リタイアした「から」、あれがやりたい。これもやりたい。

人生のセカンドステージに、もう一度夢を描き直す。
「夢翔庵」の気ままなひとり言です。

百鬼園先生

2007年02月14日 | 楽しむ
内田百間という作家をご存知ですか?(百間の「間」は門がまえに月。文字化けするかもしれないので。以下、ご本人が使った百鬼園先生と呼ばせてもらいます。)

明治22年、岡山の造り酒屋の生まれ。漱石門下です。
小説のことは置いておいて、先生の随筆が秀逸なのです。とくに汽車好きとしては、『阿房列車』が愛読書です。
希代の雨男「ヒマラヤ山系」こと国鉄職員の平山三郎氏との汽車旅行記で『第一』から『第三阿房列車』まで全18行程運転されました。

百鬼園先生は写真の苦虫を噛み潰したような表情でもわかるように、たいへんに気難しい風情ですが、その作品は独特のユーモアに溢れています。

冒頭を少し引用してみましょうか。
――「阿房(あほう)と云ふのは、人の思はくに調子を合はせてさう云ふだけの話で、自分で勿論阿房だなどと考へてはゐない。用事がなければどこへも行つてはいけないと云ふわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗つて大阪へ行つて来ようと思ふ。」(講談社版全集から。原文のまま。)

行きは用事がないから楽しいが、帰りは帰るという用事があるからつまらないとか、新線ができて不要になった隧道(トンネル)をどこかへ移して利用できないかとか、お酒が大好きなのに昼間から汽車の中で飲むのはお行儀が悪いとか、旅費を捻出するために「錬金術」を施したりとか、ユーモアと皮肉が混じった記述に思わずニヤニヤしてしまいます。

いま手に入る本は限られるかもしれませんが、旅行や列車の好きな方には強くおすすめします。