岩手日報より転載
洋野町の手作り土産品を販売する水上浩美さん
できることでお役に 2015年8月10日

洋野町種市の水上浩美さん(45)は手作り雑貨やバッグなどを町のお土産として販売している。趣味で約20年、手作り品を製作していたが、東日本大震災後に「何か少しでも町の役に立てればいい」と販売にも挑戦。カラフルでかわいらしい小物を売り出している。
きれいな布やミシンなど仕事道具が並ぶ自宅の一室。時間を見つけては、自作の机の上で作品作りに励む。
かばんを作るときは型崩れを防ぐために一度洗ってから生地を縫い合わせ、ポケットの位置など使いやすさにもこだわる。一度作り始めると、時間を忘れて熱中する。
もともと手仕事は得意ではなかったものの、長女の誕生を機に「オリジナルの物を持たせたい」と本を参考に独学で小物や洋服を作り始めた。
長く趣味として楽しんでいたが、震災を機に考え方が変わった。地元をはじめ、テレビで見た被災地の惨状に大きなショックを受けた。震災前は何もなくても足を運ぶほど海が好きだったが、震災後は行く気になれない時期もあった。
野田村にボランティアに行った弟から人手が足りない話を聞いたが、当時は1歳の長男の育児で手いっぱい。支援に行きたくても何もできない自分にもどかしさを感じていた。
しばらくして気持ちが前向きになってくると、「小さなことでも自分にできることをやろう」と考えるようになった。食品中心の町内のお土産に目を付け、「かわいい物があってもいい」とアイデアを練った。
2014年に思い切って町内2カ所で販売を始めると、新たな出会いもあった。
販売先のひろの水産会館で作品を見た復興応援隊の宮本慶子さん(36)から声を掛けられ同じような志を持つ洋野町種市のセラピスト堀米裕子さん(32)を紹介された。
それから14年11月、町内の女性作家ら7人と一緒に「ひろのcolor」の名称でグループを立ち上げ、女性や親子向けのイベントを企画。勇気を出して販売を始めたことをきっかけにたくさんのつながりができた。
町に貢献しようと善意で活動する仲間と一緒に行動し、「町を思う仲間のおかげで、町でイベントを開催する夢もかなえられた。一人では実現できなかった」と感謝している。
現在は9月のイベントに向けて準備を進めている。「町に何もないと嘆いてはいけない。小さなことから始めれば、きっと何かにつながるはず」。地元への愛着を力に一歩ずつ前に進む。
(洋野支局・下屋敷智秀)
【写真=作品作りを楽しむ水上浩美さん。「自分にできることをやろう」と同じ思いを持つ仲間と一緒に町のために活動している】
将来の子どもたちへ
洋野町を将来、離れることがあったとしても古里を心に留め、いつかは帰ってきてほしい。若い頃は分からないかもしれないが、美しい景色など当たり前にあるものが実はとても大切なもの。大人になったら地元の大切なことにたくさん気付ける人になってほしい。子どもたちが大人になった時も美しく、豊かな町のままであってほしい。