2111年。その星は希望に溢れていた。
みんなパステルカラーの飛行服を着て空を飛び、
重力ブーツで壁も天井も歩けた。
大人には充実があり
子供には夢があった。
そしてみんなが笑っていた。
ある星からその星に来た、
バルタン12世はその星のエネルギーが無限大である事に驚いた。
バルタン12世の生まれ故郷では、
エネルギー不足が深刻で、
エネルギーの不足を計画停電で賄っていたからだ。
「この星のエネルギー源は一体なんですか。」
バルタン12世は、
ある日思い切って
空を行き交う人に聞いてみた。
とても親切な星民性らしく、
みんな空を飛ぶのを辞めてバルタン12世の周りに集まって来た。
「私の星ではつい先日、臨界事故がありましてね。
原子力発電は法律で禁止されました。
それでそれに変わる風力発電とか水力発電を勉強しにこの星に来たんです。」
するとその星の人がこう言った。
「風力や水力もいいけど、風は風のまま水は水のままが一番いいんだよ。」
それはそうかも知れないが、じゃあどうすればいいんだ。
バルタン12世はそう言いたくなったが我慢した。
その星の人の一人から、その星の発電所のある場所の地図をもらった。
その人は親切に「一緒に飛びましょう。案内しますから」
と言ってくれたが、バルタン12世は断った。
「風は風のまま、水は水のままがいいのなら
人は人のままがいい。歩いて行ける足があるんだから
歩いてゆこう。」
バルタン12世のささやかな意地だった。
歩いてゆくのはそれは大変だ。
でもなんとかヒロシマという街に辿り着いた。
そこに発電所はあった。
原爆ドームという宇宙遺産の建物の横に置かれた
千羽鶴という小さな折り紙がそれだった。
「それは哀しみ発電所ですよ。この街の幾つもの残留哀しみや
今生きている人の哀しみを集めてエネルギーにしてるんです。」
そう言って説明してくれた人が居た。
166年も前にヒバクした人の子孫だと言う。
バルタン12世は改めて地図を観た。
ヒロシマ・ナガサキ・ビキニカンショウ・チェルノブイリ…
これだけの哀しみがこの星にあったのか
ひとつの土地だけ赤字で大きく書かれている。
どうやらそれが最後の哀しみ地であり
そして哀しみ発電所を創った最初の人の故郷だそうだ。
フクシマ…と書いてあった。
待てよ…。バルタン12世は考えた。
「ここが最後の哀しみ地なら…どうして哀しみ発電所のエネルギーは無限なんだ…。」
幾ら考えても、バルタン12世には
その理由が判らなかった…。