つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

レイトショウ

2017-05-10 23:02:33 | 文もどき
都会。ミニシアター。レイトショウ。愛らしい顔立ちの気怠げなモギリ嬢がふたり。間延びした声の映写技師が扉を押さえて開場を告げる。
観客は三人。客席中央に沈むもの、気にいりの右の斜に収まるもの。私は最後部のやはり中央に腰を下ろし、上映前に食いそびれた晩飯の代わりに近くで買ったパンを齧った。
通り過ぎてきた道がスクリーンに映し出される。男たち、女たち。
ありきたりの展開。長回しのない台詞。倦んだ空気。お定まりの暴力装置。どこかで見た顔。耳慣れた音楽。救われないカタルシス。至極常識的なエンディング。
吸い込む肉体が少ないせいで劇場内に跳ね回る音響。沸点の低い笑い声。
それこそ、私たちのほうがよっぽど演劇的だった。エンドロールを見送り、暗転から点灯、夜の街へ放り出される観客たち。
カーステレオの重低音、低い車高から這い出る極彩色の光、妖しげな看板にキャッチセールスすら途絶えた舗道。甲高い外国語とけたたましい笑い声が響き、ゴミ袋の隙間からドブネズミが壁の隙間へ消えてゆく。少しずつ衰えていく魔力の残滓を踏みながら、明るいほうへ明るいほうへと向かうのだ。濃密な暴力の匂いは薄らぎ、それでも決してこの街を手放そうとしない。あの路地の奥に、彼らがいるのを感じる。あるいは、別の誰かが。
仄かに底の方に揺らめく友情めいたやりとりやすれ違いや孤独のもやをゆっくりと反芻しながら、コンビニへ立ち寄った。
ドローン空撮のアイリスアウト、暗転。

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