脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

かくしゃくヒント33ー「作品展の後、若返ったって言われます」

2017年06月19日 | かくしゃくヒント
伊豆高原の5月のお楽しみアートフェスティバル。
今年は友人のギャラリーで、これまた友人のフランス刺繍の作品展がありましたからワクワクしながらオープンを待ちました。案内ハガキです。「フランス刺繍に恋して60年」これがテーマです。

作者は山下好子さん。今年80歳のはずですが、とてもそのようには見えません。

繊細なフランス刺繍に出会うことがない時代ですから、作品展は大好評のうちに終了しました。刺繍もすてきでしたが、会場は刺繍の作品だけでなく、山下さんの感性で集められたアンティークの小物たちも場所を得て喜んでいました。

今日は後日談です。
電話の声が弾んでいました。
「私ね。あの作品展の後いろんな人から『若くなった』って言われるの。特に声がね、若くなったんですって。考えてみればわかる気もするのです」
(作品展にはフランス刺繍による絵画も飾られていました)

お話は続きます。
「作品展までは、お話しするといっても特別変わったこともなく淡々とした毎日だったわけですものね。作品展の後は、作品展がらみとか久しぶりの友人知人とか、そうそう昔のお弟子さんたちにもお会いしたから、どのお話にしたって楽しくて盛り上がってしまうんです」
(おしゃれなお茶帽子と指ぬきのコレクション)

私「お話の内容も楽しい話題なんでしょうけど、声そのものが溌溂とされたんじゃない?だってほんとに弾んでますよ~」
山下さん「まあ、そうでしょうか!そうだとしたらうれしいこと!」
私「声もですけど、ほんとに若々しくなった。もともとおきれいですけど、もっときれいになった。そういわれません?」
(こんなかわいい作品も)

山下さん「いえいえ。田舎のおばあさんですよ~
ですけど、アートフェスティバルの間は、人様が来てくださるしお話もしなくてはいけないので、一応失礼のないようにとお化粧もちょっとして何を着るかとかも考えたりしましたけどね。そういう余韻みたいなものは残ってるかもしれませんね」
(気が遠くなるようなカットワークの大作)

私「もともと美人さんだし、センスいいし。磨きがかかったというか。それにしてもよかったですねえ」
山下さん「そうなのです。お話があったときにはそれほどのものではないし、とか怖気づいていたんですけど、S塚さん(ギャラリー主)から『集大成です。一回まとめて皆さんに見ていただきましょうよ』と強く勧めていただいて、ほんとによかったと思ってます。いいお土産ができました」
私「そうですねぇ。確かに集大成。本誌終了ということですか。これからはステキなフロクを作るっていうのも楽しいかな。本誌よりフロクが好まれるってこともあるでしょう(笑)」
間髪入れずに。
山下さん「そうそう。最近はフロクの方が人気があって売り切れるというお話もありますね」こういうやり取りが、間髪入れずにできることが山下さんの脳が元気な証拠です。
(私に頂いたマーガレット模様のお茶帽子)

山下さん「一泊二日で東京に遊びに行ってきたんですよ。親戚のものと。銀座に泊まって銀座シックスにも行って、ランチしようと思ったら5000円。お連れが『ちょっと…』と言って、それで少し探したら近畿大学の養殖事業があるでしょう?あの直営店みたいなお店があって、美味しかったしサービスもよくてほんとに楽しかったんですよ」
私「東京へは御用で?」
山下さん「はとバスに乗りに(笑)。スカイツリーは見るだけとか希望を言ったら国会議事堂―赤坂迎賓館ー東京駅のステーションホテルでのティータイムというコースを選んでくれて。そうそう昼食は後楽園ドームホテルの高いところのレストランでした。どこもすてきでした。国会も今あんなでしょ。よくよく説明してくださってテレビで見るところが目の前で、ちょっと感動的」
私「よかったですねえ!東京も刺激的でいいですね。たびたび行らっしゃったらいいのに」
山下さん「たびたびはね。でも私、落語に行きたいのです!」と途切れることがないように話が続きます。いかにも楽しそうに、ほとばしるように。
山下さんの脳が実に活性化されていることが、ビンビン伝わってきましたよ。
(お茶帽子の背面。ハチが飛んできてる。こんなセンスの持ち主なんです)

こういうお話もありましたよ。
「私の人生、これで上等って思えます。後悔はない。そして巡り合えた人たちに『ありがとう』って言いたいの」
私「好子さんが言いたいことはわかります。でも人生終わりそうなお話ね。ちょっと早いかなあ」と笑ったらもうひとつこのようなお話も。
山下さん「私の刺繍の先生が、90歳におなりなのですが、作品展のお知らせハガキを見てくださって『がんばってるのね』と喜んでくださって『19歳で弟子入りした好子ちゃんに。またこれで何かを作るように』と貴重な麻地を箱にいっぱい二箱も送ってくださったの。
これは使わなければ!もともと生地を見るのは大好きなんですけど、デザインが浮かんでくるんです。これならテーブルクロスができるわとか、端切れはこういうふうに使ってとか、先生のことを思い出しながら毎晩眺めました。発想が次々わいて、やらずにはいられないというような気持ちになったんです!そして洗うものは洗ってクルクル巻いて準備が整ってますよ、もう」

私は、山下好子さんとのやり取りの中で、人が自分の人生を全うするためには「これで生きている!」と実感できるものが必要なのだということを再認識したような気がします。
山下好子さんは、わさび農家の家業をちゃんとお手伝いしながら、お食事当番もこなしつつ、「よしこばぁば」とお孫さんたちに慕われながら、刺繍も教えながら、別棟でセンス良く生活していらっしゃいます。これでほんとに上等なのですよ。
それでも、やや消極的な発言が聞かれたりすることもありました。それは、やはり「この年齢ですからね」の気持ちがベースに流れていたと思います。
ようやくできあがったお礼のハガキ。郵送される前ですが、一足先にお披露目させていただきました。

この5月の作品展の後、周りの方々が「お若くなった!」となぜ口をそろえていったのか…
年齢が若くなるはずもありません。それは山下好子さんの人生に対する姿勢にちょっとした変化があったからだと思います。
生きる目標が改めて感じられたのだと思います。
山下好子さんには刺繍の世界がさらに広く深く広がっていきましたが、私たちは皆、自分で「このために生きている」ものを、見つけなおしながら生きていかなくていけません。状況が変わっていきますから、その状況に応じながら、なお目標設定ができる生き方こそ「かくしゃく」への道なのだと改めて教えられました。このような働きは、脳の中でも最も重要で、人間にしかない前頭葉が担います。イキイキとした前頭葉こそかくしゃくへの必要条件です。
電話の最後の言葉もご紹介しておきたいと思います。
「少しでも、家族のため社会のために役に立つ。時間を上手に利用して刺繍や編み物を楽しむ。
出会った人さまと楽しくね」なんていいことばでしょう。

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