テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

めし

2011-05-12 | ドラマ
(1951/成瀬巳喜男 監督/上原謙、原節子、島崎雪子、杉葉子、風見章子、杉村春子、二本柳寛、小林桂樹、大泉滉、進藤英太郎、山村聡、浦辺粂子/97分)


 録画していた「めし」を観る。
 成瀬監督は50年頃に松竹から東宝へ移籍したらしいから、「めし」は東宝へ移ってスタッフ達にも慣れた頃でしょうか。
 原作は「浮雲 (1955)」と同じ林芙美子。なんと監修が川端康成とのこと。映画製作と同年の6月に芙美子が急逝した為に未完となった新聞の連載小説で、芙美子とは家族ぐるみの付き合いでもあり、葬儀委員長までした川端に結末も含めて意見を仰いだのでしょう。
 脚色は井手俊郎と田中澄江の共作となっています。

*

 親の反対を押し切って結婚し、東京から大阪に移って来た5年目の夫婦。夫(岡本初之輔=上原謙)は証券会社に勤めているが、それ程給料は良くなく、長屋の借り住まいで贅沢はしていない。子供もおらず、専業主婦の妻(三千代=原節子)は猫を1匹可愛がっている。
 冒頭からこの妻の独白が流れ、毎日の家事の繰り返しや、変わり映えのしない夫の態度に鬱々としたものを抱えている心情が吐露される。要するに倦怠期なのだ。
 そんな夫婦の所に夫の姪が東京から家出をしてくる。20歳になった義兄の娘は親の縁談を嫌がって出てきたというが、奔放な姪を気持ちよく受け入れる夫の態度にも、居候らしさを見せない姪にも嫌気がさした嫁は、姪を東京まで送りがてら実家に帰り、今度は彼女が実家の居候となるのだが・・・というような話。

 女性映画と呼ぶべき作品で、原作者が急逝したことで話題にもなったのでしょう、原作のエピソードをかなり盛り込んだとみられ、97分にしては長めに感じます。淡々としたタッチなのも長めに感じる一因でしょうが、その分リアルな心情が表出するシーンも結構あります。長屋の住人の一人である若い大泉滉の描き方にはユーモアもあり、冒頭の長屋紹介のシーンを中段でもう一度繰り返してみせるという洒落た所もあるのですが、繰り返しの所でソロソロ終わりかなぁと思ったらそうでもなかったという、映画の構成としても少し疑問の箇所も有ります。テレビの連続ドラマの数話を続けて見せられているみたいですね。
 上原謙扮する夫の描き方が共感を得るようにはなってないのも女性映画らしい所。
 島崎雪子扮する姪の描き方が現代にも通じるリアルさで、考えてみればこういう女性って昔からいたんですよねぇ。林芙美子にとっては嫌いなタイプの女性だったのでしょう、終始登場してきて、親にも二枚舌を使うし、終いには叔母の実家にも転がり込んできて、実家を取り仕切る叔母の妹の亭主に叱責される始末。昨今の若い女の子って皆こんな感じに見えるのは僕だけでしょうか?

 その他の出演者についてもメモっておきましょうか。

 杉村春子は原節子扮する三千代の母親役。父親は亡くなっており、三千代の妹夫婦と同居している。
 杉葉子がその三千代の妹光子で、その亭主が小林桂樹。
 風見章子は三千代の女学校時代の同級生。大阪の料亭に嫁いだ彼女の家でささやかな同窓会が開かれるが、三千代は着ていく服に困ったりする。
 二本柳寛は三千代の従兄弟で、密かに三千代を好いている。
 進藤英太郎は三千代の大阪の親戚で、会社社長。後に岡本に自分の会社に来ないかと誘う。
 浦辺粂子は長屋の住人で、大泉滉の母親。大學を出ていない息子の就職を心配する。

 戦後が背景で、戦地から帰らぬ夫を待ちながら小さな子供と暮らす若い女性が出てきたり、一方では親のスネをかじりながら尚かつ男を手玉に取ろうとする娘がいたりと、多彩な登場人物なのも時代を映して面白い。長屋の住人には二号さんもおりました。

 お薦め度は★★★だったのが途中から★★に変わり、最後の後味の良さで★一つおまけとしましょうか。
 原作にはラストがないので、井手俊郎と田中澄江で意見が分かれたようですが、最終的には田中の案が採用されたようです。女性の案なら「浮雲」のようになりそうですが、そうでも無かったのですね。

 そうそう。途中で二度ほどセットではない街中を撮影したシーンがありました。一度は雑踏の人々が俳優を遠巻きに見ている様子も出てきて珍しかったです。

・お薦め度【★★★=後味の良さで★一つおまけ、一見の価値あり】 テアトル十瑠

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