「お客様が喜ぶ接客」
という張り紙がある。
1 笑顔
2 言葉づかいが丁寧である
3 身だしなみ(綺麗なユニホーム)
4 テキパキと行動する
5 ハキハキとした受注
6 お客様の名前を覚え名前で呼ぶ
7 接客はアイコンタクト
8 元気な声
9 均一フリーサービス(接客)
10 時節の挨拶
11 会話
12 子供に挨拶する
の12項目が書かれている。
サービス業や接客業などを中心に、こーゆう「心がけ」の箇条書きはよく目にするだろう。
ただ、ここで私が「おっ?」と思ったのは、最後の項目。
「子供に挨拶する」だ。
なかなか書かれている項目ではないな、と個人的に思った。
ガソリンを入れに来るのは、ドライバーである親御さんではあるけれど、車単位で見れば、乗っている人皆がお客さんなのである。
だから、当然といえば当然か。
働き始めてまだ日は浅いが、特徴ある車や、会話を交わしたお客さんなどは、なんとなくではあるけれど、それなりに覚えている。
「あ、また来て下さった」とわかる方や、先輩スタッフに「このお客さん、時々来るよ」というお客様には、「いつもありがとうございます」とご挨拶し、時々会話をする。
子供連れのお客さんもよくいて、中にはお手洗いに行くために降りてくる子もいるけれど、お父さんお母さんにくっついていって、給油口や給油ガンの近くに行ったり、車が少ないことをいいことに走り回ろうとする子もいるから、そこはやんわりと注意する(中には、給油ガンの操作を幼い子供にさせている親もいるのだ!これは恐くて見ていられないが、なかなか声をかけづらい)。
「車来るしあぶないから、中に入って待っていよっか?お母さん、車にガソリン入れたら戻るから、ね?」
「機械やホースとか触ったら油がこぼれて付いちゃったりして危ないから、車の後ろの方で離れて見ててね?」
といった風に。
そんな中、子供さんに挨拶(降りてきている子には視線を合わせて)し、「いくつ?」などと訊いてみると、ある子は恥ずかしそうに、またある子は元気いっぱいに応えてくれる。
この間も、元気いっぱいの男の子が、
「いくつになったんだっけ」とお母さんに言われて
「4さい~!」と答えてくれた。
だけどすぐに
「もうすぐ5さいになるの!」
と付け加え。そこへすかさずお母さんが
「ちがうでしょ、昨日4さいになったばっかりでしょ?」
とつっこみ。
小さい頃って、誕生日が来ると、来年の誕生日はどんなだろうって思ったものだなあと思い出しつつも、
「そうかー、4さいの誕生日だったんだ、おめでとう~。プレゼントにお菓子、とか思ったんだけど、持ってなくってごめんな?」
というと
「あのね、仮面ライダーW(ダブル)のおもちゃ・・ベルト、もらったもん」
と得意げに話す男の子。
「そう、よかったね~。『サイクロン!』『ジョーカー!』ってやつだよね~」
などと話しかける。
お父さんが給油をすませ、お母さんが男の子を抱きかかえ車に乗せた。
「おにいちゃんに、『バイバイ』って」
お母さんが言うと、チャイルドシートに座った男の子は、「バイバイ」と言って笑顔で手を振っていた。
また別の日。
「カスタム」グレードの軽自動車に、3人の子供を乗せ、若いお母さんが給油にやってきた。前回の給油時、新しく発行した現金会員カードをお渡しし、使い方を教えたお母さんだった。よく覚えている。
すると、車が給油位置で止まるなり、中の子供たちも目をキランキランさせてこっちを見ている。
お母さんが、
「この間下さったこのカード、持って来ました」と私に挨拶してくれたのを皮切りに、みんな笑顔で私の方を見てくれた。
私のことを覚えていてくれたのか、助手席に座っていた長男と思しき男の子が
「あっ、昨日の人~」
と言う。
お母さんは、ガンを握りながら
「違うでしょ、『このあいだの』でしょう?昨日来てないよ?」
と笑って言う。
仕事上がりの車も多数来店して店内が騒々しくなってきた。
発進時、左右確認し、GOサインをだして送り出しをすると、子供たちは窓に手のひらをくっつけ、
「またねー、バイバーイ」と手を振っていた。
子供は本当に正直、とはよくいうが、
これほどストレートに子供の笑顔に励まされた経験は今までなかったかもしれない。
ボランティアの中などで、幼い子供たちと過ごすことはあっても、単に親の運転する車のガソリン給油において、子供と触れ合い、会話を交わす機会というのは、心がけていなければなかなかできないと思う。
実際私は子供が好きで、努めて実施しなければ挨拶できない、てことはないけれど、あくまでも自分の自然な姿で、お父さんお母さんの車に乗ってきた子供たちに挨拶し、
その中で、挨拶を返してもらったり、笑顔をもらえたり、顔を覚えてもらえる子までいるというのは、ある意味誇りに思いたい。
「普段会わない大人」に対しても、ちゃんとお話しする・コミュニケーションをとっている、とってくれる子供がいる―
子供を持たない私にとって、これほど幸せなことはない。
そんな子供たちが行ってしまった後は、強面のアンチャンがいても、給油中にエンジンを停止しない地球にも安全にも優しくない人たちがいても、まだ勤務時間が半分以上残っていたとしても、気持ちがスーッとなって、体が軽くなる。
そういえば、自分が子供のときも、よく行くお店のおばちゃんなんかは、お母さんと一緒でも自分にも挨拶してくれたっけ。
スタンド内に流れるFMラジオで、AC公共広告機構のCMに「人は人から育てられる」というのがあった。
近所の子供たちにしょっちゅう会うわけではないし、ましてや悪さしてる子供たちを叱ったりしたことはないけれど、
本来のお客さんである「子供を持つ親」、その子供に挨拶するというのは、
「お互いの幸せのために」とってもいい事なのだ、
だから「喜ばれること」なのだ、と胸深くわかる。
スーパーの店員さん、おもちゃ屋さん、ファーストフードの店員さんなど、子供が消費するものを一緒に買いに来る販売・接客でなくても
「子供に挨拶」、してみよう。
普段生まれない何かが生まれ、何かが変わる。
私は、半ば確信に近い思いでそう言える。