テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

神の羊

2009-11-29 | ドラマ
(2008/ルシア・セドロン監督・共同脚本/レオノーラ・バルカルセ、メルセデス・モラーン、ホルヘ・マラーレ/91分)


 政治的歴史が絡むし、地味な内容からでしょうか、日本では未公開だそうです。
 先ずはNHK・BSオンラインの解説からご紹介。

<2007年サンダンス・NHK国際映像作家賞を受賞、2008年のロッテルダム国際映画祭でオープニング・ナイト作品としてワールドプレミア上映された作品。2002年、経済恐慌まっただ中のアルゼンチンで獣医師が誘拐された。彼の孫娘は、1970年代にフランスへ亡命した母親に助けを求め、身代金の工面に奔走する。2人の間につらい過去がよみがえり、やがて父親の失そうの謎が明らかになる。>

 獣医師の名がアルトゥーロ(マラーレ)で孫娘の名はギジェルミナ(バルカルセ)、その母親がテレサ(モラーン)。
 “つらい過去”というのは70年代後半の軍事政権の時代で、その過去のエピソードには若いテレサ(Malena Solda)やその夫のパコ(Juan Minujin)、若いアルトゥーロや幼いギジェルミナも出てきます。失踪した父親というのはパコのことですね。

 2002年の誘拐とそれへの母子の対応の話と、20数年前のパコ失踪前後の話が交互に語られるという構成で、<やがて父親の失そうの謎が明らかになる>というくだりで何となく謎解きが面白そうな期待を抱かせるのですが、正直な感想は本も演出も核心を外している感があって、終盤近くまでイライラさせられました。事件の周辺を描くのはいいのですが、本筋から離れた部分の描写が多すぎて緊迫感の醸成がいまいちなのです。特に過去の部分にピントのずれが多かったように思います。
 それと過去と現在のエピソードの因果関係がハッキリしないのもマイナス。これはネタバレになるので、詳しくは下の“ネタバレ”を読んで下さい。
 終盤の身代金の受け渡しは、黒澤の「天国と地獄」を思い出させるようなシーンで面白かったです。

 ルシア・セドロンという監督は名前からして女性でしょうか?
 レオノーラ・バルカルセ、メルセデス・モラーン、若いテレサを演じた女優、皆さん美形であったのがオジサンとしては救いでした。


▼(ネタバレ注意)
 誘拐事件ではギジェルミナ達は警察には届けず、自分たちで身代金の工面に奔走します。アルトゥーロの知り合いで、“将軍”と呼ばれるかつての軍事政権時代の幹部が貸してくれそうになるのですが、テレサにある条件を付けた為にテレサは“将軍”の申し出を断ります。時の政府は軍事政権時代の実情を暴こうとしていて、当時迫害を受けていたテレサも証言台に上がる予定だったのですが、“将軍”は彼女に証言しないことを条件に出してきたのです。

 “パコの失踪”となっていますが、パコは警察と反政府活動家との銃撃戦に巻き込まれて死亡しています。流れ弾に当たって死んだことになっていますが、テレサは信用していません。暗殺だと思っているんです。パコや若いテレサも反政府活動を支援していて、パコ達は当時の政府にとっては厄介者。アルトゥーロは娘を心配して、パコとテレサに亡命を薦めていたのですが、若い彼らは言うことを聞いてくれなかったのでした。

 パコ失踪の直前、投獄されていたテレサの解放を願っていたアルトゥーロは、“将軍”にテレサ解放への働きかけをお願いし、見返りにパコの居場所を教えてしまいます。
 テレサがアルトゥーロと不仲であること、そして“将軍”の申し出を断ったのは、こういう過去が有ったからですね。終盤に観客に明かされるという構成は定石通りで結構ですが、誘拐事件との関わりが弱いので、テレサとアルトゥーロの今後にも、ギジェルミナの今後にも想像の翼が広がらない。つまり余韻が深まらないのが残念でした。
▲(解除)

*

 余談ですが、途中で一度スクリーンの上部に撮影用の集音マイクの一部が写っていました。町中のシーンですから何かが上からぶら下がっていたとも考えられますが、印象では確かにマイクでした。先進国ならCGで消すこともできたでしょうに、そのまま編集してしまうところが、如何にもアルゼンチン映画・・・なんでしょうかネ。

・お薦め度【★★=悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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