テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

さよならをもう一度

2017-04-25 | ドラマ
(1961/アナトール・リトヴァク監督・製作/イングリッド・バーグマン、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンス、ジェシー・ロイス・ランディス、ダイアン・キャロル/120分)


 フランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」が原作の映画ですね。
 初めて観たのは十代の頃。多分『日曜洋画劇場』でしょう。淀川さんが解説してらっしゃったイメージが今も海馬に残っています。原作本も読みましたが、本まで買ったってことはこの映画が好きだったって事でしょうね。
 改めて数十年ぶりに観ても中年に差し掛かった女性の心情が良く描かれていると、老年男子ながら感心しました。但し、これは男性監督が描いたものだから所詮男性目線のモノなのかもしれません。女性観客にはどう映ったんでしょう。

 因みに、多作だったと言われるフランソワーズ・サガンの小説を僕は三つしか読んだことがない。いずれも十代の頃で、御多聞に漏れず一つは「悲しみよこんにちわ」で、もう一つが「ブラームスはお好き」、三つめの「ある微笑」は本棚に有ったのは覚えているけど内容は全く覚えていません。
 十代に三つも読むなんて、少なくとも当時はサガンが好きだったんでしょう。そしてサガンを読むきっかけとなったのが、この「さよならをもう一度」だったのであります。

*

 舞台はパリ。
 ヒロインは40歳のバツイチ美女、ポーラ。インテリア雑貨の店を持ち、デザイナーとして室内装飾の注文を受けて忙しくしている女性だ。5年前に同じく離婚経験者のロジェと知り合い付き合っているが、お互い結婚には消極的で、束縛しない代わりに隠し事はしないのが不文律となっている。
 シカゴに本社を置く業務用トラック販売会社のフランス支社重役のロジェには出張が多く、週末には揃ってディナーを摂るのが習慣になっているが、最近は食事だけの逢瀬となっているのを寂しく感じるポーラだった。
 そんなある日、ロジェの知り合いに紹介されたアメリカ人女性の豪邸でポーラはその家の一人息子フィリップと出逢う。
 フィリップは25歳。代々弁護士をしている名門の出で、母親のつてでパリの法律事務所に勤めているが仕事はあまり熱心ではなく、その日も朝遅く出かけようとしてポーラと出逢ったのだ。
 フィリップの一目惚れだった。さらりと会話を交わしたが彼には衝撃の出逢いだった。一旦は出かけたふりをして、暫くして家から出て来たポーラを、フィリップはたまたま通りかかったと嘘をついて店まで車で送るのだった・・・。

*

 中年男女の結婚しないカップルの間に若い青年が割り込んだ三角関係の話ですね。
 なんといっても二人の男の間で心揺れ動くポーラを美しく、そして色っぽく演じたバーグマンが魅力的です。
 ロジェの若い女性たちとの情事にも寛容なそぶりを見せてきたが、流石に最近は嘘に気づかないふりをするのにもどこか侘しさまで感じてしまうポーラ。
 フィリップの繊細で上品だけど、でも一途で積極的なアプローチに少しづつ心を許していくのです。

 男達の描写もポーラの為のただの飾り物になっていないのがいいですね。
 週末のある朝、車を運転中のフィリップはロジェが若い女の子と待ち合わせて、旅に出ようとしている所を目撃する。タクシーで乗り付けた女性のスーツケースを自分の車に放り込むロジェ。明らかに週末の情事の小旅行だ。
 その後フィリップが家に帰ると、土曜日だというのにポーラが来ていて母親と打ち合わせ中。それとなくロジェの事を聞いてみると、彼は仕事で出張中だとポーラは言う。
 この辺の展開でも、フィリップがロジェの秘密をばらすことは無くて、それはその後においてもそうで、登場人物に品があるのがいいですネ。

 歳を重ねることで増していく独り身の中年女性の将来への不安。
 まだまだ元気な中年男性は浮気も楽しむ余裕があるが、彼女に近づいてくる若者の積極性に次第にイラついてくる。確かに夫婦じゃないから青年に面と向かって怒るのも大人げ無いかと無視を決め込むも、相手にしている彼女に腹が立つのだ。
 そんな気持ちのすれ違いのスキに、つい青年の情熱が愛おしくて一夜を共にしてしまうポーラ。これがロジェだったらどんなに良かったことか。





 てなわけで、モテ男がお似合いのイヴ・モンタンに、一歩間違えばストーカーといっていい「サイコ」の翌年のパーキンスと、皆さん役にはまって絶妙なアンサンブル。
 数十年前は、バーグマンの吹き替えをした水城蘭子さんの声が好きだったのと、若い青年が年上の女性に夢中になるという設定に、かなり感情移入したような気がします。
 終盤のヒロインの階段の上からの哀しい別れの言葉は数十年経っていても忘れていなかったけれど、フィリップはやっぱりただの甘えん坊で、あの結末は当然の成り行きではありましたね。

 時々、フィリップが若者らしいピュアな言葉を吐くのが印象的。
 曰く、『愛のない孤独な人生は最も過酷でつらい刑だ』、『男と女に必要なのは、愛することだけじゃなく愛されることだ』etc

 1961年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールにノミネート。
 アンソニー・パーキンスが男優賞を受賞したそうです。






<ブラームス 交響曲第3番ヘ長調作品90>



・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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