テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

そして父になる

2015-01-04 | ドラマ
(2013/是枝裕和 監督・脚本・編集/福山雅治、尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子、二宮慶多、黄升げん、田中哲司、樹木希林、國村隼、中村ゆり、高橋和也、風吹ジュン、夏八木勲/120分)


 2013年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール候補となり、審査員賞を受賞したとして話題になった映画であります。僕自身も当時から観たかったけれど、一度の鑑賞では済まないだろうとレンタルを待っていたら、あっという間に準新作に。連休に、我が奥さんの要望も再燃したことだし、ようやく借りることになりました。

 大手建設会社で最新プロジェクトのリーダーを続けているエリートサラリーマンが主人公。その一人息子が有名小学校のお受験を済ませた頃に、その子が生まれた群馬の病院から『お話したいことがある』と電話が入る。
 妻と病院を訪ねた主人公は耳を疑うような報告を聞かされる。
 『子供を取り違えたって・・・?』
 公開当時、自分の家族に置き換えて自分が主人公と同じ立場になったらどうなるだろうと考えましたが、その時は結論が出ずじまいで、なんとも難しい問題を題材に持ってきたなぁと思ったもんです。

 主人公のエリートサラリーマン野々宮良多には福山雅治。その妻みどりに尾野真千子。
 取り違えられたもう一方の夫婦はリリー・フランキーと真木よう子。こちらは病院のある群馬県のとある町で小さな電器店を営んでいる。
 去年、仲間由紀恵との結婚が話題になった田中哲司は野々宮の大学時代からの友人で弁護士。病院側との交渉の代理人になる。
 樹木希林はみどりの母親で、群馬県で独り暮らしをしている。
 夏八木勲は良多の父親。風吹ジュンはその後妻で、良多が物心がつく年齢に達した後にやってきたらしい。良多には父親とも継母ともわだかまりがあるが、息子の事件はその関係にも微妙な影響を与えていく。
 高橋和也は良多の兄で、國村隼は良多の上司。中村ゆりは赤ん坊を取り違えた当時の看護婦だった。
 是枝監督は子供の演出が非常にうまいらしいが、二宮慶多(=野々宮慶多)、黄升げん(=斎木琉晴)という子役も、終始自然な演技をみせていた。

*

2日に二度目を観た「そして父になる」を返却して記憶は薄くなるばかりなのに、感想記事を書く気分が盛り上がらないので、例によって徒然に呟くことに。なんだか去年からか、こういうパターンが増えてきたな。
[(Twitter on 十瑠 から[一部修正アリ])1月04日 以下同じ]

題材は赤ちゃんの取り違えなんだけど、ドラマの軸はタイトルの通り、片方の親である福山演じるエリートサラリーマンの父親としての再生というか真の誕生、でありますな。プロットの構成としては僕の好きなパターンであります。

それをドキュメンタリーが得意だという是枝監督らしい静かなリズムで描いている。緩急は無く、ほぼ全編ゆったりとしたリズムなので、上映時間の2時間がそれ以上に感じるのが難点。無駄なエピソードは無いんだが、やっぱり編集ででもも少し緩急はつけた方がいいだろうな。

大手建設会社に勤める主人公が終盤に研究部門に配置転換になるが、そこでの蝉の誕生に関するエピソードは削ってもいいかも。主人公の思考に影響を与えただろうことは分かるが、このシーンが無くても主人公の変化は納得できるからね。





 お勧め度は★三つと少々。少々なのでおまけして★四つにはできませんな。
 2013年の日本アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞など多数ノミネート。助演男優賞(フランキー)と助演女優賞(真木)を受賞したそうです。


▼(ネタバレ注意)
 終盤子供を交換するも良多と実の息子(=琉晴)が上手く馴染めずに子供が元の育った家に黙って帰ったりして、しかし親が子供の目線に降りることで一端は修復したかに見えるが、ふとした琉晴(りゅうせい)のつぶやきに良多は慶多を思いながら慶多の写ったデジカメの画像を見る。すると、そこには良多の知らぬ間に慶多が撮った良多、みどりの姿があった。
 ここ、涙する良多と同じ気持ちに僕もなりました。上手い演出だったなぁ。

 ネタバレになるので伏せていましたが、中村ゆり扮する看護婦の証言で、この取り違えが事故ではなく、彼女の故意であったことが中盤で分かります。後妻に入った自分は夫の連れ子と馴染めずに悩んでいた頃で、とても幸福そうな野々宮夫婦が憎らしく、この犯罪を犯したと女は告白する。
 6年前の事件なので、既に時効。
 後日、僅かな慰謝料を弁護士経由で渡してきた元看護婦に、良多は家を訪ねて返しに行くが、その時6年前には懐かなかった義理の息子が母を庇うように良多の前に立つ。

 この映画、義理の親子が沢山出てくるが、このエピソードもそんな一つ。さて、これが主人公にどんな影響を与えたのでしょうか・・・。

 結末の捉え方は人それぞれでしょう。
 うちの奥さんは元の家族に戻すんじゃないかと言ってました。良多が慶多に『ミッションは終わりだ』と言ったからでしょう。とりあえずはそうかもしれませんが、その後、この二家族が文字通り家族ぐるみの付き合いをする中で子供の幸せを築いていく、そんな風になるんだろうと僕は思いました。
 それはそれで、難しい歩みだとは思いますが。
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・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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2 コメント

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Unknown (宵乃)
2019-04-21 10:05:50
ホント、カメラのシーンは上手かったですよね。福山さんもこの役柄も苦手だったんですが、ここでそのギャップが生きて一気に感動が込み上げてきました。

>6年前には懐かなかった義理の息子が母を庇うように良多の前に立つ。

印象に残ってるシーンの一つです。これがあるからセミのエピソードは十瑠さんの仰るなくてもよかったかも。

>それはそれで、難しい歩みだとは思いますが。

きっと努力して子どもたちにとって明るい未来をつかみ取れると信じたいですね~。
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宵乃さん、こんにちは (十瑠)
2019-04-21 12:54:24
4年以上前の鑑賞で記憶も飛んでいますが、カメラのシーンにはもらい泣きしてしまいました。

>印象に残ってるシーンの一つです。

セミとの絡み具合はおぼろげですが、それぞれが主人公への影響を感じさせるエピソードだったんでしょうか。

>子どもたちにとって明るい未来

信じる者は救われる
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