老祖に初めてお会いしたのは
父のお葬式だったと思う。
6月のその日はとても暑かった。
式がはじまる時刻になっても
肝心のお坊さんが来ないので
皆がヤキモしていた。
ずいぶん経ってから
お坊さんは自転車で到着した。
お寺から
家までの約15キロを
汗だくになって
自転車を漕いできた。
あの時
お幾つだったのだろう。
私はちょうど20歳で
老祖は90歳くらいに見えた。
老祖という呼び方が正しいのかどうかはわからない。
私の家族では
「老祖」と言っていた。
父が亡くなってから
何度か
老祖の般若心経を聞いたと思うけれど
残念なことに
その声は覚えていない。
私が憶えているのは
般若心経は長いこと。
そして
足が痺れて痺れてとても痛かったこと。
でも
「ぎゃーていぎゃーたい」が
はじまると
あともう少し、と思ったこと。
老祖は
とても質素で
欲がなく
口数が少なく
心が澄んだお坊さんだった。
そして
老祖の手は
大きく
皺が深く
働く手をしていた。
父の式で
老祖にお経を読んだいただき
とても
よかったと思う。
タイトルの写真は
手帳に描いた老祖の横顔です。
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