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「自民政治の源流を考察する、一級の資料」
著者/立花 隆 出版社名/文藝春秋 1,575円
◆目次
Ⅰ
田中真紀子問題に発言しなかった理由
ワイドショー化する政治の問題
TVはどこまで真実を伝えているのか
ワンバイト化する日本の政治
角栄と真紀子の共通点
「批判を否定するだけで証拠は出さない」
Ⅱ
角栄の二つの遺伝子問題
自民党がいまだに引きずる角栄型政治
真紀子が引き継いだ角栄の“生物学的遺伝子”
真紀子の何が問題なのか?
角栄・真紀子親子の異常な人気ぶり
「越山会の女王」佐藤昭秘書
“汚れ役”に徹し実力者に
金権腐敗は角栄以前にも存在した
真紀子は典型的なファザコン
破滅的なアルコールへの傾斜
竹下、門前払い事件
脳梗塞で倒れた角栄を完全管理下に
角栄の名をかたった真紀子
権力闘争で竹下に完敗
角栄の病状が相当重かった証拠
真紀子に欠けている「人間の情」
角栄は悲劇の政治家なのか
真紀子の十メートル以内に近づくと火傷する
「人間には、敵か、家族か、使用人の三種類しかいない」
Ⅲ
巧みに官僚を支配するメリット
角栄こそが官僚に近い政治家だった
「役人操縦術の家元」
真紀子がやった、官僚が最もいやがる行為
政治における借りと貸しの清算
創価学会言論弾圧事件
「欲望のブローカー」としての角栄の才能
真紀子に欠けている、利害の調整能力
真紀子は現場指揮官レベルの人間
Ⅳ
対立者間に妥協点を見つけ出す能力
日米繊維交渉をまとめた角栄の奇策
損失補填の大盤振舞
角栄が生み出した「札束でほっぺた」方式
ウルグアイ・ラウンドの対策費、6兆円!
Ⅴ
角栄直系最大族議員は「道路族」
「自分の利権に直結する」法律だけを作り出す
土建屋による、土建屋のための政治
利をむさぼる政官業の三極癒着
「列島改造ブーム」と「銀行不良債権問題」
国土計画が日本を土建国家に変えた
「口利き政治」「利権政治」こそが角栄の遺伝子
Ⅵ
闘う集団「田中派秘書軍団」の凄さ
秘書による不祥事頻発時代の始まり
大平政権のはじめと終わりで、田中派秘書軍団大活躍
真紀子と佐藤昭が奪い合った「角栄の心」
角栄の意志を萎えさせた真紀子の強力な意志
腹違いの兄弟と妹の存在
佐藤昭との手に手をたずさえた二人三脚
角栄が愛した「国会議員」と「女性秘書」の映画
「全部佐藤のところへ行ってくれ」
真紀子と佐藤昭の格の違い
不可欠な政治資金のクリーニング装置
天下を取ったらカネは向こうからやってくる
佐藤昭との関係を切れ!
金庫番としての佐藤昭の重要な役割
帳簿の中だけに存在した政治資金団体
田中事務所の鍵の所有権を巡る争い
早坂茂三秘書への絶縁表明
角栄周辺のすべてが壊れていく
「先代に仕える人たちの心情が理解できない」
オヤジの頭をフライパンでポカリ
Ⅶ
角栄が持っていた四つの金庫
事務所の解散と「お中元」の関係
巨大な土蔵を包み込んだ作りの田中邸
空っぽだった自民党の金庫
越山会の厚い扉のついた旧式金庫
政界の金の話はいずれバレる
親分から金をもらい、子分に金をやる
日本に昔からある「金権政治」
田中角栄は金権政治の完成者
彼は一種のオカネ中毒症
公共事業の口利き料2パーセント
総裁選に使った総額は80億
実はあった5つ目の金庫
Ⅷ
明らかになった驚くべきカネの流れ
不動産取引ユーレイ企業
田中金脈問題の積極論と消滅論
最初はお歳暮作戦
小佐野に新星企業を売る意味
金大中拉致事件の秘密の示談金
この人は金を積まれれば国も売る
金脈秘書の中枢・榎本という男
角栄の金を語りはじめたわけ
田中系ユーレイ企業群
真紀子は忠誠心すら悪意に変える
早坂秘書が語り始めた
Ⅸ
なぜか絶えない角栄擁護論
榎本三恵子の「ハチの一刺し証言」
崩せなかった笠原メモの信用性
ロッキード事件はアメリカの謀略?
ガセネタのもとはどこにあったか
Ⅹ
佐藤昭は連絡役
二階堂擁立は角栄がつぶした
角栄と総評幹部の裏取引
「おやじが荒れている。涙もろくなった」
「真紀子さんは気が高ぶっている」
真紀子にとって許しがたい存在
怪電話の正体は誰か?
ⅩI
真紀子の政治家としての未来
角栄の娘としての強み
真紀子は新しいタイプの政治家だ
足りないのは官僚を使う視野と認識
チームプレーのできない人
彼女が日本政治の真の改革者になるには?
“知の巨人”立花隆氏の著作の中でも、民主党政権に変わった今、改めて読み直すと面白いのがこの『「田中真紀子」研究』です。
今、「官僚の天下り問題」、「無駄な公共事業の廃止を含む事業仕分け」が急展開していますが、それらは全て田中角栄が完成させたシステムであることはこの本を読めばよくわかります。
この本は、戦後日本政治の検証本としても歴史的価値があるでしょう。
印象的だった部分を、一部紹介します。
真紀子は本質的にポリティシャンといえるレベルの人間ではない。TVの本格的政治討論番組に出てきて、時の政治問題について与野党の論客相手に丁々発止の議論ができるタイプかといったら、そうじゃないでしょう。ちょっと気のきいたセリフとか、感情的なコメントとかはポンポンと出せる人ですが、彼女が本格的な政策論争に加わっているところを見たことがない。要するにワイドショーに出てきて威勢よくしゃべりまくる元気がいいオバサン・タレントの部類ですよ。いってみれば、かつての野村沙知代程度の人間じゃないですか。
国内政治問題でも、一般の人はTVニュースでしか問題を知ろうとはしなくなっている。その結果、ニュースメディアの質がどんどん低下している。つまり、記者の質の低下がまず起きたのではなく、受け手の質の低下がまずあって、そのレベルに合わせて報道側もニュース報道の質を落としていったということだと思うんです。受け手の質の低下、記者の質の低下、報道の質の低下が順次起きて、いまは一種の低レベルの安定状態に入ってしまったのかも知れない。
鈴木宗男だけではなくて、あの時代から、自民党政治家のプロトタイプが角栄型になってしまったんですよ。いってみれば、80年代、90年代の日本の政治は角栄スクール(角栄学校)が日本の政治を牽引した時代というといいかもしれない。ちょうど、60年代から70年代はじめにかけての池田内閣時代、佐藤内閣時代を吉田スクール(吉田学校)が日本の政治を牽引した時代と総括できるようにね。
当時、吉田学校生たちが保守本流と呼ばれていたわけですが、最近は保守本流というと、むしろ、角栄の衣鉢をつぐ人々をさしていることが多い。(※中略)俗に角栄スクールの一期生といわれているのは、角栄が幹事長として采配を振るった最初の選挙、昭和44年当選組です。総理大臣になった羽田牧や、自由党総裁の小沢一郎をはじめとして、衆院副議長になった渡部恒三、綿貫民輔、それに梶山静六、石井一、奥田敬和、林義郎などの有力政治家たちが入ります。44年に三回目の当選を果たした橋本龍太郎も、橋本と同期の小渕恵三もずっと田中派におり、先輩格の角栄スクールの出身者といえます。竹下は角栄スクールの番頭格だったわけだし、細川も田中派時代が長く角栄に可愛がられていたから角栄スクールの外戚格といってもいいので、その二人を勘定に入れると、角栄スクールは合計5人の総理大臣を出したことになります。
この本に真紀子のことがところどころに書かれているからではなく、真紀子の精神形成に最も大きな影響を与えたものが、父親の存在であると同時に、父親と佐藤昭の関係であったということがあるからです。真紀子と佐藤昭は、角栄をはさんで独特の三角関係にあったわけです。二人の女性の戦いは角栄が病に倒れ、目白の田中邸で角栄が真紀子の完全庇護下におかれ、佐藤昭との接触がいっさい断ち切られてもつづくんです。実はこの『私の田中角栄日記』の出版にしても、その戦いの一部といえないこともない。真紀子と旧田中派の人々との戦いにも、この関係が強い影を落としています。
角栄と真紀子という独特のパーソナリティを持つ二人の政治家を理解しようと思ったら、それを政治的なコンテクストで見ていただけでは何もわかりません。情念の部分を見ないとわからない側面があるということです。最近、政治記者を長くやって、日本の政治権力抗争の現場をつぶさに見てきた渡邉恒雄(読売新聞社長)の『渡邉恒雄回顧録』(中央公論社)を読んでいたら、こんなくだりにぶつかって、全くそうだと思いました。
《渡邉 僕は日本の戦後史の流れを見たとき、イデオロギーや外交戦略といった政策は、必ずしも絶対的なものではなく、人間の権力闘争のなかでの、憎悪、嫉妬、そしてコンプレックスといったもののほうが、大きく作用してきたと思うんだ》
《幹事長となった田中は、まさに水を得た魚のようだった。おそらく彼の生涯の中でいちばん生き生きとしていた時代といっていい。年齢的にも男として脂が乗り切り、行動のひとつひとつが自信に満ち溢れていた。日一日と党内の人気と信頼が高まっていくのが、側にいて手にとるようにわかる。名実ともに実力者となったのだ。<略>》
政策という政策はすべてその下を通る。党の方針を出す。大小選挙の指揮をし、資金面の手当てもある。ありとあらゆる陳情が朝から晩までひっきりなし。
46都道府県の知事から県会議員まで、すべて幹事長のもとへやってくる。あっという間に全国中にものすごい人脈が出来上がった。<略>
もちろん、そういった地方の問題や、選挙のことのみならず、中央の人事、外交、内政にかかわる国の重要課題も時を移さずに処理していく。霞ヶ関の官僚たちが、ふろしきに包んだ書類を提げて事務所にやってくる。田中に説明しに来るのではなく、指示を仰ぎに日参するのだ。
「政治の醍醐味は総理になることではない。政権政党の幹事長になることだ」
田中のオヤジにそう言われたと、後年小沢イッちゃん(注・小沢一郎のこと)が言っていたけれど、私もそう思う。
だから、無理して総理にならなくても、名幹事長として後世に名が残ればいいじゃないのと言ったのだ。》
上記のコメントを見ると、今の日本の政治にも田中角栄は生き続けていると言っていいかも知れません。
この本は日本の政治を深く、多面的に理解する上で最高の資料だと思います。
日本の「政治」を理解する上で私のバイブル的存在。
自民党政治のルーツ
「田中真紀子」研究
田中角栄研究(視点がやさしい?)
角栄と真紀子、父と子、人々の住む世界。
なかなか興味深いが・・・・
極端に視野を狭くしたメガネでみた田中像
偏りすぎ
真実は時間が導き出すか
見るものの「虚」「実」
著者/立花 隆 出版社名/文藝春秋 1,575円
◆目次
Ⅰ
田中真紀子問題に発言しなかった理由
ワイドショー化する政治の問題
TVはどこまで真実を伝えているのか
ワンバイト化する日本の政治
角栄と真紀子の共通点
「批判を否定するだけで証拠は出さない」
Ⅱ
角栄の二つの遺伝子問題
自民党がいまだに引きずる角栄型政治
真紀子が引き継いだ角栄の“生物学的遺伝子”
真紀子の何が問題なのか?
角栄・真紀子親子の異常な人気ぶり
「越山会の女王」佐藤昭秘書
“汚れ役”に徹し実力者に
金権腐敗は角栄以前にも存在した
真紀子は典型的なファザコン
破滅的なアルコールへの傾斜
竹下、門前払い事件
脳梗塞で倒れた角栄を完全管理下に
角栄の名をかたった真紀子
権力闘争で竹下に完敗
角栄の病状が相当重かった証拠
真紀子に欠けている「人間の情」
角栄は悲劇の政治家なのか
真紀子の十メートル以内に近づくと火傷する
「人間には、敵か、家族か、使用人の三種類しかいない」
Ⅲ
巧みに官僚を支配するメリット
角栄こそが官僚に近い政治家だった
「役人操縦術の家元」
真紀子がやった、官僚が最もいやがる行為
政治における借りと貸しの清算
創価学会言論弾圧事件
「欲望のブローカー」としての角栄の才能
真紀子に欠けている、利害の調整能力
真紀子は現場指揮官レベルの人間
Ⅳ
対立者間に妥協点を見つけ出す能力
日米繊維交渉をまとめた角栄の奇策
損失補填の大盤振舞
角栄が生み出した「札束でほっぺた」方式
ウルグアイ・ラウンドの対策費、6兆円!
Ⅴ
角栄直系最大族議員は「道路族」
「自分の利権に直結する」法律だけを作り出す
土建屋による、土建屋のための政治
利をむさぼる政官業の三極癒着
「列島改造ブーム」と「銀行不良債権問題」
国土計画が日本を土建国家に変えた
「口利き政治」「利権政治」こそが角栄の遺伝子
Ⅵ
闘う集団「田中派秘書軍団」の凄さ
秘書による不祥事頻発時代の始まり
大平政権のはじめと終わりで、田中派秘書軍団大活躍
真紀子と佐藤昭が奪い合った「角栄の心」
角栄の意志を萎えさせた真紀子の強力な意志
腹違いの兄弟と妹の存在
佐藤昭との手に手をたずさえた二人三脚
角栄が愛した「国会議員」と「女性秘書」の映画
「全部佐藤のところへ行ってくれ」
真紀子と佐藤昭の格の違い
不可欠な政治資金のクリーニング装置
天下を取ったらカネは向こうからやってくる
佐藤昭との関係を切れ!
金庫番としての佐藤昭の重要な役割
帳簿の中だけに存在した政治資金団体
田中事務所の鍵の所有権を巡る争い
早坂茂三秘書への絶縁表明
角栄周辺のすべてが壊れていく
「先代に仕える人たちの心情が理解できない」
オヤジの頭をフライパンでポカリ
Ⅶ
角栄が持っていた四つの金庫
事務所の解散と「お中元」の関係
巨大な土蔵を包み込んだ作りの田中邸
空っぽだった自民党の金庫
越山会の厚い扉のついた旧式金庫
政界の金の話はいずれバレる
親分から金をもらい、子分に金をやる
日本に昔からある「金権政治」
田中角栄は金権政治の完成者
彼は一種のオカネ中毒症
公共事業の口利き料2パーセント
総裁選に使った総額は80億
実はあった5つ目の金庫
Ⅷ
明らかになった驚くべきカネの流れ
不動産取引ユーレイ企業
田中金脈問題の積極論と消滅論
最初はお歳暮作戦
小佐野に新星企業を売る意味
金大中拉致事件の秘密の示談金
この人は金を積まれれば国も売る
金脈秘書の中枢・榎本という男
角栄の金を語りはじめたわけ
田中系ユーレイ企業群
真紀子は忠誠心すら悪意に変える
早坂秘書が語り始めた
Ⅸ
なぜか絶えない角栄擁護論
榎本三恵子の「ハチの一刺し証言」
崩せなかった笠原メモの信用性
ロッキード事件はアメリカの謀略?
ガセネタのもとはどこにあったか
Ⅹ
佐藤昭は連絡役
二階堂擁立は角栄がつぶした
角栄と総評幹部の裏取引
「おやじが荒れている。涙もろくなった」
「真紀子さんは気が高ぶっている」
真紀子にとって許しがたい存在
怪電話の正体は誰か?
ⅩI
真紀子の政治家としての未来
角栄の娘としての強み
真紀子は新しいタイプの政治家だ
足りないのは官僚を使う視野と認識
チームプレーのできない人
彼女が日本政治の真の改革者になるには?
“知の巨人”立花隆氏の著作の中でも、民主党政権に変わった今、改めて読み直すと面白いのがこの『「田中真紀子」研究』です。
今、「官僚の天下り問題」、「無駄な公共事業の廃止を含む事業仕分け」が急展開していますが、それらは全て田中角栄が完成させたシステムであることはこの本を読めばよくわかります。
この本は、戦後日本政治の検証本としても歴史的価値があるでしょう。
印象的だった部分を、一部紹介します。
真紀子は本質的にポリティシャンといえるレベルの人間ではない。TVの本格的政治討論番組に出てきて、時の政治問題について与野党の論客相手に丁々発止の議論ができるタイプかといったら、そうじゃないでしょう。ちょっと気のきいたセリフとか、感情的なコメントとかはポンポンと出せる人ですが、彼女が本格的な政策論争に加わっているところを見たことがない。要するにワイドショーに出てきて威勢よくしゃべりまくる元気がいいオバサン・タレントの部類ですよ。いってみれば、かつての野村沙知代程度の人間じゃないですか。
国内政治問題でも、一般の人はTVニュースでしか問題を知ろうとはしなくなっている。その結果、ニュースメディアの質がどんどん低下している。つまり、記者の質の低下がまず起きたのではなく、受け手の質の低下がまずあって、そのレベルに合わせて報道側もニュース報道の質を落としていったということだと思うんです。受け手の質の低下、記者の質の低下、報道の質の低下が順次起きて、いまは一種の低レベルの安定状態に入ってしまったのかも知れない。
鈴木宗男だけではなくて、あの時代から、自民党政治家のプロトタイプが角栄型になってしまったんですよ。いってみれば、80年代、90年代の日本の政治は角栄スクール(角栄学校)が日本の政治を牽引した時代というといいかもしれない。ちょうど、60年代から70年代はじめにかけての池田内閣時代、佐藤内閣時代を吉田スクール(吉田学校)が日本の政治を牽引した時代と総括できるようにね。
当時、吉田学校生たちが保守本流と呼ばれていたわけですが、最近は保守本流というと、むしろ、角栄の衣鉢をつぐ人々をさしていることが多い。(※中略)俗に角栄スクールの一期生といわれているのは、角栄が幹事長として采配を振るった最初の選挙、昭和44年当選組です。総理大臣になった羽田牧や、自由党総裁の小沢一郎をはじめとして、衆院副議長になった渡部恒三、綿貫民輔、それに梶山静六、石井一、奥田敬和、林義郎などの有力政治家たちが入ります。44年に三回目の当選を果たした橋本龍太郎も、橋本と同期の小渕恵三もずっと田中派におり、先輩格の角栄スクールの出身者といえます。竹下は角栄スクールの番頭格だったわけだし、細川も田中派時代が長く角栄に可愛がられていたから角栄スクールの外戚格といってもいいので、その二人を勘定に入れると、角栄スクールは合計5人の総理大臣を出したことになります。
この本に真紀子のことがところどころに書かれているからではなく、真紀子の精神形成に最も大きな影響を与えたものが、父親の存在であると同時に、父親と佐藤昭の関係であったということがあるからです。真紀子と佐藤昭は、角栄をはさんで独特の三角関係にあったわけです。二人の女性の戦いは角栄が病に倒れ、目白の田中邸で角栄が真紀子の完全庇護下におかれ、佐藤昭との接触がいっさい断ち切られてもつづくんです。実はこの『私の田中角栄日記』の出版にしても、その戦いの一部といえないこともない。真紀子と旧田中派の人々との戦いにも、この関係が強い影を落としています。
角栄と真紀子という独特のパーソナリティを持つ二人の政治家を理解しようと思ったら、それを政治的なコンテクストで見ていただけでは何もわかりません。情念の部分を見ないとわからない側面があるということです。最近、政治記者を長くやって、日本の政治権力抗争の現場をつぶさに見てきた渡邉恒雄(読売新聞社長)の『渡邉恒雄回顧録』(中央公論社)を読んでいたら、こんなくだりにぶつかって、全くそうだと思いました。
《渡邉 僕は日本の戦後史の流れを見たとき、イデオロギーや外交戦略といった政策は、必ずしも絶対的なものではなく、人間の権力闘争のなかでの、憎悪、嫉妬、そしてコンプレックスといったもののほうが、大きく作用してきたと思うんだ》
《幹事長となった田中は、まさに水を得た魚のようだった。おそらく彼の生涯の中でいちばん生き生きとしていた時代といっていい。年齢的にも男として脂が乗り切り、行動のひとつひとつが自信に満ち溢れていた。日一日と党内の人気と信頼が高まっていくのが、側にいて手にとるようにわかる。名実ともに実力者となったのだ。<略>》
政策という政策はすべてその下を通る。党の方針を出す。大小選挙の指揮をし、資金面の手当てもある。ありとあらゆる陳情が朝から晩までひっきりなし。
46都道府県の知事から県会議員まで、すべて幹事長のもとへやってくる。あっという間に全国中にものすごい人脈が出来上がった。<略>
もちろん、そういった地方の問題や、選挙のことのみならず、中央の人事、外交、内政にかかわる国の重要課題も時を移さずに処理していく。霞ヶ関の官僚たちが、ふろしきに包んだ書類を提げて事務所にやってくる。田中に説明しに来るのではなく、指示を仰ぎに日参するのだ。
「政治の醍醐味は総理になることではない。政権政党の幹事長になることだ」
田中のオヤジにそう言われたと、後年小沢イッちゃん(注・小沢一郎のこと)が言っていたけれど、私もそう思う。
だから、無理して総理にならなくても、名幹事長として後世に名が残ればいいじゃないのと言ったのだ。》
上記のコメントを見ると、今の日本の政治にも田中角栄は生き続けていると言っていいかも知れません。
この本は日本の政治を深く、多面的に理解する上で最高の資料だと思います。
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