テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

噂の二人

2006-08-23 | ドラマ
(1961/ウィリアム・ワイラー製作・監督/オードリー・ヘプバーン、シャーリー・マクレーン、ジェームズ・ガーナー、ミリアム・ホプキンス、フェイ・ベインター、ヴェロニカ・カートライト/108分)


 ワイラー自身が1936年に作った「この三人」(未見)のリメイク。原作戯曲はリリアン・ヘルマンの「子供の時間」【原題:THE CHILDREN'S HOUR】。

 17歳からの仲良しの女性二人が苦労して寄宿制の女学校を作るが、一人の女生徒の悪意ある噂話により悲劇的な運命に翻弄されるという話。
 NHK-BSでの放送。数十年ぶりの鑑賞でありました。

 女生徒の噂とは女教師二人が同性愛であるということだが、36年の作品では倫理規定により同性愛を描くことが出来なく、女教師二人が片方の女教師のフィアンセを共有しているという不埒な関係であるという噂にしたらしい。原作に惚れ込んでいたワイラーが25年ぶりに原作に忠実に作り直したという事だ。

 女教師二人に扮するのが、「ローマの休日」から8年ぶりにワイラー作品に出演のオードリー・ヘプバーンと、シャーリー・マクレーン。マクレーンは前年の「アパートの鍵貸します」で2度目のオスカー候補になったばかりで、この人はコメディもいけるしシリアスな演技も出来るという、最近ではお目にかかれないような素晴らしい女優さんです。

 ミュージカルの舞台に立ったこともあるという設定のマクレーンの叔母さん役のミリアム・ホプキンス。この人、実は「この三人」ではマクレーンの役をやっていたらしいです。因みにもう一人の女教師役は「嵐が丘(1939)」等のマール・オベロン
 姪っ子の学校で音楽教師の真似事をしているが、彼女の軽率な言動が女生徒の嘘の発端となり、その祖母が振りまく噂の裏付けとなる。

 「この三人」では悪質な女生徒役のボニータ・グランヴィルが助演女優賞候補にもなったくらいの名演だそうですが、こちらのリメイク版のカレン・バーキンも憎々しげな面構えといい、子供の怖さが充分出ていました。

 助演オスカー候補になったフェイ・ベインターはバーキンの祖母の役。学校の躾を受けるのが嫌いな孫の嘘を真に受け、他の生徒の親達にも噂を流し、結局は廃校同様の状態にまでしてしまう。

 ヘプバーンのフィアンセ役の産婦人科医はジェームズ・ガーナー。数十年ぶりの再見では、彼の存在を忘れていたのに気付きました(笑)。ガーナーはベインターの甥という関係になっている。

 オスカー候補(白黒撮影賞 )になったフランツ・プラナーは、「ローマの休日」「大いなる西部」でもワイラー組に入ったカメラマンらしいです。

▼(ネタバレ注意)
 ベインターの噂で女学校は廃校同様になり、(台詞で紹介するだけだが)マクレーンとヘプバーンは名誉毀損でベインターと裁判で争い、負けてしまう。それは新聞でも紹介され、物見高い連中は車で乗り付けて学校にやって来るし、配達人は来る度に二人の様子を覗こうとする。
 大衆の嫌らしさ、怖さがリアルに、特に配達人の偏執さは今でもゾッとするくらい気味悪い描き方でありました。

 婚約寸前までいっていたヘプバーンとガーナーは裁判も一緒に闘ったのだが、負けた後はガーナーも勤め先の病院を辞めざるを得なくなる。ヘプバーンと結婚して、三人で余所の町に行こうと言うガーナーだが、ヘプバーンには彼が同性愛の噂について疑ったことがあるのを気付かれる。一度離れてお互いに自分の心と向き合いましょうと言われ、結局彼も去っていくことになる。

 女生徒の噂により、実は自分には男性より女性の方に興味があることに気付かされたマクレーンは、その事をヘプバーンに告白する。それまでの展開でその傾向は観客にも分かっているんだが、個々のシーンでのマクレーンの微妙な表情の作り方が上手い。
 孫の嘘に気付いてベインターが謝罪に来るが、カミングアウトしたマクレーンはヘプバーンが散歩に行った隙に首を吊って自殺してしまう。この辺りはヒッチコックばりのサスペンス醸成が冴えていました。

 最後。ホプキンスと二人でマクレーンを埋葬したヘプバーンは、喪服で遠巻きにする町の人々(その中にはガーナーも入る)に一瞥もくれずただ前だけを見て去っていく。
▲(解除)

 主人公二人には身寄りがないようで、マクレーンの叔母以外には誰も出てこない。

 恐るべき子供の悪知恵が展開する部分、同性愛傾向をもつ女性の苦悩、群集心理等々、人間の暗い部分にも容赦なく目を向けたワイラーのこれも恐い作品でした。
 ラストシーンでキリッと前を向いているヘプバーンの横顔には清々しさが見れましたが・・・。

 尚、原作者のリリアン・ヘルマンはフレッド・ジンネマンの「ジュリア(1977)」の原作者でもあり、その中でジェーン・フォンダが演じた女性が彼女であります。

・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!、ワイラーファンなら】 テアトル十瑠

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4 コメント

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これは未見なんだけど・・ (anupam)
2006-08-23 19:40:29
淀長さんがよく語っておられた記憶が・・盛り上がりのシーン(シャーリーの告白シーン)でのセリフをものごっつ熱を入れて語っていたように思います。



同性愛に関しては、この当時に比べれば社会の目もかなり変わってきたというものの、やはり白目90パーセントくらいで見られちゃいますよね。



テレビでオネエキャラが花盛りだけど、自分の近親者だったら受け入れられないって方も多そう。

まして、この映画の背景の時代じゃ~~追い詰められて命を絶つ方も多かったのかもね・・

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日曜洋画劇場 (十瑠)
2006-08-23 22:08:30
これ、初めて観たのが確か淀川さんの番組だったと思います。子供の時だから、マクレーンの気持ちはなんとなくとしか分からなかったと思いますが、ドラマの面白さは分かりました。

淀長さん、どうしても力入っちゃうんですかね。

同性愛と言ったって、完全にプラトニックなんですがねぇ。
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リメイク (オカピー)
2006-09-16 17:14:49
TB致しました。

私の世代では珍しく「この三人」を観ていますが、これが傑作なんです。リメイクである本作は若い頃二度観て、「この三人」を10年前、そして今回リメイクを見直してみました。単独で観る限りこちらの出来栄えもなかなかで、キャスティングも華やかですが、やはり61年製作ということで主題が拡散傾向にあったのが残念でした。

オリジナルは「子供とは決して可愛いだけのものではない」という単純な主題を貫徹し、ゾッとさせてくれたのです。ワイラーの最高傑作の一つでしょう。



幕切れのオードリーは素敵でしたね。

リリアン・ヘルマンはハードボイルド作家のダシェル・ハメットの恋人でしたね。昔風に言うなら内妻。
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外国映画ぼくの500本 (十瑠)
2006-09-16 20:53:18
双葉さんの本でも、「この三人」の方が掲載されていましたね。

前作で満足できなかったからリメイクしたのではなく、原作本来のテーマを追求したかったということなのでしょう。



しかし・・・今のガキはもっと恐いかも!
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