テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

蝶の舌

2015-04-17 | ドラマ
(1999/ホセ・ルイス・クエルダ監督/フェルナンド・フェルナン・ゴメス(=グレゴリオ先生)、マヌエル・ロサノ(=モンチョ)、アレクシス・デ・ロス・サントス(=アンドレス)、ウシア・ブランコ(=モンチョの母親ローサ)、ゴンサロ・ウリアルテ(=モンチョの父親ラモン)、タマル・ノバス(=ロケ)/95分)


 先月末にアラン・レネの「戦争は終った (1965)」でスペイン近代史の一端を垣間見たわけですが、そういえば「蝶の舌」(のDVD)を持っていたはずだがあれはスペインの話ではなかったかなと書棚から取り出したら、まさに「戦争は終った」でイヴ・モンタンが戦っていたフランコ独裁政権の誕生直前の時代が背景でした。
 原作小説の作者はマヌエル・リバス。
 DVDの特典映像にはリバスやクエルダ監督が出ていて、映画はリバスの「蝶の舌」、「カルミーニャ」、「霧の中のサックス」という三編の小説をミックスしたものだと監督が話していました。観た人はなんとなくどの部分がソレなのか分かりますよね。
 双葉さんの「愛をめぐる洋画 ぼくの500本」の中の一本で、評価は75点(☆☆☆★★★)の秀作。僕も同じくらいお薦めしたいなぁ。

*

 1930年代後半のスペイン、イベリア半島北西端にあるガリシア地方の小さな村が舞台です。第一次世界大戦後からの王党派と共和派との勢力争いが続いている時代で、この時政権を握っていたのは社会主義的な共和派。それ以前の王党派、つまり地主や資本家、教会関係者などの保守的右派にとっては生きにくい世の中だったのです。
 後の独裁者フランシスコ・フランコはガリシアの出身ですが、この物語の舞台がガリシアなのはそういう意味があるんでしょうね。

 さて、映画はそんな社会のごたごたとは関係ない(はずの)田舎町の幼い少年が主人公です。
 少年の名はモンチョ。彼ともうすぐ定年を迎える小学校の老教師ドン・グレゴリオとの交流がメインのストーリーです。

 モンチョの家は洋服の仕立屋をしている父親ラモンと信心深い母親のローサ、そして薬局で働いている年の離れた兄のアンドレスの四人家族。ローサはあまり教会に行きたがらないラモンを心配しており、アンドレスは仕事を終えた後はピアノ教師の所でサックスを習っています。
 持病の喘息のせいで学校に通うのが一年遅れとなったモンチョの翌日が初登校日という夜のシーンがスタートで、モンチョは同じ部屋にベッドを並べて眠るアンドレスに『先生に叩かれたことある?』なんて聞いています。人見知りのモンチョにとって学校の先生は怖い存在なんですね。

 学校に行けば先生に叩かれるんじゃないかとモンチョは心配でしたが、グレゴリオ先生は優しい人でした。
 初登校日こそ自己紹介をする段で緊張のあまりお漏らしをしてしまったけど、次の日は先生が迎えに来てくれて二人で教室へ。その日モンチョはロケという男の子の隣の席に座り、ロケには『俺は最初の日にうんこをしちまったんだよ』と慰められ、親友になったのでした。

 学校から帰った後に先生に教えてもらったことをアレコレ母親に話すモンチョ。
 『いい先生でよかったねぇ』と言いながら、『噂じゃアテオ(不信心者)とか言われてるけど、神様の話は何かしてくれたかい?』と聞くローサ。
 『カインとアベルの話をしたよ』無邪気にそう答えるモンチョでした。
 
  春が来て、野外での生物の授業が始まると、先生はこんな話をしました。
 『自然は私の親しい友であり、人間が見る事のできる最大の驚異なんだ。アリがミルクや砂糖を得るために家畜を飼っているのを知ってるかい? 水蜘蛛が何百万年も前に潜水艦を発明したのを知ってるかい? 蝶に舌があるのを知ってるか?・・・』
 そう言って、黒板にゼンマイのような蝶の舌を描いてみせたのです。
 珍しい求愛の方法をとるティロノリンコというオーストラリアの鳥の話もモンチョには初耳でした。

 野外授業の途中で喘息の発作が出たモンチョを先生はとっさの判断で河の水につけて救ってくれました。
 洋服を濡らしてしまった先生にラモンはスーツを誂えてプレゼントしますが、出来上がった服を届けに行ったモンチョは、先生の奥さんが若くして亡くなっていた事を知り、先生は「宝島」の本と虫取り網をくれました。その後先生とロケとの三人で森に行き、虫取り網で蝶を捕まえたのでした。

 『蝶の舌がみたい』
 『普段は舌は見えないんだ。飛んでいる時も見えない。見るには顕微鏡がいるんだ』
 『顕微鏡って?』
 『小さな物を見る道具だよ。今注文しているから、届いたら一緒に観ようね』

 しかしこの後、蝶の舌を見せてくれるという先生の約束は果たされないままになってしまいます。王党派の軍がクーデターを起こし、内戦状態に入ったからです。
 アンドレスと共に家に帰ったモンチョにローサはこう言います。
 『先生に洋服をプレゼントしたことは誰にも言うんじゃないよ』・・・。





 内戦状態突入という暗い歴史の側面を子供の視点で捉えた良心作で、前半の田舎町の様子はまるでゴッホやセザンヌの絵のように美しい。
 子供らしいエピソードの合間にぽつぽつと不穏な情報が挿入され、終盤で一気に緊迫感が増す。そしてなんとも辛くて哀しいラストシーン・・・。
 お後はネタバレ備忘録と致しましょうか。

 お勧め度は2度目の鑑賞で★ひとつ増えました。
 こういう作品は2回くらい観ないといけませんな。


ネタバレ備忘録はこちら

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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