作った秘話まで披露されました。
「ジャコメッティはボクも好きですが、あれほど細く作るのは、彼もきっとお金がなかったに違いない」と笑っておっしゃいました。ふ~ん。
「イタリアや奈良の大仏様は、型をミツロウで作る作り方です。そこにブロンズを流し込むとロウなので溶けて簡便なんですが、金属の固まり方が違ってくるんですね。それに大きくはできないから、大仏さんのお顔のように継ぎ目ができてくる」


制作途中のフクロウ。材はサクラだそうですが、横のハトもサクラで作られた作品。
「50年たつと、サクラは酸化されてこんな濃い色になります。この色になって初めて、どのくらいノミを細かく使ったかがわかるようになります」
よくよく拝見したら、細かく彫られたところは1ミリにも満たないくらいでしたよ。

一般的なデザインはもちろん大切なのでしょうが、「木の持っている特徴を生かしてやりたい」という姿勢が強く伝わってきました。

これは椅子のデザインですが、周りはクスノキ、中はカエデと言われたと思います。色がすばらしいと。

先生は最初は仏像を彫る仏師に弟子入りされたそうです。徒弟制度の厳しさを語るエピソードはたくさんおありでしょうが、さらりと流し「教えていただいたことは、結局すべて身に付いた。そういうことができた最後の時代だったようです」と、言われました。
かくしゃく100歳の調査の時に感じた、人生に起きることに対しポジティブな受け止め方をするという 傾向が同じなんですね!

初期の仏像

手前は、最近の作品で「今、仏像を作るとこのようになります」。実は仏像が外れて分骨用のカプセルが組み込まれています。
「形がシャープになってきて、もう一つは『つながる』 とか『つなげる』とかを意識しています。実際にそうした方が強度も出てくるんです。子供たちがぶら下がっても、乗っても大丈夫なように作ってます」

もう一点、制作の秘密を教えてくださいました。大理石の作品です。

豊かな胸の表現が印象的な、抽象的な女体ですね。 
「この大理石は厚みが15センチくらいしかない。豊かな胸を表現するための工夫として、本来出ている腹部を彫ってへこませてみたんです。これから後の作品はへこますというか、えぐるというか。そこからむしろ豊かさを表すようになりました」

確かにこれだけの厚みしかないのです。

今まで何度も拝見してきた重岡作品ですが、これほど丁寧に説明していただくと見え方が変わってきます。
そして何より、重岡先生の人間愛とでもいえそうな、暖かさややさしさがその「言葉」からも伝わってきました。もちろんどの作品からも同じような印象がひたひたと押し寄せてくるのですけれど、こちらは「右脳」 がキャッチしています。
物事を理解するときに「言葉」は内容を深める働きをするものです。

玄関に入る前庭にこんなに大きな材が。庭にもアトリエの中にもたくさんの巨木がありました。乾燥を待っている巨木たちです。
重岡先生はキラキラした少年のような目でお話しされました。
あの目で、この巨木たちに対峙して、また魅力的な作品ができあがるのでしょう。
「作品を作り上げるのは、才能ではなく、コツコツ何万回もノミを打ち続ける根気だと思います。最近は手が言うことを聞かなくなってしまって。でも電動の道具があるそうだから」こういうことを言われる時も、深刻な雰囲気ではなくむしろニコニコ しながらおっしゃいます。

アトリエにお邪魔した2時間。心が震えました。そしてこういう深い生き方もまたかくしゃくへのパスポートに違いないと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


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